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過去話・後日談・番外編など
十年先 3
しおりを挟む姉は、父とともに雅臣を陥れようとしていたはずの誠が自分だけ被害者面をしていたのがよほど許せなかったらしい。
そこには弟への情など一切なかった。最後に会ったときの『もう弟だとは思わない』という言葉通り、姉は記事の中で強く誠を糾弾した。
姉の暴露によって、状況が一変したわけではない。だが、世間やマスメディアの誠を見る目が『かわいそうな被害者』から『被害者兼加害者』へとすり替わったのは確かだ。
《中学生や高校生のときならまだしも、五歳のときの話だよ? そんな小さい頃に毒親に逆らうのなんて無理じゃない? なんでみんなそんなに息子のこと責めてんの?》
《オメガの男騙して婚約してたのが本当なら、息子も同罪でしょ。しかも、逆らったら無理やり父親の番にして言いなりにさせる計画たててたとかヤバすぎ》
《いままでアルファの恩恵受けてたくせに、風向き変わったら速攻で父親のこと裏切るあたり相当腹黒そう》
《ベータにしては顔が良すぎる。絶対こいつ顔弄ってんだろ》
《大学とかも裏口入学してそう》
《突然出てきた姉のほうがかなり胡散臭くない?》
《詐欺師親子死ね》
テレビやネット上で勝手な憶測や論争が起き、誠を擁護する者もいれば、攻撃する者もいた。
特に、ネット上での盛り上がりはすごかった。誠への誹謗中傷や殺害予告も多くあり、最終的には逮捕者も出たくらいだ。
誠は新たな記事の内容を否定したが、姉の発言を覆せる証拠はなかった。雅臣のことに関しては、誠が父と共犯であることは事実なのだから、ある意味当然である。
しかし、姉の発言が真実である証拠もなく、結局真相は闇の中。言った言わないの姉弟喧嘩だと揶揄する声もあった。
メディアや国民が飽きるまでそれは続き、人気俳優のダブル不倫報道が出たあたりで、彼らは蜘蛛の子を散らすように消えていった。いや、新しい獲物を見つけたハイエナのように……だろうか。
なんにせよ、大衆はそれを楽しんでいた。
本当は誠のことなどどうでも良かったのだと思う。自分と関係のない人間を匿名で庇ったり、叩いたりして、良い気分になりたかっただけのさもしい人々だ。
だが、彼らの標的にされ、それが目に入り、耳に入り──そんな日々が続くうちに、誠は徐々にひとが怖くなっていく。
いま思えば、父へのバッシングに比べれば誠への誹謗中傷など大したことはなかったのだろう。その誹謗中傷だって、精々半年ほどで収まった。
しかし、その後も誠の中で生まれた恐怖心が消え去ることはいっこうになかったのだ。
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