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そう不機嫌そうに答えると、持っていた扇子で口元を隠した。
「その件なんだが、当時の目撃者が居てね。その人物に聞いたところまったく違う意見なんだが?」
「目撃者? どこのどなたか知りませんけれど、私の意見より確かなんですの?」
すると、テランスが口を開く。
「目撃者とは私なんだが」
リディはテランスを鋭い目付きで睨み付けた。
「それは貴方が、娘と勘違いしているその女を援護しようとしているからそのようなことを仰るのですわ。それに……」
そこでシメオンが手を上げてリディを制した。
「ちょっと待ってくれないか? なぜこの話にアメリが出てくる?」
その質問にリディは目を泳がせ、しばらく考えたあとに答える。
「それは、どうせボドワン伯爵が私ではなく、自分の娘が治療魔法を使ったとか言うに決まっているからですわ!」
シメオンは声を出して笑った。
「それは、ずいぶん飛躍した話だね。そのように憶測でものを言うぐらいなら、証明した方が早いのではないかな?」
そう言うと、突然テーブルに近づきセッティングされているナイフを手に取ると、自分の掌を切り付けた。
後ろで見ていたアメリは驚いてシメオンに駆け寄る。
「シメオン様、一体なにをなさるのです! 直ぐに治療をしなければ!」
慌てるアメリを制して、シメオンは冷静にリディに傷ついた手を突きつける。
「申し訳ないが、ブランデ侯爵令嬢。私の手を治療してくれないかな? 君は私のことを愛しているのだろう? ならばこれくらい容易いことだろう?」
血が滴る手を突きつけられたリディは、顔色をなくし直ぐに目を逸らした。
「そ、そんな下品なものを見せつけるなんて、なんて無礼なの?!」
そう言いながら後退り、固く目を閉じた。
「治療してくれないのか? それに貴女が治療魔法の使い手ならこれぐらいの傷なんて、見慣れているはずなんだが?」
「いいから、早くその手をどかしなさいよ! 失礼ね!!」
叫んでいるリディを横目に、アメリは我慢の限界とばかりにシメオンに駆け寄ると治療魔法を使った。
すると、一瞬にして傷口がふさがる。それを見ていた招待客たちは驚き、呆気にとられながら口々に『奇跡だ……』と呟いた。
アメリはなにが奇跡なのかわからず戸惑いシメオンを見つめると、シメオンはアメリを見つめ返して優しく言った。
「心配しなくていい。君はおかしなことはなにもしていない。ただ、通常はもっと時間がかかる治療なのに君が一瞬で治してしまったから、みんな驚いているんだ」
「そ、そうなのですか?! 私なにも知らなくて……」
「いいんだ、そんなことはこれから学べば良いのだから」
そう言うとシメオンはアメリを抱き寄せた。それを見たリディは激しい口調で言い放つ。
「なんてこと、命の恩人に対してこんな態度をとるなんて、貴方には本当にがっかりですわ!」
それを聞いてシメオンも言い返す。
「往生際の悪い。ここまで証明しても、まだ自分を命の恩人と言い張るのだね。では、もう一つその主張のおかしな点について面白い話をしてあげよう」
そう言うと、フィリップに向かって言った。
「証人を」
そして招待客に向き直る。
「招待しておいて、みなさんのことを置き去りに話を進めてしまって申し訳ない。説明させてもらおう、少し前にバッカーイの森でアメリを庇って私が毒矢に射られる事件があった。その時にブランデ侯爵令嬢がどこからともなく現れ、私を治療したと言っているのが今回の件だ」
そこまで話すと一息ついて、リディを見つめてニヤリと笑った。
「だが、偶然その場に居合わせたうえ、治療魔法も使えたなんてずいぶん都合の良い話だろう? だから今回の件を徹底的に調べることにした。まず、私はその矢を射った犯人を探しあて、捕え直接犯人に話を聞くことにしたんだ」
そこへフィリップが一人の男を連れて戻ってきた。男は後ろ手に縛られ、終始ふてぶてしい態度を取っている。
シメオンはその男を見つめて言った。
「彼がその矢を放った本人だ」
それを聞いて、その場の全員がその男に集中した。
シメオンはその男に質問する。
「バッカーイで毒矢を放ったのは君だね?」
不貞腐れたようにその男は答える。
「ハイハイ、そうですよ。何度も言っているだろう、面倒臭い」
「で、君は誰に雇われたんだ? その人物はここにいるか?」
すると、その男はその場にいる全員の顔をじっくりと眺めると、リディの顔を見てニヤリと笑った。
「この嬢ちゃんだ」
そう答えると、シメオンの横にいるアメリを顎で指し示して言った。
「あの嬢ちゃんが邪魔だから消せってよ。だけど俺がヘマしたら盗人扱いして軍に突きだしやがったのよ。とんでもねぇガキだぜ」
リディは明らかに動揺しながら叫んだ。
「な、なんですの? こんなならず者の言うことをみなさん信じるとでも仰るの? これは、これはとんでもないことですわ!!」
連れてこられた男は鼻で笑った。
