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闘技大会編
ノエルvsレオン、決着
しおりを挟む「見せてやろう―――――獣人の本当の戦い方というものを!!」
そうレオンは叫ぶと、二刀を前面に構える。
レオンの周りの雰囲気がさっきまでとは違うことに気づいたノエルは一層警戒心を強くしながら、即座に小声で詠唱を終え、風球を発動待機させた。
「―――――いくぞ?」
“準備はいいか?”とでもいうかのようにそうノエルに声をかけると、レオンは大きく地を蹴って、ノエルに向かって駆け出す。
獣人の持つ身体能力によって前へと進められた彼の全身は疾風となってノエルへと恐ろしい速さで向かって行く。
「くっ……!!」
ノエルはレオンの速さに戸惑いながらも、即座に反応。バックステップで距離をとりながら正確にレオン額に向けて矢を発射する。
だが、それをレオンは意にも解さないかのように軽々と右手に持つ剣で斬り飛ばして見せる。
しかし、ノエルもそんな攻撃が当たるとは最初から思ってはいない。
ノエルは最初の矢を隠れ蓑として使用、その背後から本命である風球を使用して放つ加速する矢を発射、二段構えの攻撃をしていたのだ。
因みにこの加速する矢はノエルが自分で付けたちょっと痛い技名だったりするのだが、それはともかく、結果、矢を斬り飛ばした直後のレオンの元に隠されていた高速の矢がレオンの額を襲う。
咄嗟とは思えない練りこまれた攻撃に思わず舌を巻くレオン。
(ふむ、いい反応だ。だが……それでもまだ私には届かない!!)
通常であれば考える間もなく、気づいた時には打ち抜かれてしまうであろうというほどの速さで飛来する矢。
だが、それを目の前にしてレオンの思考は再び加速し、周囲の全ての時が緩やかに流れ始める。
人間の限界を遥かに超える獣人の身体能力のさらにその限界を超えるという愚行に対し、身体が悲鳴を上げるが、レオンはそれを一蹴し、さらに加速。
結果、加速に加速を重ねたレオンの剣はアクセルアローすらも切り裂いて見せた。
「―――なっ……!!」
「獣人の身体能力、それを一瞬だけ超え、思考、身体、五感の限界を超えて動かす獣人のみに許された技、それこそが≪超過駆動≫だ。
―――――これが使えない君では私には勝てない!!」
自分の隠し技を遂に躱されるのではなく、斬り飛ばされたという事実に動揺を隠せないノエルに対して、教えるかのようにそう言いながらノエルへと突っ込んで来るレオン。
対して内心の動揺故に一瞬その動きが止まってしまうレオンはその隙をついてノエルの眼前まで接近するとノエルに斬りかかる。
「これで終わりだ!!」
レオンは勝負を決めようと力強く二刀を振るう。
だが、ノエルは迫りくる剣に対して意識を覚醒し、反応。懐の短剣とボウガンのグリップで二刀による攻撃をなんとか抑えて見せた。
「ほう、驚いたな、まさか近接戦闘もできるとは……まぁ獣人の身体能力ならできて当然なのかもしれないが、それだけじゃない。
どうやら、君に戦闘技能を教えた人間は中々の強者のようだ」
「……中々、じゃない、アキラはさいきょ…うっ!!」
そう答えて大きく二刀を弾くと即座に距離をとろうとするノエル。だが、レオンはそれを許さない。
レオンは一足でノエルとの間の距離を詰めると、息もつかせぬ二刀の連撃を繰り出す。
それを何とかグリップの底と短剣を用いて防ぐノエルだったが、如何せん、リーチが違う。
それに加えてレオンが二刀で攻撃してくるのに対し、ノエルが使っているのは短剣とボウガンのグリップ。
短剣はともかく、ボウガンのグリップなど武器と言えるのかどうかすら怪しいものを使って防いでいるのである。
必然、ノエルがレオンの攻撃を捌ききれなくなるのも時間の問題だった。
「ふむ、そんなものでこれだけの攻撃を捌くとは流石だね……でもそれがいつまで続くかな?」
そう言いながらノエルの左上からレオンの剣が彼女の意識を刈り取ろうと襲って来る。
ノエルはそれを器用に左手に持つボウガンのグリップで受け止めるが、そこを狙って今度は右側面からレオンの剣が振るわれていた。
その殺人的な連撃を前にノエルは上手く右手の短剣を合わせ、何とか防いで見せる。
「くっ……!!」
レオンの猛攻を必死に防ぎながら、苦悶の表情を浮かべるノエル。
その表情はノエルの限界が近いことを表していた。
「その顔、どうやらそろそろ限界みたいだな。このまま続けても君には勝てるだろうが、それは君に失礼な気がする。
だから……そろそろ決めさせてもらおう!!」
レオンはノエルにそう告げると≪超過駆動≫を発動させ、強制的に肉体の限界を超え、恐るべき速さで二刀を振るう。
ノエルにはその持前の五感により、何とかその振るわれる剣が見えていた。
だが、ノエルにそれが見えていても、身体の方がその速さに追いつかない。
音速を超える速さで二刀が両側からノエルにとどめを刺そうと迫って来る。
―――――――負ける。このままでは負けてしまう。
ノエルは二刀を目の前にし、そう直感する。
恐らく数瞬後にはあの二刀は自身の体を切り裂き、その意識を刈り取ってしまうであろうことなど容易に想像が出来ていた。
そして、今の自分にそれを防ぐ手立てがないことも理解している。だが……それでも……
(―――それでも……負けたくないっ!!)
