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20.アーネストという男 (前編)【Side:アーネスト】
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アーネストは王太子として優れた男だ。
精悍な容姿、優雅な立ち振る舞い、冷静な判断力と、明晰な頭脳、私情に流されない強靭な精神。そして、人を愛する心を持たない欠陥品。それがアーネスト・ハイランドの正体である。
なんつって。誰かと思った?俺だよ、アーネスト本人でした☆キラッ☆
あ、イラッとした?ほんとゴメンね!俺ってこういう人間なもんで、つい人から嫌われちゃうんだよね。あー俺ってかわいそ。まあ、俺にはレニたんがいればいいんで、ダイジョブですけどね!
さて、冒頭で語ったことだけど、アレはマジ。『君アル』のアーネストのキャラ設定が、そういうやつなんだよね。
愛を理解できない王太子が、主人公のマリクに触れ合うことで人を愛する気持ちを知る、みたいな割と王道っちゃ王道のキャラ。いうてメインヒーローだしね、俺。
そんなだから、俺も断罪寸前になるまでレニたんへの愛に気付かず、親兄弟ご学友に至るまで、全員どーでもいいとしか思えなかったわけ。多分親族取り巻き全員の生首がずらっと100人分並べられても、なーんとも思わなかったんじゃないかな。
こう言っちゃ身も蓋もないけど、ゲームでマリクを愛するようになるのだって、愛に目覚めたっていうよりは、用意された選択肢とチートアイテムで無理矢理好感度上げさせられた結果って感じ。だから、レニたんへの真実の愛を持っている俺からしたら、そんなドーピング愛なんかゴミって感じなんだよね。
周りのやつらはそんなこと知りもしないから、俺とうまくやれない原因はレニたんにあると思ってる。レニたん自身そう思ってるってことも、こないだ面と向かって言われたしね。
でも、それは大きな間違いで、原因は全て俺の方にある。ぶっちゃけ、レニたんが文句のつけどころのないアインシュタイン級の天才でも、周囲の目が潰れるような人外の美しさでも、アーネストがレニたんを愛することはなかっただろう。
ただ、だからと言ってこれまでの11年間の最悪な行動を、設定のせいにするつもりはない。
だって、周りの取り巻きは別として、ゲームの中のアーネストは、レニたんに暴言を吐いたりしてなかった。ただただ無関心。それだけだったんだから。
レニたんが俺に冷遇されたのは、過去の記憶があったからこそ、つまり逃れようもなく俺のせいなのだ。
忘れもしない、あれは6歳の誕生日。
初めてレニたんに引き合わされた俺は、『お誕生日おめでとうございます』と目をキラキラさせて微笑むレニたんに、過去の記憶を大きく揺さぶられた。
それは、何にも感情を動かされたことのない俺にとって未知の感覚で、まだ幼い俺には脅威に思えて仕方なかった。常に波立たない水面に手を突っ込んで、内側からぐちゃぐちゃにかき回されるような感覚は、不快以外の何物でもない。
それなのに、レニたんは俺の婚約者になった。最も遠ざけたい相手と一生を添い遂げなければならなくなるなんて、何の冗談かと思うよね。
駄々をこねて婚約をぶち壊すには、俺は王太子として完璧すぎた。自分の感情を抜きにすれば、血筋・家柄・能力・容姿の総合から判断して、レニたん以上の最適解はない。
当時のハイランドは過去の内乱の傷を癒すのに必死で、経済的に豊かなファンネの方が力関係が強かった。ファンネ王家の人間と婚姻を結べば後ろ盾は得られるだろうが、いずれ国を乗っ取られる危険性がある。
その点、レニたんはファンネの元王族の孫であり、尚且つ過去にハイランドの王族が降嫁した経緯もある自国の公爵家の生まれ。しかも跡目とは無縁の三男という、文句の付けどころのない絶妙な立ち位置の人間なのだ。本来ならば、大切に持て囃されこそすれ、ザコが陰口を叩いていいような存在じゃないんだよ。
だから、レニたんを婚約者に外すことは、俺自身にもできなかった。ぶっちゃけ当時からレニたんはめちゃくちゃ好みのタイプだったしね。まあ、基本俺なんで。
俺に出来ることと言えば、徹底的にレニたんを遠ざけ、少しでも顔を見なくて済むようにすることぐらいだった。
笑顔を見せられると、胸が軋むような不快感に包まれる。それは本当はレニたんに恋する俺の感情なんだけど、それが自分にとっていいものだとは思えなかった。
些細な瑕疵をあげつらい、思ってもない暴言を吐けば、レニたんの目はしょんぼりと輝きを失い、話しかけて来なくなる。そうすることで、少しでも不快感を和らげるしかなかった。
ある意味では、レニたんはこの11年間、ずっと俺の特別だったと言える。
周囲の人間全てがどうでも良かった俺が、唯一悪口を言う相手。それがレニたんだった。
レニたんには、迷惑以外の何物でもなかっただろうけど。
精悍な容姿、優雅な立ち振る舞い、冷静な判断力と、明晰な頭脳、私情に流されない強靭な精神。そして、人を愛する心を持たない欠陥品。それがアーネスト・ハイランドの正体である。
なんつって。誰かと思った?俺だよ、アーネスト本人でした☆キラッ☆
あ、イラッとした?ほんとゴメンね!俺ってこういう人間なもんで、つい人から嫌われちゃうんだよね。あー俺ってかわいそ。まあ、俺にはレニたんがいればいいんで、ダイジョブですけどね!
