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2章

17.竜王妃のやらかし

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「お前に私の行動に口を挟む権利などないだろう」

「そういう訳に行くか。俺より賢いお前には、俺たち地方王族の立場はよくわかってるだろうが」

 ポニテは赤毛の言葉に言い返しこそしないが、ツンとした態度で赤毛を黙殺した。
 それ以上話すつもりはないという態度に、赤毛は矛先をこちらに向ける。

「おい、お前らコイツに何した?何処行ってたのか詳しく話せ」

 あんだけ力の差を見せつけられて、それでも上から出られる度胸だけは買ってやるが、話す義理などない。
 万が一にも知られることはないだろうが、ポニテを国外まで連れ出していたことがわかったら、ポニテの立場が悪くなる。
 俺は肩をすくめて赤毛をつまみ出すべく近づいた。

「生憎俺たちにも話す義理なんかないんでね。人の借りてる部屋に勝手に居座っといてどういう神経してんだ?早く出ていけ」

「すっ、すみませんセンセイ……!!!お約束は絶対守りますから!!!!さっ、行くぞ!!!」

 ポニテは慌てて赤毛の首根っこを引き掴んで思い切り引っ張った。
 赤毛は『グエッ』という苦しげなうめき声を上げて、されるがままにドアの方へと引きずられていく。
 赤毛のほうがポニテより7センチほど背が高いしガタイもいいのだが、どうやら拳に身体強化を施しているようだ。実生活でもきちんと使いこなせているとは、偉い。明日褒めてやらねば。

 ドアの向こうで赤毛が抗議を上げている声と、機嫌の悪そうなポニテの冷たい声が聞こえていたが、宿を出ていったのか、やがて聞こえなくなった。

「…………腹減ったし、飯にしよっか」

 俺はノエルに軽いオヤツを与えてから食堂へと降りた。
 少し待たせてしまうが、女将がいつもノエルのゴハンも用意してくれていて、ノエルもそっちのほうがやっぱり美味しいらしい。
 食堂は宿泊客や飲みに来た客で既に混雑しており、俺とジークハルトはカウンターを陣取ることにした。ここのカウンター席はテーブルが広いし、一人客や体格のいい利用者に配慮して間隔も広めに確保されていて、不都合は全く無かった。

「おつかれさん!あんたたち、今日も丸一日部屋に閉じこもってたのかい?」

 女将さんが少し呆れたような顔をしながらスープとサラダを出してくれる。冷たいお水はピッチャーごとのセルフ形式で、いちいちお願いする必要がないのが嬉しい。
 今日のメニューは鶏肉のパリパリ揚げとサーモンのマリネ、ミネストローネスープとコールスローだ。
 相変わらずちょっとカロリー高めな編成ではあるけど、屈強な肉体労働者のオッサンが食べる晩飯にグリーンサラダの需要はありそうにないしな。
 身にならないよう、そのうち俺も少し運動しないとかもしれない。

「リディ、熱いから気をつけろ」

 これまたいつものように、ジークハルトが料理を取って差し出してくる。
 今回はカウンターだから、それほど世話を焼く必要がないのだが、なくても作るのが竜人のオスである。
 俺の機嫌を損ねると一切の給餌を禁じられるため、鶏肉をフーフーこそしてこないが、マリネを取り分けたついでに『あーん』してきたりはした。
 毎食これだとややウンザリすることもあるのだが、これも竜人のオスを伴侶とした妻のつとめだ。断ると大の男でも……いや、大の男ほどショックを受けるので、受け止めてやらなくてはならない。

 そういえば、一度夫婦喧嘩中だった将軍の奥方が『ふざけないで!そんな気分じゃないわ!』と拒絶して、旦那に泣かれて滝の汗を流したという事件があったっけ。
 あれは酷い事件だった……。奥方と将軍の肩を持つ勢力が二分して、会場がそれはもう険悪なムードになったからな。
 結局将軍が奥さんを暫く蔑ろにしていたのは奥方との結婚20周年記念日のためにサプライズを仕掛けようと無理していたからで、妻に誤解させた自分がいけないと奥さんを庇い、奥方がそれを知って感動して将軍に素直に謝罪し、2人でアイスクリームを食べさせ合って仲直りという形で収まったのだが、一時はどうなることかと思った。


「そういや、あの赤毛なんでわざわざ宿にまで押しかけて来たんだろうな。俺たちを追ってって言うよりはポニテの後をつけてきたって感じがしたけど」

「さぁな。リディ、ポニテの冒険者カードだけはこっちで出すなよ」

 ジークハルトに釘を刺され、俺は頷いた。
 なんてったって、称号のところに『竜王妃の一番弟子』って入っちゃってるもんな。ノエルの神獣騒ぎといい、称号で他人の秘密暴いていくスタイル、ほんとどうかと思う。
 俺たちの冒険者カードはソーニャが隠匿施してくれてるからいいけど、ポニテのはこのままじゃ本人にすら見せられない。
 今日だって、成果を見たいと強請るポニテを『まだ早い、もう少し上がったら見せてやる』と説得したところだ。
 いつまでも同じ手は通用しないから、早いとこソーニャのところに行かなくちゃいけないな。

 その予定を後押しするように、女将さんから『一度部屋の掃除をしたいから、明日は2時間ほど部屋を空けてくれるかい?』とお願いがあった。これはもう明日行くっきゃない。
 ポニテには悪いが、明日は修行は昼まで待ってもらうか。手紙でも託しておけば大丈夫だろう。
 俺は女将の申し出を快諾し、デザートのプリンを持ってきてくれた堪能したのだった。

 
 ※※※


「ないっっっっっっっっっ」


 翌朝、俺は真っ青になって異次元バッグを逆さに振った。
 なんでもいいから中身出てこいと念じながら振りたくっていると、ジークハルトに止められる。

「まてまてリディ、落ち着け!マジックバッグから大量の食料と食器と衣服がこぼれまくってんぞ。手ぇ入れて念じりゃ出てくるから!」

「そ、そうだけど、わかってんだけど、でもないんだもん!!!服のポッケにも懐にもなかったし、バッグになかったら何処に行っちゃったんだよ」

 俺は混乱していた。めたくそにマジックバッグを振りまくっていたのは、認めたくなかったからだ。バッグの中に当てのものが入っていないことを。

「うそうそうそうそ。なんで?どっかで落とした??まさか転移した時??」

 転移魔法で空間に落とし物をするなんて聞いたことがない。だけど、あれを誰かに見られるのは絶対にやばいんだ。

「落ち着けリディ、順を追って考えよう。置き忘れや入れた場所の勘違いなんて良くあるだろ。冷静になって記憶を辿ればきっと見つけられる」

「そ、そうだよな。えーとえーと……」

「まず、一体何がないんだ?」

 ジークハルトの問いかけに、俺はへニャリと眉を下げてゴニョゴニョと小声で呟いた。殆ど音にならず、ジークハルトにも聞き返されてしまう。

「………………ド……」

「え?」

「ポ、ポニテのカード、なくしちゃった~~~!!!!!!」



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