ウソツキは権利だけは欲する

かかし

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隣の芝生はなんとやら

あー!可愛い!

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「恋人だったんです。」

にっこりと、許斐くんが笑う。
学生の頃、好きだった笑顔。
付き合っていた頃に見たくて仕方なかった笑顔だ。
でも今この瞬間、嫌で嫌で仕方ない。
耀司くんが言っていた、の意味が分かった。
こんな、こんな危害を加えることを前提とした目で耀を見ていたというのか!

「そうだね、君の浮気で別れたけど。」

キッパリとそう言ってやれば、まさか言われると思わなかったのか許斐くんの目が驚愕の色に染まり見開かれる。
なんだ、僕が言わないと思ってたのか。
どれだけなめられてるんだか………まぁ僕のことを見下そうが何しようが構わないが、耀司くんを見下すなんて許せない。

「思えばよくのうのうと、あんな親しげに僕に話し掛けられたね。帰ろう、耀司くん。コンビニお夜食はまた今度。意地悪が移る。」

子供みたいな言葉しか出なかったけど、とにかく耀司くんをここから遠ざけたかった。
こんな悪意しかない人に、極力関わらせたくはない。
仕事は仕方ないけど。
そう思いながらぐいぐいと耀司くんの背中を押して、ふと気付く。

「別に僕のことをどう思おうと構わないけど、この事を仕事に持ち込むなんて公私混同して耀司くんのお仕事を邪魔しようものなら絶対に許さないから。」

しっかりと釘を刺しておく。
勿論、どこまで有効なのかは分からないけど、用心するに越したことはない。
場合によっては会社に相談するか?
でも耀司くんの立場が悪くなる?
どうするのが正解なのかは分からないけど、でも兎に角耀司くんが許斐くんの目の前に居るってことが不愉快で仕方なかった。
許斐くんの視線が、僕の背中に突き刺さる。
それがどんな色を秘めているのかは分からない。
でもそれが何色だとして、耀司くんに対していい意味を孕んではいないのだ。

「康介。」
「なぁに?コンビニお夜食したかった?ごめんね、僕お家帰ったら作るから………」
「そうじゃなくてさ。」
「ん?」

コンビニの駐車場から出て少しした辺りで、耀司くんが少し言いにくそうに口を開いた。
もじもじと、ちょっと言いにくそうにするのは照れてる時の耀司くんの癖だ。
可愛い。
いや、そうじゃなくて、何を照れたんだこの子は。
照れるようなやり取りあったっけ?

「ありがとう。俺が嫌な目してくるって言って嫌がってたから、怒ってくれたんだろ?」

うーん、ちょっと違う。
どっちかと言えば、僕自身の為なんだけどな。
でも照れ照れモジモジしてる耀司くんが可愛いので、その勘違いはありがたく受け取ることにする。

「あんな目に耀司くんを晒したくなかった。」

それだけは事実だ。
思い出すだけで腹立つ。
何、あの目。
僕と耀司くんを見下して、僕達の仲を悪戯に引っ搔き回そうとしている目だ。
間違いない。
僕の経験がそう言ってる。

「今度は僕が耀司くんを護るからね!」
「なんだそれ。でも嬉しい、ありがとう。」

運転中だから真剣に前を見ながら、それでもにひにひと耀司くんが笑う。
なんだその笑い方は、百点満点に可愛いじゃないか。
花丸あげちゃう。

「明日ハンバーグね。」
「いきなりどうした?嬉しいけど。俺もタネ作る。」

うきうきとした声で耀司くんはそう言った。
さては大きいのを作る気だな?
火が通りにくいから程々の大きさで止めるようにしよう。
その代わり、ベタだし似合わないかもしれないけどハートの目玉焼きを作って乗っけてあげよう。
そんな物でも、きっと耀司くんは喜んでくれるから。
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