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フットサルの話 後編
しおりを挟む「今日はありがとうございました! すごく楽しかったです!」
「こちらこそ。よかったらまたみんなで集まろうよ。夏になったら海でバーベキューとかしたいし。な、総真」
「気が向いたらな。んじゃ、また」
「またね~」
「ばいばーい」
フットサルが終わり、近くの焼肉屋で昼食を楽しんだあと、今日の集まりは解散の運びとなった。
総真と雅臣は近くのパーキングまで歩き、停めていた車に乗り込む。
助手席に腰掛けた瞬間、雅臣は大きく息を吐いて体を脱力させた。シートにずるずると体を沈めながら、呟くように言う。
「はぁ~、すごく楽しかった、けど……」
「けど?」
「……すっっっごく緊張した……」
ぐったりとする雅臣を見て、総真はケラケラと笑い声を上げた。
「人見知りのくせに無理して明るく振る舞おうとするからだよ」
「だって……お前の友達だからできるだけ仲良くなりたいなって思って……」
「わかってるよ、ありがとな」
むくれた雅臣の髪を総真が撫でてやると、機嫌を直したらしい雅臣が頬を緩めて笑う。
「ちょっと疲れたけど、本当に来てよかったよ。たまたまだけどシュートも決められたし、お前のかっこいいとこもちゃんと見れたし」
「俺、かっこよかった?」
「うん。やっぱ総真はサッカー上手いよなぁ。今日のはフットサルだけど、子どもの頃と同じでかっこよかった」
雅臣に褒められて、総真はふふんと得意げな顔をする。
総真も試合に参加した際はちゃんとゴールを決めていた。フットサルの経験は少ないものの中高はサッカー部だったし、ゴールの一点や二点なんてお手のものだ。
ゴールを決めたときは、毎回雅臣の元に走って抱きついていた。いつもは人前でイチャつくことに抵抗があるらしい雅臣も、このときばかりは怒らずに総真のゴールを人一倍喜んでくれた。
総真としてはゴールを決めたことよりも、雅臣からキラキラとした尊敬の眼差しを向けられることの方が百倍気持ちよかったくらいだ。
総真がいい気分になっていると、隣の雅臣が突如くすくすと笑いだす。
「どうした?」
「──小学生の頃さ、お前ってサッカーでゴールするたび『今の見てたか!?』って荷物番してる俺のとこに自慢しに来てたよな」
「……あ、ああ」
ばつの悪い顔をした総真は雅臣から目を逸らした。
それを雅臣が嫌がっていたと知ったのは、もっと後になってからだ。
総真としては悪気などなかったが、ゴールを決めるたびに自慢してくる総真が雅臣はきっと憎たらしかっただろう。なんたってあの頃の雅臣は、総真のことをただのいじめっ子だと思っていたのだから。
総真が苦い顔で口を閉ざしていると、雅臣はそんな総真の横顔を見つめ、柔らかく目を細める。
「あのときはお前のこと『なんて嫌な奴なんだ!』って思ってたんだけどさ、今日ちょっとだけ昔のお前の気持ちがわかったかも」
「……あ?」
「だって、ゴール決めたとき、俺もお前のとこに行って『見てたか!? すごいだろ!』って自慢したくなったもん」
まあ俺がお前のとこ行く前に、お前が俺のとこに走ってきたけどな! と続けて、雅臣は照れくさそうに笑う。
総真はじいっと雅臣の笑顔を見つめたあと、そっとその頬に触れた。きょとんとした雅臣の瞳を覗き込むようにゆっくりと顔を近付け、無言で瞼を落とす。
それからあっという間もなく、柔らかな唇が重なった。
唇の表面が触れ合うだけの、子どもみたいなキスだ。
口付けを解くと、雅臣の淡い色をした目が呆気に取られたようにぱちりと瞬いた。かと思うと、雅臣の頬はじわじわと赤くなっていく。
「なっ、なんで急にっ……!」
「したくなったから。つうか、フットサルの最中も我慢してただけでずっとキスしたかったんだよな」
「別にキスしたくなるようなタイミングじゃなかっただろ! ……というか、俺がフットサルしてるときはずっと怖い顔でこっち見てなかったか?」
「そりゃあ俺以外の前でお前がにこにこしてたらムカつくだろ」
「なにが『そりゃあ』なんだよ……全然意味わかんないって」
「あっそ。ところで、もう一回キスしていい?」
「え、ええ……」
雅臣は戸惑ったようにおろおろとしていた。
だが、即座に『嫌だ』と拒否されない時点で脈ありなのはわかっている。
総真は軽く身を乗り出して、雅臣の耳元で「雅臣」と少しばかり欲を孕んだ甘い声で囁いた。
口を引き結んだ雅臣の肩がびくっと跳ねたのを見て、逃さぬように雅臣の手を握りながら言葉を続ける。
「キスだけだよ」
「っ、あ、当たり前だろっ!」
「ふぅん。俺はそうじゃなくてもいいけど」
総真は口角を上げ、再び雅臣に顔を近付けた。
そのまま鼻先が触れそうな距離で見つめ合っていると、やがて諦めたように雅臣の瞼がおずおずと閉じられていく。
同じくそっと目を閉じた総真は、雅臣の唇に啄むようなキスをした。柔らかな唇を食んで、その弾力を楽しむ。何度か舌を口内に忍び込ませようと舌先で歯列をなぞったが、さすがにそれ以上は許してくれそうになかった。
「ん……ほんとガード固えよな」
唇を離した総真がニヤつきながら文句を言うと、ほのかに目元を赤くした雅臣がキッと総真を睨む。
「……馬鹿なこと言ってないで帰るぞ」
「はいはい。続きは家でな」
「つ、続きとかない! 俺は帰ったらソファでゆっくりするんだからな!」
「へぇ、『ソファでゆっくりする』ねぇ……いいじゃん。俺たちスローセックスはまだしたことないもんな?」
「っ~~~~総真っ!!」
どうやらからかいすぎたらしい。顔を真っ赤にした雅臣が叫び、掴み掛かろうとするように総真へと手を伸ばしてくる。
それを両手でいなす総真は「ごめんごめん」と謝りながらも堪えきれずゲラゲラと声をあげて笑ってしまった。
「お前のそういうとこ、ほんっと嫌いっ!」
「俺はお前のそうやってぷんぷん怒るとこ、かわいくてすげぇ好き」
「…………」
「あと、今みたいに照れると顔赤くして恥ずかしそうに俺から目ぇ逸らすとこも好きだな」
「……ばか」
「照れ隠しで言う『ばか』もかわいくて好き」
「っ……お前今日はもう喋るの禁止!!」
(終)
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みんなの感想(66件)
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書籍の購読と感想ありがとうございます!
書籍だけでなくこちらまで読みに来てくださってとてもうれしいです!
ありがとうございます( ˊᵕˋ* )♩
時間があるときに後日談や番外編を書いて更新しているので、その際はまた続きを楽しんで頂ければ幸いです。
書籍のご購入ならびに感想ありがとうございます!
買って良かったと言っていただけてとてもうれしいです(*˙˘˙*)♥︎︎∗︎*゚
うれしいお言葉の数々、本当にありがとうございます!
定期的に後日談などを投稿していく予定なので、またそちらも楽しんでいただければ幸いです✩︎*॰
感想ありがとうございます!
楽しんでいただけてとてもうれしいです(。•ㅅ•。)♡
だいぶ先になりそうですが、子どもたちとお出掛けする話もいつか書きたいですね!