6 / 26
アルフレッド、ちょっと不安になる
しおりを挟む
月日は流れ、アルフレッドは16歳、ラウーラは15歳になった。
「今度はレアストロ地方か……」
「森に面している畑、特に収穫間近のテール畑で被害が相次いでいる様です」
執務室で側近からの報告を読むアルフレッドの表情は浮かない。こうして政務に携わるようになる少し前から、魔物の発生と被害がじわじわと増えてきている。
勇者グラフが魔王を倒してから数百年。ごく小規模な魔物の発生はあれど、陳情が上がるほどの魔物の発生は稀で、それは数年に一度あるかないかという程度であった。それが最近では一年に数件ほどに増えている。
報告を聞きながら、アルフレッドは別の書類に目を通すとある単語に気づく。
「チェリーゼ地方で「黒い鳥」」
「……はい。住民が見たと」
魔物被害が出るようになってから時折目撃されている人物がいる。黒いマントを目深にかぶっている姿が、鳥の様だとその名がついた。剣士。単独で活動している。ということしか判っていない。
魔物が発生するようになったのはその人物が何か関わっているのではないか。と一時期噂されることもあったが、魔物に襲われそうになった住民を何人も助けていている為、その線は薄くなった。とはいえ、褒賞を出すと言っても名乗り出さないことから訳ありの、近頃ではあまり見かけなくなった冒険者という人種だろうと言われている。
正体不明の、しかし颯爽と現れては魔物を屠り人々を救うその黒い鳥に、民衆が興味を唆られないわけがなかった。
「最近では、「黒い鳥」のことを影の勇者と呼ぶものも居るそうだな」
「………ッそれは。はい」
勇者の称号はこの国では何よりも重要である。
「報告書を読む限り、レアストロ地方の魔物は近くの森に巣食っている可能性が高い。私が中心となって討伐を行う」
魔物被害が発生すると王国騎士団で討伐隊を組む事はあったが、王族が自ら参加する事は昨今ではかなり珍しいことである。
「魔物被害が増えて民衆の中にも不安や不満を感じるものが増えてきている。私が直接討伐に立つ事で、それらを払拭したいと思う」
王族として、勇者グラフの生まれ変わりとして、民衆の期待に応える責務がアルフレッドにはあった。
「勇者グラフの生まれ変わりであるアルフレッド殿下が先頭を切って討伐に加わるとなれば、民衆も安心することでしょう」
「おお。殿下がいらっしゃれば百人力ですな」
「うむ。しっかり務めるように」
側近や大臣達、そして父上からも言葉を貰い、アルフレッドの初陣が決まった。
これまで鍛錬は続けてきたし、狩りなどは経験したことがあるが、魔物相手の実戦は初めてだった。
慌ただしく支度を整え、日が陰ってきたころ、中庭の東家でラウーラに討伐に向かう事を告げた。彼女は驚きつつも静かに受け止めた。
「いつ立たれるのですか?」
「明日には」
「そう、ですか……随分と……いえなるべく早い方が良いですものね」
俯いたラウーラをそっと抱きしめる。大丈夫だと、言うべきなのは分かっていたが言葉が出てこなかった。
「殿下」
ラウーラがすっと顔を上げ、力強い瞳でアルフレッドを見据えた。
「殿下はこれまで毎日毎日、とても努力を重ねていらっしゃいました。ですので落ち着いて対処されれば、きっと成果を得られると思います。大丈夫です。ご無事とご健闘を祈っております」
勇者グラフの生まれ変わりならば、これくらいできて当然。という空気の中、ラウーラに大丈夫だと告げられ、不思議と不安感が消えるのをアルフレッドは感じた。
「うん。ありがとうラウーラ」
固まっていた表情を緩めると、ひとしきりラウーラを抱きしめ、翌朝アルフレッドはレアストロ地方に向けて発った。
「今度はレアストロ地方か……」
「森に面している畑、特に収穫間近のテール畑で被害が相次いでいる様です」
執務室で側近からの報告を読むアルフレッドの表情は浮かない。こうして政務に携わるようになる少し前から、魔物の発生と被害がじわじわと増えてきている。
勇者グラフが魔王を倒してから数百年。ごく小規模な魔物の発生はあれど、陳情が上がるほどの魔物の発生は稀で、それは数年に一度あるかないかという程度であった。それが最近では一年に数件ほどに増えている。
報告を聞きながら、アルフレッドは別の書類に目を通すとある単語に気づく。
「チェリーゼ地方で「黒い鳥」」
「……はい。住民が見たと」
魔物被害が出るようになってから時折目撃されている人物がいる。黒いマントを目深にかぶっている姿が、鳥の様だとその名がついた。剣士。単独で活動している。ということしか判っていない。
魔物が発生するようになったのはその人物が何か関わっているのではないか。と一時期噂されることもあったが、魔物に襲われそうになった住民を何人も助けていている為、その線は薄くなった。とはいえ、褒賞を出すと言っても名乗り出さないことから訳ありの、近頃ではあまり見かけなくなった冒険者という人種だろうと言われている。
正体不明の、しかし颯爽と現れては魔物を屠り人々を救うその黒い鳥に、民衆が興味を唆られないわけがなかった。
「最近では、「黒い鳥」のことを影の勇者と呼ぶものも居るそうだな」
「………ッそれは。はい」
勇者の称号はこの国では何よりも重要である。
「報告書を読む限り、レアストロ地方の魔物は近くの森に巣食っている可能性が高い。私が中心となって討伐を行う」
魔物被害が発生すると王国騎士団で討伐隊を組む事はあったが、王族が自ら参加する事は昨今ではかなり珍しいことである。
「魔物被害が増えて民衆の中にも不安や不満を感じるものが増えてきている。私が直接討伐に立つ事で、それらを払拭したいと思う」
王族として、勇者グラフの生まれ変わりとして、民衆の期待に応える責務がアルフレッドにはあった。
「勇者グラフの生まれ変わりであるアルフレッド殿下が先頭を切って討伐に加わるとなれば、民衆も安心することでしょう」
「おお。殿下がいらっしゃれば百人力ですな」
「うむ。しっかり務めるように」
側近や大臣達、そして父上からも言葉を貰い、アルフレッドの初陣が決まった。
これまで鍛錬は続けてきたし、狩りなどは経験したことがあるが、魔物相手の実戦は初めてだった。
慌ただしく支度を整え、日が陰ってきたころ、中庭の東家でラウーラに討伐に向かう事を告げた。彼女は驚きつつも静かに受け止めた。
「いつ立たれるのですか?」
「明日には」
「そう、ですか……随分と……いえなるべく早い方が良いですものね」
俯いたラウーラをそっと抱きしめる。大丈夫だと、言うべきなのは分かっていたが言葉が出てこなかった。
「殿下」
ラウーラがすっと顔を上げ、力強い瞳でアルフレッドを見据えた。
「殿下はこれまで毎日毎日、とても努力を重ねていらっしゃいました。ですので落ち着いて対処されれば、きっと成果を得られると思います。大丈夫です。ご無事とご健闘を祈っております」
勇者グラフの生まれ変わりならば、これくらいできて当然。という空気の中、ラウーラに大丈夫だと告げられ、不思議と不安感が消えるのをアルフレッドは感じた。
「うん。ありがとうラウーラ」
固まっていた表情を緩めると、ひとしきりラウーラを抱きしめ、翌朝アルフレッドはレアストロ地方に向けて発った。
0
あなたにおすすめの小説
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる