転生主人公な僕の推しの堅物騎士は悪役令息に恋してる

ゴルゴンゾーラ安井

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63.そしてようやく

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 夏休みが終わって、僕はレニオールとすっかり仲良くなった。ひょんなことから仲間に加わった公爵令息のシリルと三人で、アーネストのワガママに付き合わされて生徒会の手伝いなんかしたりして、学園生活は楽しいことでいっぱいだった。
 そして、僕とウィルフレッドは、僕が学園を卒業するのと同時に結婚―――――するはずだったんだけど。

 それが、そうは問屋がおろさなかった。なんでかっていうと、ななんと、在学中にレニオールが妊娠しちゃった事が発覚したんだよ。
 もう、レニオールのご実家も、アーネストも大騒ぎ。いきなり体調不良で学園に来なくなったレニオールを心配してお見舞いに行ってもなかなか会わせてもらえないし、何かいいアイテムはないかと占い屋に行ったら、ジュリエッタちゃんはそっと『気分が鎮まる薬』と『吐き気が収まる薬』をくれた。
 その後、学園に復帰したレニオールから事情を聞いたんだけど……ジュリエッタちゃんほんと何者なの!???

 まあ、それは置いておくとして。王太子であるアーネストの赤ちゃんを身籠ったレニオールは、普通なら即刻学園を辞めて王宮に住まいを移さなきゃならないところだったんだけど、レニオールの強い要望とアーネストの意向で、可能な限り学園に通って卒業することになった。
 普通なら絶対に許されないんだろうけど、この決定はあっさり通った。なんでかっていうと、王様が許可したから。

 まあぶっちゃけていうと、長年アーネストの冷遇を受けて王宮に軽んじられてたレニオールにとって、後釜の座を虎視眈々と狙う貴族共の蔓延り放題な王宮なんか、安全どころか超デンジャーもいいところだったんだよ。
 学園に通う生徒たちは、アーネストのぶっ壊れ具合と、それを制御できるレニオールの凄さを目の当たりにしてるからそんなことないんだけど、あわよくば王家と縁続きになりたいと企む狸どもは何を仕出かすかわからない。
 もし王宮でレニオールの身に何かあったら、アーネストやノクティス公爵家は勿論のこと、レニオールを溺愛するお祖母様ことマーガレット様は激怒すること間違いなし。
 マーガレット様は、隣国ファンネの元王女で、ファンネの現国王様の崇拝する姉だって言うんだから、そりゃ王様だって日和っちゃうよね。最悪戦争になるもん。

 このままじゃまずいってことで、アーネストと王様は急ピッチで王宮の掃除に乗り出した。レニオールが卒業して出産するまでに王宮をレニオールにとって安全な場所にしておかないといけない。
 影と密偵を使いまくって情報を集め、抑えられるとこは抑え、ダメなとこは潰し、その縁者や繋がりのある使用人を全て入れ替えしたらしいから、お疲れ様だよ。

 そんな感じでレニオールの王宮入りも決まって、寂しくなるなぁって思っていたら、思いも掛けない事が起こった。レニオール付きの側仕えとして、僕に白羽の矢が立ったんだ!
 王宮で出産するレニオールが心細くないようにってアーネストから頼まれたからなんだけど、僕としてもただの男爵令息としてより、もうちょっと箔付けてから伯爵家に嫁げるのは有り難かった。
 伯爵家の人達は皆いい人だし、ウィルフレッドもそんなことはいいから早く結婚したいと言ってくれるのはわかってる。でも、それじゃ僕が嫌だったんだよね。
 結局、僕は王宮勤めをついこないだまでやっていた。ほんとはもっと早く辞めるつもりだったんだけど、マナリス王子があんまりにも僕に懐いてくれたから、ついつい先延ばしになってしまった。



