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第百二十四話 フィルブライト公爵

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「宝石というのは、子どもたちのことでしたのね?」

「いいえ、それが奴らが言うには子どもたちが着けている宝飾品が売り物であって、子どもたちはそれを引き立てるために身に付けているだけだと言うのです。そして、宝石を買う前にお試し期間があって、そのさいは子どもも一緒に貸し出すと言いました。なぜなら、貸し出し中その子どもたちに装飾品を管理させるからと」

 それを聞いてアルメリアは眩暈がした。そして、猛烈に襲ってくる吐き気を抑えながら質問する。

「気に入らなかった場合は、返却なさるの?」

「そうです。ですがもちろん、気に入れば宝飾品を買い取ることも可能です。その後の事はすべて手配すると」

「それで卿はどうなさったのですか?」

「もちろん断りました。その当時、エミリーが生まれたばかりでしたから特にそういったことには過剰に嫌悪感を感じました。とにかく腹を立てた私はなにも考えずに、その事を司教であるスカビオサに報告してしまったのです」

「スカビオサに?!」

 アルメリアは思わず驚いて聞き返すと、フィルブライト公爵は苦笑した。

「貴女はどうやらスカビオサがどのような人物なのかご存知らしい」

 そう言われ、アルメリアも苦笑して返した。それを確認するとフィルブライト公爵は話を続ける。

「私はなにも考えていませんでした。それでスカビオサに話をすると、彼は話を聞いて『わかりました、後はこちらでなんとかしましょう』と言ったので、彼にまかせることにしたのです」

 あり得ないと思いながらも、アルメリアはあえてフィルブライト公爵へ質問した。

「彼はちゃんと対処するふりはしたんですの?」

「いいえ、それどころかその直後に私の父が詐欺に合い多額の借金を作ることになり、教会から援助の話を打診されたのです。そのときスカビオサから言われました『余計なことを言わなければ、お父様も苦労なさることはなかったかもしれませんよ』とね」

 アルメリアは唖然とした、彼らはそこまでやるのか? と。

「詐欺の内容はどんなものでしたの?」

「わが領地は穀物生産でなりたっています。ですが農工は天候などによって左右され、安定した収入が得られるわけではありません。そこで一計を案じた父は、領民が安心して生活できるよう天候などに左右されずに安定した収入を得られるように模索しておりました」

 アルメリアは相槌を打った。

「その気持ち、同じく領地を統治している身としてよくわかりますわ」

「ありがとうごさいます。それで、いくらかお金を出せば安定した収入を得られる、という貿易会社にかなりの額を支払ってしまったそうです」

「詐欺の犯人は捕まえられませんでしたの?」

 フィルブライト公爵は力なく首を振る。

「手を尽くしましたが、わかりませんでした」

「貿易関係ならわたくしつてがありますわ。その書類は残ってまして?」

「もちろんです」

 そう答えて、フィルブライト公爵ははっとする。

「貴女は犯人を捕らえるつもりなのですか?」

 笑顔になると、アルメリアは頷く。

「そういった輩には我慢なりませんの。幸いわたくしの部下にはそういった捜査に慣れたものが複数おりますわ。徹底的に調べてみますわね」

 チューベローズのやることだ、調べればきっとぼろがでるに違いない、と思いながらアルメリアはそう答えた。
 すると、フィルブライト公爵は深々と頭を下げた。

「ありがとうございます。これほど心強いことはありません」

「卿が気にすることはありませんわ。それで、それから教会の支援が始まり、逃れられない関係が始まったということですのね?」

「はい。それからは教会の言いなりです。それで今年はその返済が終わりなんとかこの負の連鎖をどうにかできると思っていたのですが……」

「そうなんですのね。でも、それだけなら来年を待てばよろしいことですわ。わざわざわたくしのところにいらっしゃったのですから、なにか決定的なことがあったのではありませんか?」

 フィルブライト公爵は苦笑して答えた。

「貴女には隠し事はできなさそうですな」

 そう言うとしばらく沈黙し、怒りを抑えるように静かに低い声で言った。

「スカビオサの奴が、今年返金ができぬのなら娘を寄越せと……」

「えっ?! フィルブライト公爵令嬢を?!」

 感情を抑えるように静かに息を吐いて頷くと、フィルブライト公爵は答える。

「奴はどこかで娘を見かけて見初めたようです。そんな道理が通るはずがないと言ったところ、奴は脅されて私に金を渡していたと国王に報告すると言いました」

「それは完全に揺すりですわよね?」

「そうなのです。ですが、そう国王に報告されれば私に身の潔白を証明する手だてがありません。無罪が証明されたとしても、こんな訴えを起こされてはフィルブライト家の信用は失墜するでしょう」

 彼らのやり方の汚さにアルメリアは、腹を立てた。

「許せませんわね、卑劣すぎます」

「先日もルーカスのことで大変お世話になっているというのに、お願いをするなんて図々しいことだとはわかっています。ですがこんなお願いをできるのは貴女しかいません」

 アルメリアは頷く。

「わかりましたわ、協力は惜しみません。ですが、わたくしもチューベローズには目をつけられております。なので、貴男とわたくしとの関係をチューベローズに知られてはいけませんわ。ですから表面上仲違いしたようにしましょう」

 怪訝な顔をしながら、フィルブライト公爵は答える。

「貴女にはルーカスの治療をお願いしています。それは社交界ではすでに広まっていて、なにかあれば貴女にお願いしたいと言っている貴族は少なくありません。そんなときに貴女と私が仲違いですか? 彼らは信じますかね」

「その治療を利用しましょう。わたくしがとても高額な治療費を卿に請求しますわ。でも当然卿はそれを拒否します。それで、社交界では普通に接触しているけれど、じつはお互いに嫌いあっているということにしましょう」

 しばらくフィルブライト公爵は考えて答える。

「ですが、それではクンシランの家名にも傷がつくのでは?」

 アルメリアは微笑んだ。

「お互いに、そんな噂ごときで傷がつく家柄ではないですわよね?」

「確かにそうですが、ご迷惑をかけるのではないかと……」

 不安そうにそう言うと、フィルブライト公爵は黙った。

「この問題が解決した暁には、お互いに勘違いをしていたということで和解したことにすればよろしいのですわ」

「ありがとうございます」
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