婚約者が勇者の生まれ変わりだと大変です。

しとしと

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アルフレッド、ちょっと不安になる

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 月日は流れ、アルフレッドは16歳、ラウーラは15歳になった。

「今度はレアストロ地方か……」
「森に面している畑、特に収穫間近のテール畑で被害が相次いでいる様です」

 執務室で側近からの報告を読むアルフレッドの表情は浮かない。こうして政務に携わるようになる少し前から、魔物の発生と被害がじわじわと増えてきている。
 勇者グラフが魔王を倒してから数百年。ごく小規模な魔物の発生はあれど、陳情が上がるほどの魔物の発生は稀で、それは数年に一度あるかないかという程度であった。それが最近では一年に数件ほどに増えている。

 報告を聞きながら、アルフレッドは別の書類に目を通すとある単語に気づく。
「チェリーゼ地方で「黒い鳥」」
「……はい。住民が見たと」

 魔物被害が出るようになってから時折目撃されている人物がいる。黒いマントを目深にかぶっている姿が、鳥の様だとその名がついた。剣士。単独で活動している。ということしか判っていない。

 魔物が発生するようになったのはその人物が何か関わっているのではないか。と一時期噂されることもあったが、魔物に襲われそうになった住民を何人も助けていている為、その線は薄くなった。とはいえ、褒賞を出すと言っても名乗り出さないことから訳ありの、近頃ではあまり見かけなくなった冒険者という人種だろうと言われている。

 正体不明の、しかし颯爽と現れては魔物を屠り人々を救うその黒い鳥に、民衆が興味を唆られないわけがなかった。

「最近では、「黒い鳥」のことを影の勇者と呼ぶものも居るそうだな」
「………ッそれは。はい」

 勇者の称号はこの国では何よりも重要である。

「報告書を読む限り、レアストロ地方の魔物は近くの森に巣食っている可能性が高い。私が中心となって討伐を行う」

 魔物被害が発生すると王国騎士団で討伐隊を組む事はあったが、王族が自ら参加する事は昨今ではかなり珍しいことである。

「魔物被害が増えて民衆の中にも不安や不満を感じるものが増えてきている。私が直接討伐に立つ事で、それらを払拭したいと思う」

 王族として、勇者グラフの生まれ変わりとして、民衆の期待に応える責務がアルフレッドにはあった。

「勇者グラフの生まれ変わりであるアルフレッド殿下が先頭を切って討伐に加わるとなれば、民衆も安心することでしょう」
「おお。殿下がいらっしゃれば百人力ですな」
「うむ。しっかり務めるように」
 側近や大臣達、そして父上からも言葉を貰い、アルフレッドの初陣が決まった。

 これまで鍛錬は続けてきたし、狩りなどは経験したことがあるが、魔物相手の実戦は初めてだった。

 慌ただしく支度を整え、日が陰ってきたころ、中庭の東家でラウーラに討伐に向かう事を告げた。彼女は驚きつつも静かに受け止めた。
「いつ立たれるのですか?」
「明日には」

「そう、ですか……随分と……いえなるべく早い方が良いですものね」
俯いたラウーラをそっと抱きしめる。大丈夫だと、言うべきなのは分かっていたが言葉が出てこなかった。
「殿下」
ラウーラがすっと顔を上げ、力強い瞳でアルフレッドを見据えた。
「殿下はこれまで毎日毎日、とても努力を重ねていらっしゃいました。ですので落ち着いて対処されれば、きっと成果を得られると思います。大丈夫です。ご無事とご健闘を祈っております」

 勇者グラフの生まれ変わりならば、これくらいできて当然。という空気の中、ラウーラに大丈夫だと告げられ、不思議と不安感が消えるのをアルフレッドは感じた。

「うん。ありがとうラウーラ」
 固まっていた表情を緩めると、ひとしきりラウーラを抱きしめ、翌朝アルフレッドはレアストロ地方に向けて発った。
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