さて、冒頭で語ったことだけど、アレはマジ。『君アル』のアーネストのキャラ設定が、そういうやつなんだよね。
愛を理解できない王太子が、主人公のマリクに触れ合うことで人を愛する気持ちを知る、みたいな割と王道っちゃ王道のキャラ。いうてメインヒーローだしね、俺。
そんなだから、俺も断罪寸前になるまでレニたんへの愛に気付かず、親兄弟ご学友に至るまで、全員どーでもいいとしか思えなかったわけ。多分親族取り巻き全員の生首がずらっと100人分並べられても、なーんとも思わなかったんじゃないかな。
こう言っちゃ身も蓋もないけど、ゲームでマリクを愛するようになるのだって、愛に目覚めたっていうよりは、用意された選択肢とチートアイテムで無理矢理好感度上げさせられた結果って感じ。だから、レニたんへの真実の愛を持っている俺からしたら、そんなドーピング愛なんかゴミって感じなんだよね。
周りのやつらはそんなこと知りもしないから、俺とうまくやれない原因はレニたんにあると思ってる。レニたん自身そう思ってるってことも、こないだ面と向かって言われたしね。
でも、それは大きな間違いで、原因は全て俺の方にある。ぶっちゃけ、レニたんが文句のつけどころのないアインシュタイン級の天才でも、周囲の目が潰れるような人外の美しさでも、アーネストがレニたんを愛することはなかっただろう。
ただ、だからと言ってこれまでの11年間の最悪な行動を、設定のせいにするつもりはない。
だって、周りの取り巻きは別として、ゲームの中のアーネストは、レニたんに暴言を吐いたりしてなかった。ただただ無関心。それだけだったんだから。
レニたんが俺に冷遇されたのは、過去の記憶があったからこそ、つまり逃れようもなく俺のせいなのだ。
忘れもしない、あれは6歳の誕生日。
初めてレニたんに引き合わされた俺は、『お誕生日おめでとうございます』と目をキラキラさせて微笑むレニたんに、過去の記憶を大きく揺さぶられた。
それは、何にも感情を動かされたことのない俺にとって未知の感覚で、まだ幼い俺には脅威に思えて仕方なかった。常に波立たない水面に手を突っ込んで、内側からぐちゃぐちゃにかき回されるような感覚は、不快以外の何物でもない。
それなのに、レニたんは俺の婚約者になった。最も遠ざけたい相手と一生を添い遂げなければならなくなるなんて、何の冗談かと思うよね。
駄々をこねて婚約をぶち壊すには、俺は王太子として完璧すぎた。自分の感情を抜きにすれば、血筋・家柄・能力・容姿の総合から判断して、レニたん以上の最適解はない。
当時のハイランドは過去の内乱の傷を癒すのに必死で、経済的に豊かなファンネの方が力関係が強かった。ファンネ王家の人間と婚姻を結べば後ろ盾は得られるだろうが、いずれ国を乗っ取られる危険性がある。
その点、レニたんはファンネの元王族の孫であり、尚且つ過去にハイランドの王族が降嫁した経緯もある自国の公爵家の生まれ。しかも跡目とは無縁の三男という、文句の付けどころのない絶妙な立ち位置の人間なのだ。本来ならば、大切に持て囃されこそすれ、ザコが陰口を叩いていいような存在じゃないんだよ。
だから、レニたんを婚約者に外すことは、俺自身にもできなかった。ぶっちゃけ当時からレニたんはめちゃくちゃ好みのタイプだったしね。まあ、基本俺なんで。
俺に出来ることと言えば、徹底的にレニたんを遠ざけ、少しでも顔を見なくて済むようにすることぐらいだった。
笑顔を見せられると、胸が軋むような不快感に包まれる。それは本当はレニたんに恋する俺の感情なんだけど、それが自分にとっていいものだとは思えなかった。
些細な瑕疵をあげつらい、思ってもない暴言を吐けば、レニたんの目はしょんぼりと輝きを失い、話しかけて来なくなる。そうすることで、少しでも不快感を和らげるしかなかった。
ある意味では、レニたんはこの11年間、ずっと俺の特別だったと言える。
周囲の人間全てがどうでも良かった俺が、唯一悪口を言う相手。それがレニたんだった。
レニたんには、迷惑以外の何物でもなかっただろうけど。
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