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2章
13.初めての弟子
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「ほっ、本当ですか!?センセイ!!私のセンセイになってくれるんですね!?」
「おお、なってやるなってやる。なんならジークもノエルもなってやるぞ」
「リディの頼みなら任せろ!」
「ウォンウォンッ!」
「えっ、ワンちゃんまで……???」
困惑するポニテだったが、そっとノエルの冒険者カードを見せたら衝撃を受けた顔をして複雑そうに頷いた。
よろしくお願いします、とノエルのぽてぽての手を握って挨拶を始める。素直なところはいいんだけど、歪んだ教育の副産物と思うとちょっと切ない。
到着した城は、境遇を聞いて想像していたよりは立派だった。ちょっと古いけど、よく手入れされているって感じだ。
ポニテに案内されるまま客間に入ると、テーブルにはもてなしのお菓子やサンドイッチなどがある。
俺たちが席につくと、すぐにメイドがお茶を淹れてくれた。
お腹は膨れているが、甘いものは別腹だ。俺はノエルを膝に乗せてマドレーヌに食いついた。はちみつの甘味と、ふんわりとした花の香りが鼻を掠める。
「あっ、うまい」
「気に入って頂けましたか?もしよろしければ、後ほど手土産にいたしますのでお持ち帰り下さい。宿にも色々と迷惑を掛けたので、店の者にも渡していただけると」
一応そういう自覚はあるのか。
しかし、だったらあの訓練場での態度はなんだったんだ??ポニテはちょっとアレだが人は悪くないように思えるし、ジークハルトに絡んできた態度が不自然に感じる。
「平民にもそういう配慮ができるのに、なんで訓練場ではあんなだったんだ?」
ポニテはちょっと困ったような顔をして、お恥ずかしいと頬を掻く。
「王族は民の前で舐められてはいけないという決まりがあるのです。ライルもお調子者ですが、悪気があるわけではなくて……申し訳ありません」
碌なもんじゃないな、王族教育。
しかし、王族の実態を知らない民たちはともかく、貴族たちには十把一絡げの王族と侮られてもおかしくない。
なんたって、まず国の中枢に絡んでこない地方役人予備軍程度の力しかないんだからな。一度侮辱を許したら、そういう扱いでも咎められないと思って歯止めが効かなくなる可能性もあるのか。
あながち間違ってもないのかもしれないが、端から見ると完全にただの器の小さい奴にしか見えない。
「お前も辛い立場なのはわかるけど、ちっちゃい事で騒ぐのはかえって評価を下げるぞ。器の大きさを見せることも大切だ」
「なるほど……勉強になります、センセイ」
ポニテは真剣に頷いている。ほんとに素直すぎるんだよなぁ………いつか変な詐欺に引っかからないか心配だ。
俺は紅茶を啜って喉を潤した後、ノエル用のミルクパンを千切って与えながら話を続けた。
「ところで、なんで俺なんだ?確かにお前らを直接ぶっ飛ばしたのは俺だけど、どう見てもジークのが強そうに見えるだろ?」
実際悔しいけど化け物級に強いし。
元の体の時ならともかく、子供にしか見えない俺とジークなら、普通はジークに弟子入りを頼むのが普通だ。
「そうなのですが、ジークハルトさんは見るからに大きな剣を持っていらっしゃいますし、自主トレに励んでも今程度の筋力しかない私では、教えを請うても到底真似できないと思いまして。センセイがその小さな体でライルを壁際まで吹き飛ばした時は、感動いたしました。たとえ肉体的に劣っていても強くなる方法はあるのだと!!!!」
なるほど、あの時ぽかんとして立ち尽くしてたのは、そういう感銘を受けていたのか。
頭に血が上ってたから全然気が付かなかった。
「それに、お二人に血の繋がりはないでしょう??」
「何故そう思う?」
ジークハルトがポニテに根拠を尋ねると、ポニテはちょっと『しまった』という顔をして考えた後、小さく肩を竦めて話し始めた。
「私も王族の端くれですから、多少なりとも妖精の加護を持っているのです。私の場合は、その人のオーラの色がわかります。集中しないとダメですけどね」
内緒にしてくださいね、とポニテは唇に人差し指を当てる。元々女顔なので、ちょっとかわいい。
「オーラで血縁がわかるのか?」
「基本的にはその人間の持つ属性がわかるという感じなのですが、血の繋がった親子関係にあって全く違う属性になるということはまずありません。この属性というのは、本人の体に流れる血が潜在的に持つもので、魔法として発現できるか否かとは関係がないのです。ジークハルトさんのオーラの色は、センセイには全く受け継がれておりませんので、親子ではあり得ないな、と」