 そして今日、僕はウィルフレッドと結婚する。
 もうずっと、婚約者として伯爵家に住みながら城勤めをしてたから、実質もう結婚してるみたいなものだったんだけど、それでもやっぱり感慨深い。
 お屋敷のメイドたちにバッチリ飾り立てられた僕は、ペアでデザインしたタキシードを二人で纏って馬車に乗る。
 推しに自分のデザインした婚礼衣装を着てもらえるなんて、僕はほんとに世界一の幸せものだと思うよ。うっとりしながら見惚れていたら、ウィルフレッドもおんなじ顔で僕を見ていて、笑ってしまう。
 
「マリク、今日のお前は特別綺麗だ。ようやっと名実ともに君を私のものに出来るとは」

「もうずっとウィルフレッドのものだったでしょ?」

「いいや。婚約は婚姻じゃないと横恋慕する虫を追い払うことにどれだけ苦心したことか。きっとこれからも諦めの悪い虫どもが湧いてくるに違いない」

「悪い虫って……」

 でも、実際のところ全く嘘ってわけでもない。
 レニオールの役に立ちたい、ウィルフレッドのために社交界で名を売りたい、伯爵家のために侮られたくない。そういう気持ちがあって、ちょっとやりすぎた。
 社交界のサロンで常に新しい流行を生み出し続ける僕は、王太子妃であるレニオールの覚えもめでたいこともあって一躍時の人になった。
 デビューの時にグリフィス伯爵夫妻が『未来のグリフィス伯爵夫人』と紹介したのに、実家や王宮に釣書の山が築かれたんだから、ほんといい度胸だなって思う。
 勿論全部丁重にお断りしたんだけど、やっぱりしつこい人っていうのは一定数いるもので、ウィルフレッドはそれを根こそぎ実力行使で追い払わなきゃならなかった。でも、戦うウィルフレッドはやっぱりめちゃくちゃかっこよくて、その度にギュン死しそうになってた僕からすると、ある意味ご褒美だったり……。

 そんなこともあって、ウィルフレッドは元々の心配性と嫉妬深さが輪をかけて酷くなってしまって、遂には騎士の訓練所に顔を出しただけで、他の騎士たちを牽制し始めるようになってしまった。
 皆さんには本当に迷惑を掛けたと思うから、この結婚式で少しは落ち着いたらいいなって思ってる。

 

 馬車が教会の前に着くと、もう既に教会の前には人だかりが……できてなくて、むしろいつもよりひっそりとしていた。
 実を言うと、今日の結婚式はごく一部の人にしか招待状を送っていない、身内の結婚式なんだ。
 この教会は、男爵領の片田舎にある教会で、王都のものに比べたらかわいらしい規模の、ほんの小さな教会。
 なんでそんなことをしたのかって言うと、僕が結婚式に来て欲しい人達の身分があんまりにも極端すぎたから。
 アーネストとレニオールは王太子夫妻、シリルとレニオールの身内は公爵家、新郎の身内は侯爵家という身分の高さ。これだけでもう庶民が同席なんかできっこないのがわかってもらえると思う。
 大っぴらにやれば、何故うちは招待されなかったのかと面倒なことになるのが目に見えてるでしょ。
 僕は絶対に自分の家族には全員来てもらいたいし、ジュリエッタちゃんを筆頭としたお世話になった人達にも来て貰いたかった。特にジュリエッタちゃんね。絶対に敵に回したくない人、ナンバーワンだもん。
 まあ、そんなわけで、外向けにやる結婚式はまた後でやるとして、最初はお忍びに近い形でこっそりやることになったわけ。
 何回も推しの婚礼衣装見られるなんて、ご褒美だしね!ちなみに、今日は白だけどほんのり薄いアップルグリーンの色がついていて、縁取りには繊細な金の刺繍が施されてる。公式でやるやつは、もう少し刺激的なやつにしようと思ってるんだよね。そっちも楽しみ!


