婚約者が勇者の生まれ変わりだと大変です。

しとしと

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アルフレッド、思い悩む。

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 アルフレッドも初めは、ラウーラによく似た人物では、と考えた。彼女に歳の近い兄弟がいればまず疑っただろう。しかしそんな存在は聞いたことがない。いやもしかしたら公表されていない庶子という事も。

 あの夜、オオヤミクイの攻撃から救ってくれた「黒い鳥」を間近に見て、アルフレッドは混乱した。思っていたよりも小柄だった、など些細な事だ。その姿に、愛しい婚約者の姿が被ったのだ。

「黒い鳥」の服装は男物だったし、薄汚れていてまさに冒険者然としていた。フードを深く被っで髪色も顔も見えない。第一あのおっとりふんわり優しく笑う……何かとすぐ寝込む、か弱いラウーラが、魔物の攻撃を避けつつ自分を抱えて高く飛ぶなど。まさか、そんな。

 そう思いながらも「黒い鳥」が差し出すポーションを飲み、回復の術をかけて貰ってしまった。「黒い鳥」の言う通り、通常であれば愚鈍で危険な行為だが、どうしても警戒心が湧かなかった。

 そうして回復の術をかけ終わった後。困惑と激痛の余韻で動けなくなり蹲ったアルフレッドの背中を、「黒い鳥」は何も言わず、当然のように優しくさすった。(ああ)その手に確信が胸にストンと落ちる。

(……ラウーラだ)

「黒い鳥」のフードには認識阻害の魔術式が刺繍されていた。犯罪防止のために、通常使用されるそれは王族には効かない仕様になっている。が、その事実はごく一部の者しか知らされていない。もちろんラウーラも知らないだろう。

 それでも「黒い鳥」……ラウーラは、一応は警戒しているのか、妙に低めの声を出したり口調を変えようとして……いる様でいて、ちょくちょく元に戻っていた。
(……可愛いな……)

 そしてひとりでオオヤミクイを討伐に行くという彼女について行けば、魔物討伐に関してまるで師と弟子と言ったやりとりとなる。
 以前から博識だとは思っていたが、彼女は明らかにその域を超えているように感じられた。例えばそう、まるでもう何度も見て、経験してきたかのような物言い、だがそれでいてオオヤミクイの尾に振り回されもする。

 そのチグハグさに困惑しながらも、ラウーラと共にオオヤミクイを討伐し瘴気溜まりを消滅させる。
 そして去り際にさも重要な事の様に「かっこよかった!」などと言い放って、ラウーラは夜の森に消えていった。唖然とするアルフレッド残して。


 正直、帰路の事はあまり記憶にない。

 自分……王族に取り入ろうと?脅し?乗っ取り?彼女ではなくサヴオレンス公爵が何か企んでいるのか?
 思い返してみればサヴオレンス公爵は、当時誰もが切望したアルフレッドの婚約者に、ラウーラがなる事に否定的だった。

 ではラウーラが主犯なのか。何の?
 9歳の時から、一緒に過ごしてきた彼女が。
 ありえない。でも、だったら何故こんな事を。そうだ。公爵とは別に黒幕がいるのかも。


 帰城してからは、父上ーー陛下への報告に始まり、事後処理に追われた。
 同時に改めて秘密裏にサヴオレンス公爵家を調べさせたがこれと言って不審な点は見つけられなかった。

 ラウーラの魔術師の師であるメキジャも、優秀なのは確かだが、魔術師らしくと言うだけで、特筆すべき点はない。

 ラウーラからは早々に、無事帰還した事を喜ぶ手紙が届いていた。それにいつも通りの返事をし、アルフレッドは黙々と仕事をこなした。こなしながらも、頭の片隅からラウーラのことが消えることはない。浮かぶのは優しく笑う姿ばかりで、そんな彼女を疑わなければならないアルフレッドの心はひどく軋み悲鳴を上げた。
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