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27.シルターンの魔術師1
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「そいつには………心当たりがある」
俺の言葉に、エルマンが驚いて此方を見た。
ソーニャは不愉快そうに眉を顰めて、ノエルを膝に乗せたまま足を組んだ。
「アイツしかいないでしょうね、あの変態魔術師……まだ生きていたなんて!」
ソーニャが心底忌々しそうな口調で罵ったが、俺も同感だ。
まさかまだ生きていたなんて。当の昔に死んだものと思ってたのに。
アイツが生きていると知っていたら、俺は城を飛び出すのを思いとどまったかもしれない。それぐらい会いたくない存在。
「お知り合いなのですか?」
「知り合い……っていうのかな、あれは」
「知り合いなものですか!ただ一方的に迷惑を蒙っているだけです!何度も殺してやったのに、なんてしぶとい!」
ソーニャが殺してやったのに、というのは限りなく真実に近い。
俺もソーニャもジークハルトも、あいつを本気で殺すつもりで何度も戦った。普通なら絶対に生きていないような傷を負わせたのも片手じゃ足りない。
確かに殺したと思うのに、アイツは暫く経つと何食わぬ顔で現れるのだ。
「あいつが生きていたなら、今回の事件も納得ですね。むしろアイツらし過ぎて薄ら笑えるほどですよ」
「150年経ってもまだ執着してるなんて、頭おかしいだろ」
そうだ。150年経ったんだぞ。普通の人間なら生きてるはずがない。
だけど、何度殺しても追ってくるその不気味さを、まさか今になって再び味わうことになるとは思わなかった。
「お二人にそこまで言わしめるその人物とは、誰なのですか?」
サイラスに尋ねられ、俺は答えた。
名を告げようとしただけで、脳裏にぬるりとした嫌なオーラの記憶がよみがえる。
「サイラス・リドリー。シルターンの魔術師だ」
※※※
昔、むかしのおはなし。
あるところに、一人の魔術師がいました。
魔術師は、生まれた時から強い呪いの力を持っていたのです。
最初に犠牲になったのは、彼を産んだお母さんでした。
家族は皆悲しみましたが、それが少年の呪いの力によるものとは誰も思わなかったのです。
不憫な赤ん坊だと、家族は人肌に温めた山羊の乳を飲ませ、赤ん坊を大事に育てました。
赤ん坊は健やかに成長し、彼が3歳になった頃、今度は10歳のお兄ちゃんが息を引き取ります。
父親が嘆き悲しんでいましたが、まだ幼い子供には何が起こっているのか理解できません。
父親は最後の家族である子供を大事に大事にしたのです。
彼が7つになった頃、父親は少年に新しい家族をプレゼントしました。幼い子供には母親が必要だと思ったからです。
しかし、その母親と連れ子も、すぐに原因不明の病に倒れ、死んでしまいました。
余りに続く不幸に、父親は心を病み、近所の者は呪われた家と噂しています。
そんな中でも、少年は実に健やかに成長していったのです。
少年が15歳になった頃、父親が亡くなりました。彼の最後の家族です。
今度は病ではありません。屋敷の庭で、首を吊って死んでいたのです。
少年はとても残念に思いました。大事にとっておいたのに、と。
姿のうつくしかった彼は、次第に街で遊ぶようになりました。
好意を寄せてくれる人は後を断ちませんが、彼は片端から受け入れます。
何故なら、彼に好意を寄せてくれる者の命を、彼は吸い取ってしまうからです。
吸い取った魂はとても芳しく、彼の呪いと魔術をより強いものにしてくれました。
しかし、彼が優れた魔術師として注目されるようになると、彼は人々に忌み嫌われ、遠ざけらるようになってしまいます。
彼が有名になったことで、彼の周りの人間が次々に死んでいくと気付いてしまったのです。
あの魔術師は人のいのちを吸って怪しげな力を得ているのに違いない、と口さがないものは噂しました。
それは根拠のない悪意の噂だったのですが、全ての真実を言い当てていたのです。
彼は孤独になりました。
彼に好意を寄せるものはいなくなり、魔術師としての仕事をこなす日々が続いたのです。
そんなある日のことでした。
街に、とても強い冒険者が現れたのです。
冒険者の名は、リディエールといいました。