「なるほど……。すごいじゃん、お前」
「えっ、そんな。私なんて」
ポニテは普段あまり褒められ慣れていないのか、照れたように俯いてはにかんでいる。
なんだよ、虹色の瞳じゃなくても真実を見抜く目はあるじゃないか。他人の親子関係が見るだけでわかるなんて、密偵や裁判官、門番向きだぞ。
こういう力もあるから、王族に国外に出ることを禁じているんだろうな。
「あの赤毛もなんか特別な力とかあんの?」
「そ、それはちょっと……お許しください、センセイ」
「3日で強くなれるかもな必殺技、教えてやるから」
「ライルはですね、透視の能力を持っているんです!相手が隠し持っている暗器なんかを見つけることができるんですよ!大抵王族は一人1つしか能力がないんですけど、毒が入っていないかわかる者とか、うっすらですが相手の感情を察知できる者なんかもいるのです」
必殺技に負けて、ポニテは赤毛と見知らぬ誰かの能力を明かした。
どれも凄い能力に思えるし、護衛向きの能力と言える。確かにそれと比べると、ポニテの能力は護衛向きではないかもしれない。
「そこだけ聞くと、お前は護衛より領主の方が向いてると思うけど、なんで護衛になりたいんだ???やっぱり大公を慕ってるから??」
「それは………ちょっと、色々ありまして……すみません、センセイ」
ポニテは恐縮したように眉を下げたが、それ以上は口を開かなかった。
能力を尋ねた時の反応より頑ななのを見て、とりあえず今は教えて貰えなさそうだと悟る。
「まぁいいさ、訓練は明日からにしよう。俺も準備があるし。お前も明日は森に入れるような装備と弁当持ちで朝イチに宿屋に来い。明日は部屋に通していいって女将に言っておくから、部屋には一人で来いよ。護衛は連れてこないか、馬車で待たせとけ。早くても夕方過ぎまでかかるから、それも言っとくこと。いいな」
「わかりました!今から気合が入ります……!!!」
その後はお互いの親交を深めるためのお茶会になった。
俺たちは身分を深めるため隠しているから話すわけにいかないことも多いけど、昔冒険者やってた頃の話をするとポニテは興奮して手に汗を握り、やっぱり本物のサムライですと叫んだ。
帰り際にお土産として菓子と一緒に渡されたヒストリーノベルは予想外に面白くて、俺もジークもちょっとハマってしまったのだった。
「おお、なってやるなってやる。なんならジークもノエルもなってやるぞ」
「リディの頼みなら任せろ!」
「ウォンウォンッ!」
「えっ、ワンちゃんまで……???」
困惑するポニテだったが、そっとノエルの冒険者カードを見せたら衝撃を受けた顔をして複雑そうに頷いた。
よろしくお願いします、とノエルのぽてぽての手を握って挨拶を始める。素直なところはいいんだけど、歪んだ教育の副産物と思うとちょっと切ない。
到着した城は、境遇を聞いて想像していたよりは立派だった。ちょっと古いけど、よく手入れされているって感じだ。
ポニテに案内されるまま客間に入ると、テーブルにはもてなしのお菓子やサンドイッチなどがある。
俺たちが席につくと、すぐにメイドがお茶を淹れてくれた。
お腹は膨れているが、甘いものは別腹だ。俺はノエルを膝に乗せてマドレーヌに食いついた。はちみつの甘味と、ふんわりとした花の香りが鼻を掠める。
「あっ、うまい」
「気に入って頂けましたか?もしよろしければ、後ほど手土産にいたしますのでお持ち帰り下さい。宿にも色々と迷惑を掛けたので、店の者にも渡していただけると」
一応そういう自覚はあるのか。
しかし、だったらあの訓練場での態度はなんだったんだ??ポニテはちょっとアレだが人は悪くないように思えるし、ジークハルトに絡んできた態度が不自然に感じる。
「平民にもそういう配慮ができるのに、なんで訓練場ではあんなだったんだ?」
ポニテはちょっと困ったような顔をして、お恥ずかしいと頬を掻く。
「王族は民の前で舐められてはいけないという決まりがあるのです。ライルもお調子者ですが、悪気があるわけではなくて……申し訳ありません」
碌なもんじゃないな、王族教育。
しかし、王族の実態を知らない民たちはともかく、貴族たちには十把一絡げの王族と侮られてもおかしくない。
なんたって、まず国の中枢に絡んでこない地方役人予備軍程度の力しかないんだからな。一度侮辱を許したら、そういう扱いでも咎められないと思って歯止めが効かなくなる可能性もあるのか。
あながち間違ってもないのかもしれないが、端から見ると完全にただの器の小さい奴にしか見えない。
