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過去話・後日談・番外編など
十年先 2
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誠がダイニングテーブルの席に着いたとき、すでに時刻は昼の十二時を過ぎていた。
別にめずらしいことでもない。むしろ、きちんと朝目覚められることのほうが最近はすっかり少なくなっていた。
「ご飯はいつも通り少なめでいいですか?」
「はい」
頷くと、女性が炊き立てのご飯を茶碗によそってくれる。
焼き魚にだし巻き卵に小鉢が三つ。朝食のような献立だが、実際寝起きである誠に文句はなかった。
女性の名前は三橋百合子といって、夜彦が小さな頃から佐伯の家で家政婦として働いているらしい。歳は五十代半ばくらいだろうか。仕事が早く、性格も穏やかで、昼を過ぎてから目を覚ます誠に目くじらを立てることもない。
「旦那様は朝からご友人とゴルフに、夜彦さんはお仕事ですが、十五時までにはこちらに戻られるそうです」
百合子にそう言われて、今日の夜、どこかの御令嬢の婚約パーティーに参加しなければならないのを誠は思い出した。
夜彦の親戚だったか、どこぞの財閥の娘だったか。
なんにせよ、誠は少し憂鬱な気分になる。夜彦が傍にいるとしても、人目の多いところは得意じゃない。特に、誠のことを知っている者が多い場は。
「じゃあ、私は少し夕飯のお買い物に行ってきますね。洗い物はそのままで大丈夫ですから。もし何かあったら、電話してください」
「わかりました」
エプロンをはずした百合子は部屋を出ていき、その数分後にはガチャンと玄関の扉が閉まる音が聞こえた。
誠は自分以外誰もいなくなった部屋で、もそもそと食事を続ける。
そうして朝食を食べ終えたあとは、リビングのソファに座り、テレビを見はじめた。
一通りチャンネルを変えて、ワイドショーの話題の主役が自分でないことに安堵する。自意識過剰だと自分でもわかっているが、この確認はいつまでたってもやめられない。
実際、誠は一時期メディアに取り沙汰されたことがあったのだ。
約十年前、誠はバース性を偽っていたことを自ら週刊誌の記者を使って暴露した。その首謀者が父であり、医者とともに国に提出する検査結果を偽造したことも。
賄賂の受領にオメガ買春に、息子のバース性結果の偽造──さらには叩けば埃が出るとはこのことで、他にも秘書へのパワハラや公用車の私的利用など様々な悪事が掘り起こされ、父は散々メディアからおもちゃにされたあと、病院の院長とともに逮捕された。
いまはもう出所しているが、当然議員は辞職しており、もう父は何者でもない。
恨み言を言うためか、それとも金の無心のためか、父は何度かこの家の前を訪れているようだが、毎回警備員に摘み出されているため、ここ十年は誠も父に直接会ったことはなかった。
母に至っては、あっさり手のひらを返して父と離婚すると、いまは伯父夫婦が暮らす実家へと早々に帰っていった。こちらも誠とは一切連絡を取っていない。
もともと子どもには無関心で、父の金で絵画収集をすることがなによりも好きだった人なので、神田家に金がなくなったあとは、父のことも、誠のことも、どうでもよくなってしまったのだろう。
当事者である誠も当然警察からの事情聴取を受けたものの、大きな罪に問われることはなかった。
検査結果を偽造したのは父と医師で、当時誠はたったの五歳だったのだ。五歳の少年にいったい何ができたというのか。
世間もメディアも、最初は誠に対しては同情的だった。誠は毒親に洗脳されていた子どもで、かわいそうな被害者だった。
しかし、それから約一週間後──別の週刊誌から新たな記事が出たことで、誠の立ち位置は一気に危ういものとなる。
アルファの男と駆け落ちして行方知れずだった姉が、誠と父が共犯関係であることを暴露したのだ。
別にめずらしいことでもない。むしろ、きちんと朝目覚められることのほうが最近はすっかり少なくなっていた。
「ご飯はいつも通り少なめでいいですか?」
「はい」
頷くと、女性が炊き立てのご飯を茶碗によそってくれる。
焼き魚にだし巻き卵に小鉢が三つ。朝食のような献立だが、実際寝起きである誠に文句はなかった。
女性の名前は三橋百合子といって、夜彦が小さな頃から佐伯の家で家政婦として働いているらしい。歳は五十代半ばくらいだろうか。仕事が早く、性格も穏やかで、昼を過ぎてから目を覚ます誠に目くじらを立てることもない。
「旦那様は朝からご友人とゴルフに、夜彦さんはお仕事ですが、十五時までにはこちらに戻られるそうです」
百合子にそう言われて、今日の夜、どこかの御令嬢の婚約パーティーに参加しなければならないのを誠は思い出した。
夜彦の親戚だったか、どこぞの財閥の娘だったか。
なんにせよ、誠は少し憂鬱な気分になる。夜彦が傍にいるとしても、人目の多いところは得意じゃない。特に、誠のことを知っている者が多い場は。
「じゃあ、私は少し夕飯のお買い物に行ってきますね。洗い物はそのままで大丈夫ですから。もし何かあったら、電話してください」
「わかりました」
エプロンをはずした百合子は部屋を出ていき、その数分後にはガチャンと玄関の扉が閉まる音が聞こえた。
誠は自分以外誰もいなくなった部屋で、もそもそと食事を続ける。
そうして朝食を食べ終えたあとは、リビングのソファに座り、テレビを見はじめた。
一通りチャンネルを変えて、ワイドショーの話題の主役が自分でないことに安堵する。自意識過剰だと自分でもわかっているが、この確認はいつまでたってもやめられない。
実際、誠は一時期メディアに取り沙汰されたことがあったのだ。
約十年前、誠はバース性を偽っていたことを自ら週刊誌の記者を使って暴露した。その首謀者が父であり、医者とともに国に提出する検査結果を偽造したことも。
賄賂の受領にオメガ買春に、息子のバース性結果の偽造──さらには叩けば埃が出るとはこのことで、他にも秘書へのパワハラや公用車の私的利用など様々な悪事が掘り起こされ、父は散々メディアからおもちゃにされたあと、病院の院長とともに逮捕された。
いまはもう出所しているが、当然議員は辞職しており、もう父は何者でもない。
恨み言を言うためか、それとも金の無心のためか、父は何度かこの家の前を訪れているようだが、毎回警備員に摘み出されているため、ここ十年は誠も父に直接会ったことはなかった。
母に至っては、あっさり手のひらを返して父と離婚すると、いまは伯父夫婦が暮らす実家へと早々に帰っていった。こちらも誠とは一切連絡を取っていない。
もともと子どもには無関心で、父の金で絵画収集をすることがなによりも好きだった人なので、神田家に金がなくなったあとは、父のことも、誠のことも、どうでもよくなってしまったのだろう。
当事者である誠も当然警察からの事情聴取を受けたものの、大きな罪に問われることはなかった。
検査結果を偽造したのは父と医師で、当時誠はたったの五歳だったのだ。五歳の少年にいったい何ができたというのか。
世間もメディアも、最初は誠に対しては同情的だった。誠は毒親に洗脳されていた子どもで、かわいそうな被害者だった。
しかし、それから約一週間後──別の週刊誌から新たな記事が出たことで、誠の立ち位置は一気に危ういものとなる。
アルファの男と駆け落ちして行方知れずだった姉が、誠と父が共犯関係であることを暴露したのだ。
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