十年先まで待ってて

リツカ

文字の大きさ
23 / 77
過去話・後日談・番外編など

十年先 2

しおりを挟む
 誠がダイニングテーブルの席に着いたとき、すでに時刻は昼の十二時を過ぎていた。
 別にめずらしいことでもない。むしろ、きちんと朝目覚められることのほうが最近はすっかり少なくなっていた。

「ご飯はいつも通り少なめでいいですか?」
「はい」

 頷くと、女性が炊き立てのご飯を茶碗によそってくれる。
 焼き魚にだし巻き卵に小鉢が三つ。朝食のような献立だが、実際寝起きである誠に文句はなかった。

 女性の名前は三橋百合子みつはしゆりこといって、夜彦が小さな頃から佐伯の家で家政婦として働いているらしい。歳は五十代半ばくらいだろうか。仕事が早く、性格も穏やかで、昼を過ぎてから目を覚ます誠に目くじらを立てることもない。

「旦那様は朝からご友人とゴルフに、夜彦さんはお仕事ですが、十五時までにはこちらに戻られるそうです」

 百合子にそう言われて、今日の夜、どこかの御令嬢の婚約パーティーに参加しなければならないのを誠は思い出した。
 夜彦の親戚だったか、どこぞの財閥の娘だったか。
 なんにせよ、誠は少し憂鬱な気分になる。夜彦が傍にいるとしても、人目の多いところは得意じゃない。特に、誠のことを知っている者が多い場は。

「じゃあ、私は少し夕飯のお買い物に行ってきますね。洗い物はそのままで大丈夫ですから。もし何かあったら、電話してください」
「わかりました」

 エプロンをはずした百合子は部屋を出ていき、その数分後にはガチャンと玄関の扉が閉まる音が聞こえた。

 誠は自分以外誰もいなくなった部屋で、もそもそと食事を続ける。
 そうして朝食を食べ終えたあとは、リビングのソファに座り、テレビを見はじめた。

 一通りチャンネルを変えて、ワイドショーの話題の主役が自分でないことに安堵する。自意識過剰だと自分でもわかっているが、この確認はいつまでたってもやめられない。

 実際、誠は一時期メディアに取り沙汰されたことがあったのだ。






 約十年前、誠はバース性を偽っていたことを自ら週刊誌の記者を使って暴露した。その首謀者が父であり、医者とともに国に提出する検査結果を偽造したことも。

 賄賂の受領にオメガ買春に、息子のバース性結果の偽造──さらには叩けば埃が出るとはこのことで、他にも秘書へのパワハラや公用車の私的利用など様々な悪事が掘り起こされ、父は散々メディアからおもちゃにされたあと、病院の院長とともに逮捕された。

 いまはもう出所しているが、当然議員は辞職しており、もう父は何者でもない。
 恨み言を言うためか、それとも金の無心のためか、父は何度かこの家の前を訪れているようだが、毎回警備員に摘み出されているため、ここ十年は誠も父に直接会ったことはなかった。

 母に至っては、あっさり手のひらを返して父と離婚すると、いまは伯父夫婦が暮らす実家へと早々に帰っていった。こちらも誠とは一切連絡を取っていない。
 もともと子どもには無関心で、父の金で絵画収集をすることがなによりも好きだった人なので、神田家に金がなくなったあとは、父のことも、誠のことも、どうでもよくなってしまったのだろう。

 当事者である誠も当然警察からの事情聴取を受けたものの、大きな罪に問われることはなかった。
 検査結果を偽造したのは父と医師で、当時誠はたったの五歳だったのだ。五歳の少年にいったい何ができたというのか。

 世間もメディアも、最初は誠に対しては同情的だった。誠は毒親に洗脳されていた子どもで、かわいそうな被害者だった。


 しかし、それから約一週間後──別の週刊誌から新たな記事が出たことで、誠の立ち位置は一気に危ういものとなる。

 アルファの男と駆け落ちして行方知れずだった姉が、誠と父が共犯関係であることを暴露したのだ。

しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。