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31.罠
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ソーニャの一喝に、俺の目頭が熱くなる。
辛いことがあってもめげずにいつも前向きで、一生懸命で。そんな二人の姿が脳裏をよぎった。
二人ともダンジョンで死にかけたてたところを俺が助けたことで知り合ったんだ。
レベルはけして高くなかったけど、気のいい仲間たちだった。
俺はパーティーに入らないか誘ったら、パワーレベリングは絶対にしたくないと断られたっけ。
強い冒険者にくっついて、楽してレベルを上げたがるやつらなんか掃いて捨てるほどいるのに。そういう矜持の高さと、強い精神を持ったやつらだから、俺は仲間になってほしかったんだ。
「でも~~~、ソーニャ~~~!!!!」
「二人のことは後で詳しく聞かせてあげますから、今は正気に戻ってあのキチガイを倒すことに集中しなさい!」
ソーニャが愛用の世界樹の聖杖を構えて、魔法を放ち、サイラスが全身に纏わせ始めていた紫のオーラを霧散させた。
相変わらず禍々しいオーラだ。紫って何なんだ、まじで。この世界に存在する魔法属性のどれにも属さない色は、底が知れない。
「なんでなんで!?せっかくリディエールが俺と二人きりで会いたいって言ってくれてるのに、なんで邪魔するわけ??ソーニャはいっつもそうだ、俺とリディの邪魔ばっかして、だからリディエールは俺を構ってくんなかった!」
「言いがかりも大概にするんですね、幻覚でも見ているんですか?それとも150年の間に記憶が捏造されでもしましたか!」
交わされる言葉だけは子供の喧嘩のようだが、互いの杖から放たれる魔法の威力は、掠っただけでも体の一部が吹き飛ぶぐらいの強さだ。
魔力は永く時を生きるほどにより強く濃密になる。冒険者時代には殆ど使用せず、今も風魔法以外は少し覚えがある程度のスキルレベルしか持たない俺でさえ、この150年の間に練られた魔力でスキルレベルの数字では考えられないほどの威力を出せる。
魔力と魔法は同一のものではない。魔力は自身の中から湧き上がる泉の水のようなもので、それが研ぎ澄まされ良質なものになるほど、それを源として体外に発現される魔法は強力なものになる。
この二人は幼い頃から魔術師としての高い資質を持ち、その上長い時を掛けて魔力の質も練り上げられているのだから、互いに魔法の撃ち合いなどすれば周囲が巻き込まれ吹き飛んでしまうだろう。
だが、ダンジョンは多少その地形を変えはしたが、びくともしない。数秒のうちに修復が始まり、やがて元の姿へと戻っていく。
案の定、闘いは長期戦の様相を呈した。
何度も打倒されては再生するサイラスに、再生クールタイムとワープシステムを利用しながら補給しつつ戦っているが、一向にサイラスには衰えが見られない。むしろ、ずっと遊んでいるようにさえ見える。
体力以上にきついのが、アイツが攻撃しながら掛けてくる口撃のほうだ。
150年の間にどうやって過ごしてきたか語るその内容は、倫理の欠片もないものばかりで、聞くだけでメンタルを摩耗させてくる。
何度もブチ切れそうになったけど、その度に理性を働かせて耐えた。アイツの再生の秘密をソーニャが見抜くまで、それまでは。
「リディ!」
サイラスがもう何十回目かの再生を始めた時、ソーニャはやっと声を上げた。
「3、8、23です!」
「わかった!」
ソーニャの言った数字は、ワープマップにつけた俺達だけの番号だ。
きっと何かわかったのに違いない。
俺は指示に従って通路を左に曲がって3のワープへ、出た先を右折して直進し三番目の分かれ道を右に行った先の8番のワープへ飛び込む。そして、ここが一番最後まで解き明かせなかったこのフロアのミソのワープ。8番出口のワープを逆流してもう一度飛び込む。
8番のワープだけは、転移先の魔法陣にもう一度乗ることでワープが起動するのだ。これが23番めのワープ。そのワープの先には、このフロアのゴールであるボス部屋があった。
俺と間髪入れないタイミングで、別ルートからやってきたソーニャが現れる。
二人揃ってボス部屋に飛び込んで、ようやっと息を吐いた。
「あいつ、まじでバケモンだ。………どうなってんだよ!」
「落ち着いてください、リディ。あいつの再生の秘密がわかりました。アイツは恐らく自分の異空間に生き物を飼っています。そして、死滅するたびそれらから命を吸い上げて再生しているのでしょう。どれくれぐらいの数いるのかわかりませんが……」
「あの余裕からして相当な数だろうな………」
今までアイツを再生させた数だけ命を消費させていたのかと思うと心が痛む。
けれど、異空間は本人にしか開くことができない。アイツを倒せば永遠に閉じられてしまう場所では、助けることなどできそうもなかった。
「……可哀想だけど、仕方ないんだよな。アイツに異空間を開かせるなんて、できそうもねぇし……」
「あなたのせいじゃありませんよ、相変わらず優しすぎます」
ソーニャが落ち込む俺の頭をよしよしと撫でて慰める。
しなやかな指先に嵌められた見慣れない指輪にほんの一瞬違和感を感じたが、この緊急時に魔導具くらい使用するかと疑念は霧散した。