「さあ、お手をどうぞ。我が花嫁」

「ありがとう、素敵な旦那様」

 ウィルフレッドにエスコートされながら馬車を降りると、小さな影が走り寄ってきた。
 小さな影は、まるで子犬が飛びつくように僕のお腹に抱きついてくる。

「マリク―――――――ぅ!!マリクマリク、マリク~~~!!!」

「ありゃりゃ、どうしました?あまえんぼさん」

 僕が頭をなでてあげると、くりんとした大きな瞳が僕を見上げてきた。相変わらずかわいくって、僕はつい頬が緩んでしまう。

「だって、マリクが王宮辞めちゃうからいけないんだよ。ぼく、もっといてって言ったのにぃ」

 ぷう、と頬を膨らませて駄々をこねる姿に、僕は苦笑いしてしまう。彼こそが、レニオールとアーネストの子供。この国の第一王子マナリス様だ。
 乳母がわりみたいに赤ちゃんの頃から面倒を見てたからか、マナリスは僕にものすごく懐いてる。僕としても、もう自分の子も同然ってぐらいマナリスを可愛がっていた。
 
「あのままじゃ僕、嫁き遅れちゃうからしょうがないでしょう?」

「いきおくれないよ!ぼくが大きくなったら、マリクをお嫁さんにしてあげるから」

「マナリス様と言えど聞き捨てなりませんね。マリクは私の婚約者で、私の妻です!」

 マナリスのかわいらしい言葉に、ウィルフレッドはすかさず割って入る。子供のよくある口約束に、なんて大人げない。
 ウィルフレッドとマナリスの間でバチバチと火花が散っているのを、僕は呆れた目で見つめていた。

「マナリス様~~!!!!」

 大声で呼びながら駆けてきたのは、僕の友達のシリル。今はマナリスの教育係を請け負っているんだよ。
 最初は親の持ってくる縁談が鬱陶しくて仕事を求めてたみたいなんだけど、蓋を開けたら次期宰相候補の若手文官と良い仲になってて、しかもその文官は昔からシリルのことが好きで、既に釣り書きを3回蹴り飛ばされた経歴を持ってた。シリルとレニオールは気付いてないけど、僕とアーネストは、結構な執着系食わせ者じゃないかと思ってるんだよね。知らないほうが幸せなこともあるけど……。

「シリル、久しぶり!」

「ああ、マリク!よかった、マナリス様はマリクのとこにいたんだね。マナリス様!勝手にお一人で何処かへ行かないようにと申し上げたでしょう!」

「ぴゃっ!」

 再会を喜ぶ間もなく雷を落としたシリルに、マナリスはますます僕に強く抱き着いて顔を隠してしまった。
 ウィルフレッドが引き剥がそうとしてるけど、子供って結構力強いんだよね……。

「離れてください、王子」

「ぃやだ~~~!!!!ウィルフレッドのバカ~~!!!」

「王子!おやめください!……まったくもう、普段は聞き分けのいい方なのに、どうしてこうマリクが絡むと子供っぽくなるのか……」

 額を抑えて頭痛をこらえるシリルに、僕は肩をすくめる。
 僕は多分その理由を知ってる。そう思いつつ、ぎゅうぎゅうにしがみつくマナリスを抱きかかえた。マナリスは大人しく僕に抱っこされて、甘えたような顔でニコニコしている。
 その顔がまーくんにダブって、僕はじんわりと胸が暖かくなった。

「さあ、戻ろう。マナリス」

「うん」

 上機嫌のマナリスは頷いて、下におろしてもトコトコと僕の後をついてきた。
 教会の控室には、レニオールやミレウィス様、僕の母さんやコニーがいて、楽しそうにワイワイ話している。
 
 そうそう、僕の実家の男爵家は、今はだいぶ豊かになったんだ。
 王家が作物を買い上げてくれてるっていうのもあるけど、今はそれは領地収入のほんの一部にすぎない。
 公爵家と王太子妃がバックに付き、社交界で僕が様々なものを流行らせる火付け役を担うことになったこともあって、新たに商会を立ち上げることになったんだ。
 その名も『リリーベル商会』。妹のコニーが社長を務めるその商会では、文具から、ドレス、装飾品、化粧品、お菓子、何でも扱われており、今やハイランド王国だけでなく他国からも注目される大手商会となっている。