―――――瞬間、時が止まった。
否、止まったのではない、まるで止まったかのように見えてしまうほど、時の流れが遅くなったのである。
まるで世界が止まり、その異空間の中で自分だけが取り残されてしまったかのような感覚。
全く現実感の無いその世界の中で、限界を超えたことによる全身の悲鳴だけがノエルに現実感を与えてくれていた。
(……そうか…これが≪超過駆動≫……すごい、けど、すごく辛い……)
加速した思考の中でそんなことを考えるノエル、しかし、そんな世界の中でもレオンの剣はゆっくりとノエルへと迫って来ている。
だが、その対処方法はすでにわかってる。
どうすればその攻撃を防げるかもわかってる。
どうすれば反撃できるかも分かってる。
そして―――どうすれば倒せるかすらも……
(―――――わかってる!!)
そして、時は緩やかに動き出す。
―――――キンッ!!
フィールドに響き渡った金属音は時の再開と、ノエルが防げなかったはずの二刀を防いだことを意味していた。
「―――――ッ!?」
(まさか、この戦いの最中に≪超過駆動≫へといたったたというのかッ!?
ノエル……まさかここまで……だがッ!!)
自分の攻撃が防がれたことに驚きを隠せないレオン。
されど、レオンもそこで終わるような男ではない。
即座に体勢を立て直すと、再びノエルに切りかかった。
(くっ……やっぱり、早いっ……でもっ!!)
だが、その時にはすでにノエルの手にはボウガンの次弾となる矢が握られている。
ノエルは剣を弾くとそのまま流れるように矢を装填、発射準備を完了させると、その発射口をレオンの額に向けた。
(いい動きだ。流石は……だが、それでもッ!!)
それに気づき、もう防げないことを悟ったレオンは撃たれるよりも素早くとどめを刺そうと恐ろしい速さで剣を振るう。
『―――――ハアァァァァァッ!!』
二人の叫び声が重なり、そして次の瞬間―――――勝敗は決した。
◆◆◆◆
「決まったぁぁぁ~!! この熱い戦いを制したのは……レオン選手です!!」
司会がフィールドの状況を見て、そんな声を上げる。
フィールドには疲労により膝をついているレオンと……気絶し、倒れているノエルの姿があった。
湧き上がる会場、だが、レオンはその中で勝者であるにもかかわらず、苦い顔を浮かべている。
レオンは自身の勝利に対し、まったく納得していなかった。
(確かに、結果的に見れば私の勝利だ。
だが、もしも……もしもあの時、彼女の限界を超えた動きについてこれなかったボウガンが故障を起こしさえしなければ、あそこで横たわっていたのは私だったかもしれない……)
そう思い、もう一度レオンはノエルの方を見る。
少女は力を使い果たし、しかしどこか満足げな顔で眠っていた。
(いくら奥の手は出していないとはいえ、≪超過駆動≫まで使った私をここまで追い詰めるとは……ああ、そうか、君は強くなったのだな、ノエル……)
レオンはそんなことを考えながら、歓声を背に、どこか嬉しそうにフィールドを後にした。
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