リディエールはとても強く快活で、まるで明るい太陽のような人でした。
偶然ダンジョンで居合わせた時も、疎外されている彼に、リディエールは優しくしてくれたのです。
彼はでリディエールがとても好きになりました。
人に好かれたことはたくさんありましたが、人を好きになったことは初めてです。
彼はリディエールが欲しいと思いました。リディエールの心が、魂が、全てがほしいのです。
リディエールが自分を愛してくれたら、リディエールの魂を吸えるのに。
そうしたら、リディエールと一緒にいられるのにと、彼は思います。
彼はリディエールの気を引くため、彼のためになりそうなことを何でもしました。
リディエールが冒険者に絡まれてこまっていたら、その男の手足を切り落とします。汚い手がなければ、リディエールを触られることはありませんから、安心です。
リディエールの陰口を言うものがいれば、その目と口を縫い付けます。これでもうリディエールの悪口を言うことはないでしょう。
そうして、リディエールのためになることを、なんでもしたのです。
けれど、リディエールは彼をとても怒りました。彼にとって良いことをしたはずなのに、リディエールは自分に悪さをした人間すら憐れむのです。
なんというきれいな心の持ち主でしょう。彼はますますリディエールが好きになりました。
同時に、こんなきれいなリディエールが誰かに汚されてしまわないよう、ますます彼を守らなければいけないと心を新たにしたのです。
そんなある日、街にジークハルトという赤毛の男が現れました。
ジークハルトは強い剣士で、彼と同じようにすぐにリディエールを愛してしまいました。
ジークハルトは竜人で、番を探す旅をしていたのです。
リディエールを番と定めて、ジークハルトは毎日のように求愛し、追いかけまわしていました。
彼はリディエールを竜人の魔の手から救おうと、彼のことを好きなふりをして近付くことにします。
ジークハルトはとても強い剣士で、竜人は頑丈な体を持っているのです。
ジークハルトが彼のことを好きになれば、魂を奪うことができます。
けれど、ジークハルトはちっとも彼に靡きません。彼は諦めてジークハルトを魔術で殺すことにしました。毎日のように命を狙い、強力な攻撃を仕掛け続けたのです。
俺の言葉に、エルマンが驚いて此方を見た。
ソーニャは不愉快そうに眉を顰めて、ノエルを膝に乗せたまま足を組んだ。
「アイツしかいないでしょうね、あの変態魔術師……まだ生きていたなんて!」
ソーニャが心底忌々しそうな口調で罵ったが、俺も同感だ。
まさかまだ生きていたなんて。当の昔に死んだものと思ってたのに。
アイツが生きていると知っていたら、俺は城を飛び出すのを思いとどまったかもしれない。それぐらい会いたくない存在。
「お知り合いなのですか?」
「知り合い……っていうのかな、あれは」
「知り合いなものですか!ただ一方的に迷惑を蒙っているだけです!何度も殺してやったのに、なんてしぶとい!」
ソーニャが殺してやったのに、というのは限りなく真実に近い。
俺もソーニャもジークハルトも、あいつを本気で殺すつもりで何度も戦った。普通なら絶対に生きていないような傷を負わせたのも片手じゃ足りない。
確かに殺したと思うのに、アイツは暫く経つと何食わぬ顔で現れるのだ。
「あいつが生きていたなら、今回の事件も納得ですね。むしろアイツらし過ぎて薄ら笑えるほどですよ」
「150年経ってもまだ執着してるなんて、頭おかしいだろ」
そうだ。150年経ったんだぞ。普通の人間なら生きてるはずがない。
だけど、何度殺しても追ってくるその不気味さを、まさか今になって再び味わうことになるとは思わなかった。
「お二人にそこまで言わしめるその人物とは、誰なのですか?」
サイラスに尋ねられ、俺は答えた。
名を告げようとしただけで、脳裏にぬるりとした嫌なオーラの記憶がよみがえる。
「サイラス・リドリー。シルターンの魔術師だ」
※※※
昔、むかしのおはなし。
あるところに、一人の魔術師がいました。
魔術師は、生まれた時から強い呪いの力を持っていたのです。
最初に犠牲になったのは、彼を産んだお母さんでした。
家族は皆悲しみましたが、それが少年の呪いの力によるものとは誰も思わなかったのです。
不憫な赤ん坊だと、家族は人肌に温めた山羊の乳を飲ませ、赤ん坊を大事に育てました。
