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パワハラ男には、言い分があるのだそうだ
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「ああ、ダンテの所にいる外国のお客さんが来ていると聞いていましたが、君みたいな美しい人だったんですね。ダンテも水臭いな、こんな美しい人を私に紹介しないなど、後でしっかり訳を聞いておかないとな」
ミシェルが、自分は外国人で、この美しい景色ははじめてだったので、感動していたのだとそう告げると、男は長いまつ毛に縁どられた黒い水分の多い瞳を輝かせて、そう言った。
(異世界ってどうなってんの!ダンテと同じくらいのイケメンが、この世に、他にもいるなんて、聞いてないわ!)
ミシェルはもう、身もだえしてしまう。
ダンテにの美貌には、中身がなんだだと知っている事もあり、随分慣れては来ているのだが、やはりふとした拍子にダンテの指先に触れてしまったり、ダンテのその美しい紫色の瞳に真っ直ぐと見つめられてしまったりすると、一々電撃が落ちた気分になるほどには、かなりの迫力のあるイケメンなのだ。
そんな人にダメージを与えるほどのイケメンは、たとえ異世界であろうと、ダンテの他にはいないだろうと、そう思っていた矢先だ。
だがこの目の前の男はどうだ。
本当に、美術館に陳列されている、大理石でできた彫刻のように無駄の一筋もなく美しい。
黒目の配分の実に多い、黒曜石のような瞳、黒くうねる、癖の強い髪、抜けるようなきめ細やかな白い肌。服の上からでも隠しきれていない鍛え抜かれた体。ダンテと同じくらいだろうか、かなりの高身長で、顔の造形も体の造形も、完璧に左右対称だ。
こんな早朝だ。
その癖の強い黒髪は一つに乱暴に結えられていて、着崩した白いシャツの上のボタンはいくつも開いているまま、おそらく人に会うことを想定していない、ラフな格好。
要するにミシェルの装いと、ほとんど変わらない適当な装いなのだが、この緩さによってかえって色気ダダ漏れだ。
足元も、履き心地の良さそうな靴を素足で引っ掛けているが、軽く覗いている踵の白さが実に眩しい。
あまりに美しい姿をしているので、ジロジロ見つめてしまう自分をなんとか諌めるために、とりあえず美術の時間に習った美の黄金律の比率を頭の奥からひねりだしてきて、この男の顔の造形にあてはめてみるのだが、まあ、本当に、笑ってしまうくらい美の黄金律のそのままの寸法ぴったりだ。
まいった。
これはまいった。白旗降参だ。少女漫画の登場人物ではないか。
急に近くであまりに美しい男を前にすると、人はどのように振る舞っていたのか思い出す事もできなくなるらしい。
ミシェルは意味もなくヒジをかきむしったり、はめてもいない指輪を触ったりと、落ち着きなく完全に挙動不審だ。
ミシェルの行動は、国宝級イケメンを急に予告も目にした為の挙動不審なのだが、この男は別の解釈をしたらしい。
男はミシェルの前に片肘をついて、深く頭を下げ、ミシェルの爪先に、その完璧に整った唇を押し当てて、言った。
「ああ、私とした事が、名乗りもせず、大変失礼を。私の名前はオデュッセイ。そこの川のほとりの館に住んでいて、ダンテとは古い友人です。共通の知人から、ダンテが珍い事に館に外国からの客人を招いていると聞いていたんですよ。さあ美しいお嬢さん、どうぞその名を、教えてください」
そう言って川のほとりの丘にある、まるで小ぶりの城のような格調高い、大きな館を指差した。
どこからどう考えても上位貴族のこのイケメンの名前は、オデュッセイ、というらしい。
(イケメンは名前までイケメンなのね・・)
「ミ、ミシェルと・・申します」
それだけ、なんとか捻り出した。
ミシェルが、自分は外国人で、この美しい景色ははじめてだったので、感動していたのだとそう告げると、男は長いまつ毛に縁どられた黒い水分の多い瞳を輝かせて、そう言った。
(異世界ってどうなってんの!ダンテと同じくらいのイケメンが、この世に、他にもいるなんて、聞いてないわ!)
ミシェルはもう、身もだえしてしまう。
ダンテにの美貌には、中身がなんだだと知っている事もあり、随分慣れては来ているのだが、やはりふとした拍子にダンテの指先に触れてしまったり、ダンテのその美しい紫色の瞳に真っ直ぐと見つめられてしまったりすると、一々電撃が落ちた気分になるほどには、かなりの迫力のあるイケメンなのだ。
そんな人にダメージを与えるほどのイケメンは、たとえ異世界であろうと、ダンテの他にはいないだろうと、そう思っていた矢先だ。
だがこの目の前の男はどうだ。
本当に、美術館に陳列されている、大理石でできた彫刻のように無駄の一筋もなく美しい。
黒目の配分の実に多い、黒曜石のような瞳、黒くうねる、癖の強い髪、抜けるようなきめ細やかな白い肌。服の上からでも隠しきれていない鍛え抜かれた体。ダンテと同じくらいだろうか、かなりの高身長で、顔の造形も体の造形も、完璧に左右対称だ。
こんな早朝だ。
その癖の強い黒髪は一つに乱暴に結えられていて、着崩した白いシャツの上のボタンはいくつも開いているまま、おそらく人に会うことを想定していない、ラフな格好。
要するにミシェルの装いと、ほとんど変わらない適当な装いなのだが、この緩さによってかえって色気ダダ漏れだ。
足元も、履き心地の良さそうな靴を素足で引っ掛けているが、軽く覗いている踵の白さが実に眩しい。
あまりに美しい姿をしているので、ジロジロ見つめてしまう自分をなんとか諌めるために、とりあえず美術の時間に習った美の黄金律の比率を頭の奥からひねりだしてきて、この男の顔の造形にあてはめてみるのだが、まあ、本当に、笑ってしまうくらい美の黄金律のそのままの寸法ぴったりだ。
まいった。
これはまいった。白旗降参だ。少女漫画の登場人物ではないか。
急に近くであまりに美しい男を前にすると、人はどのように振る舞っていたのか思い出す事もできなくなるらしい。
ミシェルは意味もなくヒジをかきむしったり、はめてもいない指輪を触ったりと、落ち着きなく完全に挙動不審だ。
ミシェルの行動は、国宝級イケメンを急に予告も目にした為の挙動不審なのだが、この男は別の解釈をしたらしい。
男はミシェルの前に片肘をついて、深く頭を下げ、ミシェルの爪先に、その完璧に整った唇を押し当てて、言った。
「ああ、私とした事が、名乗りもせず、大変失礼を。私の名前はオデュッセイ。そこの川のほとりの館に住んでいて、ダンテとは古い友人です。共通の知人から、ダンテが珍い事に館に外国からの客人を招いていると聞いていたんですよ。さあ美しいお嬢さん、どうぞその名を、教えてください」
そう言って川のほとりの丘にある、まるで小ぶりの城のような格調高い、大きな館を指差した。
どこからどう考えても上位貴族のこのイケメンの名前は、オデュッセイ、というらしい。
(イケメンは名前までイケメンなのね・・)
「ミ、ミシェルと・・申します」
それだけ、なんとか捻り出した。
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