―――――――その直感を信じていれば良かったのに。
「優しいリディ……今度こそ掴まえました」
辛いことがあってもめげずにいつも前向きで、一生懸命で。そんな二人の姿が脳裏をよぎった。
二人ともダンジョンで死にかけたてたところを俺が助けたことで知り合ったんだ。
レベルはけして高くなかったけど、気のいい仲間たちだった。
俺はパーティーに入らないか誘ったら、パワーレベリングは絶対にしたくないと断られたっけ。
強い冒険者にくっついて、楽してレベルを上げたがるやつらなんか掃いて捨てるほどいるのに。そういう矜持の高さと、強い精神を持ったやつらだから、俺は仲間になってほしかったんだ。
「でも~~~、ソーニャ~~~!!!!」
「二人のことは後で詳しく聞かせてあげますから、今は正気に戻ってあのキチガイを倒すことに集中しなさい!」
ソーニャが愛用の世界樹の聖杖を構えて、魔法を放ち、サイラスが全身に纏わせ始めていた紫のオーラを霧散させた。
相変わらず禍々しいオーラだ。紫って何なんだ、まじで。この世界に存在する魔法属性のどれにも属さない色は、底が知れない。
「なんでなんで!?せっかくリディエールが俺と二人きりで会いたいって言ってくれてるのに、なんで邪魔するわけ??ソーニャはいっつもそうだ、俺とリディの邪魔ばっかして、だからリディエールは俺を構ってくんなかった!」
「言いがかりも大概にするんですね、幻覚でも見ているんですか?それとも150年の間に記憶が捏造されでもしましたか!」
交わされる言葉だけは子供の喧嘩のようだが、互いの杖から放たれる魔法の威力は、掠っただけでも体の一部が吹き飛ぶぐらいの強さだ。
魔力は永く時を生きるほどにより強く濃密になる。冒険者時代には殆ど使用せず、今も風魔法以外は少し覚えがある程度のスキルレベルしか持たない俺でさえ、この150年の間に練られた魔力でスキルレベルの数字では考えられないほどの威力を出せる。
魔力と魔法は同一のものではない。魔力は自身の中から湧き上がる泉の水のようなもので、それが研ぎ澄まされ良質なものになるほど、それを源として体外に発現される魔法は強力なものになる。
この二人は幼い頃から魔術師としての高い資質を持ち、その上長い時を掛けて魔力の質も練り上げられているのだから、互いに魔法の撃ち合いなどすれば周囲が巻き込まれ吹き飛んでしまうだろう。
だが、ダンジョンは多少その地形を変えはしたが、びくともしない。数秒のうちに修復が始まり、やがて元の姿へと戻っていく。
案の定、闘いは長期戦の様相を呈した。
何度も打倒されては再生するサイラスに、再生クールタイムとワープシステムを利用しながら補給しつつ戦っているが、一向にサイラスには衰えが見られない。むしろ、ずっと遊んでいるようにさえ見える。
体力以上にきついのが、アイツが攻撃しながら掛けてくる口撃のほうだ。
150年の間にどうやって過ごしてきたか語るその内容は、倫理の欠片もないものばかりで、聞くだけでメンタルを摩耗させてくる。
何度もブチ切れそうになったけど、その度に理性を働かせて耐えた。アイツの再生の秘密をソーニャが見抜くまで、それまでは。
「リディ!」
サイラスがもう何十回目かの再生を始めた時、ソーニャはやっと声を上げた。
「3、8、23です!」
「わかった!」
ソーニャの言った数字は、ワープマップにつけた俺達だけの番号だ。
きっと何かわかったのに違いない。
俺は指示に従って通路を左に曲がって3のワープへ、出た先を右折して直進し三番目の分かれ道を右に行った先の8番のワープへ飛び込む。そして、ここが一番最後まで解き明かせなかったこのフロアのミソのワープ。8番出口のワープを逆流してもう一度飛び込む。
8番のワープだけは、転移先の魔法陣にもう一度乗ることでワープが起動するのだ。これが23番めのワープ。そのワープの先には、このフロアのゴールであるボス部屋があった。
俺と間髪入れないタイミングで、別ルートからやってきたソーニャが現れる。
二人揃ってボス部屋に飛び込んで、ようやっと息を吐いた。
「あいつ、まじでバケモンだ。………どうなってんだよ!」
「落ち着いてください、リディ。あいつの再生の秘密がわかりました。アイツは恐らく自分の異空間に生き物を飼っています。そして、死滅するたびそれらから命を吸い上げて再生しているのでしょう。どれくれぐらいの数いるのかわかりませんが……」
「あの余裕からして相当な数だろうな………」
今までアイツを再生させた数だけ命を消費させていたのかと思うと心が痛む。
けれど、異空間は本人にしか開くことができない。アイツを倒せば永遠に閉じられてしまう場所では、助けることなどできそうもなかった。
「……可哀想だけど、仕方ないんだよな。アイツに異空間を開かせるなんて、できそうもねぇし……」
「あなたのせいじゃありませんよ、相変わらず優しすぎます」
ソーニャが落ち込む俺の頭をよしよしと撫でて慰める。
しなやかな指先に嵌められた見慣れない指輪にほんの一瞬違和感を感じたが、この緊急時に魔導具くらい使用するかと疑念は霧散した。
―――――――その直感を信じていれば良かったのに。
「優しいリディ……今度こそ掴まえました」
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