赤ん坊は健やかに成長し、彼が3歳になった頃、今度は10歳のお兄ちゃんが息を引き取ります。
父親が嘆き悲しんでいましたが、まだ幼い子供には何が起こっているのか理解できません。
父親は最後の家族である子供を大事に大事にしたのです。
彼が7つになった頃、父親は少年に新しい家族をプレゼントしました。幼い子供には母親が必要だと思ったからです。
しかし、その母親と連れ子も、すぐに原因不明の病に倒れ、死んでしまいました。
余りに続く不幸に、父親は心を病み、近所の者は呪われた家と噂しています。
そんな中でも、少年は実に健やかに成長していったのです。
少年が15歳になった頃、父親が亡くなりました。彼の最後の家族です。
今度は病ではありません。屋敷の庭で、首を吊って死んでいたのです。
少年はとても残念に思いました。大事にとっておいたのに、と。
姿のうつくしかった彼は、次第に街で遊ぶようになりました。
好意を寄せてくれる人は後を断ちませんが、彼は片端から受け入れます。
何故なら、彼に好意を寄せてくれる者の命を、彼は吸い取ってしまうからです。
吸い取った魂はとても芳しく、彼の呪いと魔術をより強いものにしてくれました。
しかし、彼が優れた魔術師として注目されるようになると、彼は人々に忌み嫌われ、遠ざけらるようになってしまいます。
彼が有名になったことで、彼の周りの人間が次々に死んでいくと気付いてしまったのです。
あの魔術師は人のいのちを吸って怪しげな力を得ているのに違いない、と口さがないものは噂しました。
それは根拠のない悪意の噂だったのですが、全ての真実を言い当てていたのです。
彼は孤独になりました。
彼に好意を寄せるものはいなくなり、魔術師としての仕事をこなす日々が続いたのです。
そんなある日のことでした。
街に、とても強い冒険者が現れたのです。
冒険者の名は、リディエールといいました。
リディエールはとても強く快活で、まるで明るい太陽のような人でした。
偶然ダンジョンで居合わせた時も、疎外されている彼に、リディエールは優しくしてくれたのです。
彼はでリディエールがとても好きになりました。
人に好かれたことはたくさんありましたが、人を好きになったことは初めてです。
彼はリディエールが欲しいと思いました。リディエールの心が、魂が、全てがほしいのです。
リディエールが自分を愛してくれたら、リディエールの魂を吸えるのに。
そうしたら、リディエールと一緒にいられるのにと、彼は思います。
彼はリディエールの気を引くため、彼のためになりそうなことを何でもしました。
リディエールが冒険者に絡まれてこまっていたら、その男の手足を切り落とします。汚い手がなければ、リディエールを触られることはありませんから、安心です。
リディエールの陰口を言うものがいれば、その目と口を縫い付けます。これでもうリディエールの悪口を言うことはないでしょう。
そうして、リディエールのためになることを、なんでもしたのです。
けれど、リディエールは彼をとても怒りました。彼にとって良いことをしたはずなのに、リディエールは自分に悪さをした人間すら憐れむのです。
なんというきれいな心の持ち主でしょう。彼はますますリディエールが好きになりました。
同時に、こんなきれいなリディエールが誰かに汚されてしまわないよう、ますます彼を守らなければいけないと心を新たにしたのです。
そんなある日、街にジークハルトという赤毛の男が現れました。
ジークハルトは強い剣士で、彼と同じようにすぐにリディエールを愛してしまいました。
ジークハルトは竜人で、番を探す旅をしていたのです。
リディエールを番と定めて、ジークハルトは毎日のように求愛し、追いかけまわしていました。
彼はリディエールを竜人の魔の手から救おうと、彼のことを好きなふりをして近付くことにします。
ジークハルトはとても強い剣士で、竜人は頑丈な体を持っているのです。
ジークハルトが彼のことを好きになれば、魂を奪うことができます。
けれど、ジークハルトはちっとも彼に靡きません。彼は諦めてジークハルトを魔術で殺すことにしました。毎日のように命を狙い、強力な攻撃を仕掛け続けたのです。
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