 長男の僕が嫁いでしまうから、三男のサントスが男爵家を継ぐことになって、四男のヨセフはその補佐をするべく勉強中。次男のニコルは書類仕事は性に合わないらしくて、騎士になった。今は王宮にいるけど、結婚したら男爵領に戻ってきて男爵領の警護を担うことにしてるらしい。
 ロバートは畑仕事の方が好きだって言って、お隣のファンネに留学中。ナナリーとハロルドは立派な男爵家の貴婦人、紳士となるべく教育を受ける毎日だ。
 上の兄弟6人が平民臭さがイマイチ抜けないのに対して、下の二人が一番堂々として幼いながらに優雅な貴族になってるの、ほんと笑うしかないよね。三つ子の魂なんとか、ってやつだよ。

 そんなわけで、うちも家族が全員揃うのはほんとに久しぶりだった。
 皆に祝福されて、僕は柄にもなく涙を流してしまう。

「なに泣いてんだよ、兄貴ー」

「めでたい日に泣くなよな」

 そんな事言いながら、三つ子のほうがよっぽど涙目になってる。僕より頭2つぐらい大きくなっても、やっぱり弟は弟だ。

「ウィルフレッド様、兄貴のことよろしくお願いしますよ」

「兄貴、俺らの二人目のかーちゃんみたいなもんだから」

「兄さんのこと、絶対に泣かせないで下さいね」

 弟たちに詰め寄られ、ウィルフレッドは重々しく頷いている。

「必ず幸せにすると誓おう。何があっても私はマリクを守り、マリクだけを愛している」

「「ウィルフレッドの兄貴……!!!」」

 ひしっっ。

「ちょっと、なんで感極まって抱きつくのがお前たちなのさ!!!ここは僕がじーんとしてウィルフレッドに抱きつくとこじゃないの!?」

「まあまあ」

「花嫁が吼えない吼えない」

 推しの激アツ胸板ポジションを獲られていきり立つ僕を、どうどうとでも言うように宥めに来たのは、レニオールとアーネストだ。二人ともこの国の王太子妃夫妻とは思えないほどナチュラルに馴染んじゃってる。アーネストに至っては、控室に用意されたおやつのポテチをバリバリつまみ食いしてる有様だ。王太子ェ……。

「二人とも、来てくれてありがとう!大変じゃなかった?」

「全然大丈夫!よゆーよゆー」

「マリクの大事な日だもん、来ないわけないよ!むしろ呼んでくれてありがとうな」

「レニを呼ばないわけ無いじゃん!久しぶりに会えて嬉しい」

「俺もだよ!」

 僕とレニオールはぴとっと体をくっつけて軽く抱擁した。心なしかウィルフレッドとアーネストが生暖かい目で見ている。多分、百合眼福ごちそうさまですとか思われているんだろうなぁ。

「あーっ、母様ずるい!僕もマリクにぴたっとする!」

「マナリス様はわたくしがぴたっといたしましょう」

「ヤダよ!なんでぼくがウィルフレッドとくっつかなきゃいけないのさ!」

「そう仰っしゃらず。遠慮は無用です」

「ちょっ、やめてよ!助けて父様!!!」

「はぁ、はぁ……いい、イイよレニたん!百合ショットご馳走様です!ああ~、あとちょっとでカメラできそうなのに悔しすぎる!!!」

「失礼、アーネスト様。その『カメラ』なるものはどういった品で?是非我がリリーベル商会で商品化させていただきたいのですが」

 アーネストの現代チート火付け役に一枚噛んでるコニーまで絡んで、カオス度は一層高まってきた。
 無礼講という言葉をわかってるフランクな人達ばかり集めているせいか、普段の上品な振る舞いからは考えられない騒がしさだ。
 結局、神父様が『皆様お時間です』と声を掛けに来るまで、僕らは思い切り自由な時間を楽しんだのだった。



 
 
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