「お前も辛い立場なのはわかるけど、ちっちゃい事で騒ぐのはかえって評価を下げるぞ。器の大きさを見せることも大切だ」
「なるほど……勉強になります、センセイ」
ポニテは真剣に頷いている。ほんとに素直すぎるんだよなぁ………いつか変な詐欺に引っかからないか心配だ。
俺は紅茶を啜って喉を潤した後、ノエル用のミルクパンを千切って与えながら話を続けた。
「ところで、なんで俺なんだ?確かにお前らを直接ぶっ飛ばしたのは俺だけど、どう見てもジークのが強そうに見えるだろ?」
実際悔しいけど化け物級に強いし。
元の体の時ならともかく、子供にしか見えない俺とジークなら、普通はジークに弟子入りを頼むのが普通だ。
「そうなのですが、ジークハルトさんは見るからに大きな剣を持っていらっしゃいますし、自主トレに励んでも今程度の筋力しかない私では、教えを請うても到底真似できないと思いまして。センセイがその小さな体でライルを壁際まで吹き飛ばした時は、感動いたしました。たとえ肉体的に劣っていても強くなる方法はあるのだと!!!!」
なるほど、あの時ぽかんとして立ち尽くしてたのは、そういう感銘を受けていたのか。
頭に血が上ってたから全然気が付かなかった。
「それに、お二人に血の繋がりはないでしょう??」
「何故そう思う?」
ジークハルトがポニテに根拠を尋ねると、ポニテはちょっと『しまった』という顔をして考えた後、小さく肩を竦めて話し始めた。
「私も王族の端くれですから、多少なりとも妖精の加護を持っているのです。私の場合は、その人のオーラの色がわかります。集中しないとダメですけどね」
内緒にしてくださいね、とポニテは唇に人差し指を当てる。元々女顔なので、ちょっとかわいい。
「オーラで血縁がわかるのか?」
「基本的にはその人間の持つ属性がわかるという感じなのですが、血の繋がった親子関係にあって全く違う属性になるということはまずありません。この属性というのは、本人の体に流れる血が潜在的に持つもので、魔法として発現できるか否かとは関係がないのです。ジークハルトさんのオーラの色は、センセイには全く受け継がれておりませんので、親子ではあり得ないな、と」
「なるほど……。すごいじゃん、お前」
「えっ、そんな。私なんて」
ポニテは普段あまり褒められ慣れていないのか、照れたように俯いてはにかんでいる。
なんだよ、虹色の瞳じゃなくても真実を見抜く目はあるじゃないか。他人の親子関係が見るだけでわかるなんて、密偵や裁判官、門番向きだぞ。
こういう力もあるから、王族に国外に出ることを禁じているんだろうな。
「あの赤毛もなんか特別な力とかあんの?」
「そ、それはちょっと……お許しください、センセイ」
「3日で強くなれるかもな必殺技、教えてやるから」
「ライルはですね、透視の能力を持っているんです!相手が隠し持っている暗器なんかを見つけることができるんですよ!大抵王族は一人1つしか能力がないんですけど、毒が入っていないかわかる者とか、うっすらですが相手の感情を察知できる者なんかもいるのです」
必殺技に負けて、ポニテは赤毛と見知らぬ誰かの能力を明かした。
どれも凄い能力に思えるし、護衛向きの能力と言える。確かにそれと比べると、ポニテの能力は護衛向きではないかもしれない。
「そこだけ聞くと、お前は護衛より領主の方が向いてると思うけど、なんで護衛になりたいんだ???やっぱり大公を慕ってるから??」
「それは………ちょっと、色々ありまして……すみません、センセイ」
ポニテは恐縮したように眉を下げたが、それ以上は口を開かなかった。
能力を尋ねた時の反応より頑ななのを見て、とりあえず今は教えて貰えなさそうだと悟る。
「まぁいいさ、訓練は明日からにしよう。俺も準備があるし。お前も明日は森に入れるような装備と弁当持ちで朝イチに宿屋に来い。明日は部屋に通していいって女将に言っておくから、部屋には一人で来いよ。護衛は連れてこないか、馬車で待たせとけ。早くても夕方過ぎまでかかるから、それも言っとくこと。いいな」
「わかりました!今から気合が入ります……!!!」
その後はお互いの親交を深めるためのお茶会になった。
俺たちは身分を深めるため隠しているから話すわけにいかないことも多いけど、昔冒険者やってた頃の話をするとポニテは興奮して手に汗を握り、やっぱり本物のサムライですと叫んだ。
帰り際にお土産として菓子と一緒に渡されたヒストリーノベルは予想外に面白くて、俺もジークもちょっとハマってしまったのだった。
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