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第十一章『嵐のターミナル』

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いっぽうハルトたちは、

迫りくる火の玉や、パイプ状に伸びるチューブロードを避けながら、

ターミナルの第十六層へと入った。

手前から奥までひたすら離陸ポートが続くのが見える。

だが、ここでもごく少数による激しい戦闘があった。

モニカさんは、オニ飛竜どもの目に留まるまいと、

離陸ポートの上をフルスロットルでかけぬけた。


「モニカさん、どこにむかうの!?」


「リフターは、非常事態で全部止まってるだろうから使えない。

だから、オハコビ竜がタワーへの移動に使う『垂直飛行ホール』を通るの!

ほら、あそこ!  北向きポートの手前にある、円形の広場の上!」


モニカさんが指さす通り、天井に大きな丸い穴が開いた広い空間がある。

リフターの搭乗スペースや休憩所を設けた場所だ。

天井穴の前では、タワーへの侵攻を食い止めようと、

十頭以上の警備部員がオニ飛竜どもと取っ組みあっていた。

モニカさんは、みんなが食い止めている間に、

天井から注ぐ外の鈍い光にむかって飛んだ――が、その時だ。


  ドガァン!!


スピーダーの後部に大きな何かがあたり、激しい衝撃が車内を襲った。

ハルトたちは体をガンガンと前後にゆさぶられた。

後方からの衝撃だったのでエアバッグは作動しなかった。

しかし、事態はのっぴきならないことになった。


『――危険。危険。エンジンに損傷あり!  エンジンに損傷あり!』


やかましい警告ブザーを鳴らしながら、スピーダーがパニクったように叫んだ。


「わああっ、モニカさんっ!  ついっ、墜落しちゃうよ!」


「これまさかっ、敵の火の玉が当たったの!?」


攻撃を受けたスピーダーは、左右にグラグラと嫌な揺れ方をしながら飛んでいく。


「心配しないで、ハルトくん!

この程度ならタワー入り口までギリギリ行けるよ!

かなりふらつくけどガマンして!」


モニカさんは、元プロレーサーの矜持にかけてやりきる気力満々だった。

だが、もはや飛んでいるのが不思議なくらいだ。

スピーダーは黒い煙の尾を引きながら、

警備部員たちの戦いの現場のど真ん中を通過し、ぐんぐんと上昇した。

戦っていた者たちはみんな、何事かと目を丸くして上を見上げた……

一台のマシンが狂ったロケットのように天を目指すのが見えるだけだった。


「モ、モニカさあんっ、ああ、壁にぶつかる!  うわっ、わわあぁ!」


「お願いーーーーっ!」


モニカさんは必死に祈るように叫んだ。

はるか上のガラス天井のむこうに、暗い雲の渦が見える。嵐がやってきたのだ――。


穴をぬけた。

ハルトが目にしたのは、上空を巨大なガラスドームでおおわれた最上層――

まるで巨大庭園のような場所だった。中央の公道の左右に、

緑の芝生とずらりならぶ豪華なトピアリー、噴水や美しい街灯……。


その先に、真っ暗な嵐の空にどんよりと浮かび上がるサポートタワーがあった。

ガラスドームという固い風船を無理やり突きやぶったような光景。

青空の下とは打って変わって、とても恐ろしげだ。このターミナルのてっぺんに、

どうやったらあんな巨大な建物を建てられるのだろう――

ハルトが何気なく考えていた時だ。


『――飛行不能。飛行不能。ドラゴンスピーダー七号機、墜落します!』


マシンが飛行不能の警告をうったえながら、

公道の真上へと高度を下げていったのだ。


「おっ、落ちるーーっ!」


  ドガガガガガァァアアア!!


マシンは壊滅的な音を立てながら不時着した。

やがて完全に動きが停止するやいなや、

ハルトとモニカさんは頭上に開いた窓からなんとか外にまろびでた。

モニカさんはしっかり自分のタブレットを持ちだしていた。


ここまでハルトたちを守ってくれたスピーダーは、

後部のエンジンをやられて使い物にはならなくなっていた。

もくもくとお尻から煙を上げ、精魂尽き果てている。


「ドラゴンスピーダー、弁償代は高くつくよね……」


モニカさんは目の前の不都合を嘆きながら、とりあえずまわりを見回していた。

タワーのまわりには人気がまるでなく、静かなものだった。

下層ではあんなに戦いがくり広げられているというのに、

ここはまるで、戦いの騒動から一線を引かれた安全地帯のようだ。


ハルトはタワー目がけて走り出していた。

居場所の検討なんてついていないのに、無意識のうちに走り出していた。

やっと地に足がついた喜びゆえなのか。

それとも、スズカのところへ行きたいという一途の欲求のためか……。


「ああっ、一人で行っちゃダメだよハルトくん!」


モニカさんは、あわててその後を追うのだった。
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