「確かにな、俺は見ての通りならず者さ。それにとんでもねぇことをしでかしたと思うよ。んなこたぁわぁってるよ。俺はきっと処刑されるさ。だがな、だからこそこの女のことは許しておけねぇのよ。領民を守らないとならねぇ立場の貴族様が、こんなに腐れたことをしてるってことがな。それに何よりも俺を裏切った。それは絶対に許せねぇ」
そこで、シメオンがもう一つ男に質問する。
「ところで君が矢に使った毒なんだが、どんな毒なのか話してくれるか?」
「サイアナイドさ。あんた、その使い手のお嬢ちゃんがいて本当に命拾いしたな。普通の使い手じゃあ、あの毒は解毒できねぇからな」
それを聞いてシメオンはニヤリと笑うとリディに向き直る。
「聞いたかブランデ侯爵令嬢、ただ治癒魔法が使えるだけでは私の治療はできないはず。アメリは出自を隠していたから、その才能が周知されていなかっただけで、この能力が知られていないのは仕方がないが、貴族である君がそれほどの能力を持っているのなら周知されていないのはおかしなことではないのかな?」
それを聞いたリディは、鬼の形相でシメオンに問い詰め始めた。
「こんな男の言うことを信じますの? これは証拠になりませんわ!! いくら辺境伯令息といえど、侯爵令嬢にこのような屈辱的な仕打ちをしてただで済まされると思ってらっしゃらないですわよね? 私がお父様にこのことを伝えればどうなると思って?!」
それを聞いてアメリは不安になり、シメオンの顔を見上げる。シメオンはそんなアメリに微笑むと、軽くキスをして囁く。
「アメリ、大丈夫。私を信じて」
そう言うと、リディに向き直る。
「私が何も証拠をもっていないとでも?」
そう言ってシメオンは懐から一枚の小切手を取り出す。
「君はこの男が、小切手をすぐに使ってしまうだろうと油断していたようだね。だが、彼は賢かった。君が裏切った時のために小切手を使わずに大切に持っていたんだよ。見てくれ、この男の持っていた小切手には、君のサインが入っている」
リディはそれを見て目を泳がせながら、なにか言い訳を考えているようだった。シメオンはリディが言い訳をする前に更に畳み掛ける。
「それに残念だがブランデ侯爵令嬢、現在城下で私の優秀な部下によって、君のお父上の罪が次から次へと暴かれているようだよ? 君にかまっている暇はないのではないかな? それと、もう一つ」
そう言うと、シメオンはフィリップに目配せした。フィリップは素早く前に出ると、丸筒から一枚の紙を取り出し周囲に見えるように掲げた。
「フィリップが今掲げているのは、王太子殿下から直々にいただいた書状だ。ここには『ブランデ侯爵令嬢は城下から追放されており、謹慎を言い渡してあるにも関わらず今回の騒動は目に余る。これから処分があるまで、屋敷から一切の外出を禁ずる』と書いてある」
すると、それを聞いてリディはポロポロと涙をこぼしてシメオンに言った。
「私がなにをしたというのですか? そこまでして私を陥れて、何が目的なのですか?」
「その件なんだが、当時の目撃者が居てね。その人物に聞いたところまったく違う意見なんだが?」
「目撃者? どこのどなたか知りませんけれど、私の意見より確かなんですの?」
すると、テランスが口を開く。
「目撃者とは私なんだが」
リディはテランスを鋭い目付きで睨み付けた。
「それは貴方が、娘と勘違いしているその女を援護しようとしているからそのようなことを仰るのですわ。それに……」
そこでシメオンが手を上げてリディを制した。
「ちょっと待ってくれないか? なぜこの話にアメリが出てくる?」
その質問にリディは目を泳がせ、しばらく考えたあとに答える。
「それは、どうせボドワン伯爵が私ではなく、自分の娘が治療魔法を使ったとか言うに決まっているからですわ!」
シメオンは声を出して笑った。
「それは、ずいぶん飛躍した話だね。そのように憶測でものを言うぐらいなら、証明した方が早いのではないかな?」
そう言うと、突然テーブルに近づきセッティングされているナイフを手に取ると、自分の掌を切り付けた。
後ろで見ていたアメリは驚いてシメオンに駆け寄る。
「シメオン様、一体なにをなさるのです! 直ぐに治療をしなければ!」
慌てるアメリを制して、シメオンは冷静にリディに傷ついた手を突きつける。
「申し訳ないが、ブランデ侯爵令嬢。私の手を治療してくれないかな? 君は私のことを愛しているのだろう? ならばこれくらい容易いことだろう?」
血が滴る手を突きつけられたリディは、顔色をなくし直ぐに目を逸らした。
「そ、そんな下品なものを見せつけるなんて、なんて無礼なの?!」
そう言いながら後退り、固く目を閉じた。
「治療してくれないのか? それに貴女が治療魔法の使い手ならこれぐらいの傷なんて、見慣れているはずなんだが?」
「いいから、早くその手をどかしなさいよ! 失礼ね!!」
叫んでいるリディを横目に、アメリは我慢の限界とばかりにシメオンに駆け寄ると治療魔法を使った。
すると、一瞬にして傷口がふさがる。それを見ていた招待客たちは驚き、呆気にとられながら口々に『奇跡だ……』と呟いた。
アメリはなにが奇跡なのかわからず戸惑いシメオンを見つめると、シメオンはアメリを見つめ返して優しく言った。
「心配しなくていい。君はおかしなことはなにもしていない。ただ、通常はもっと時間がかかる治療なのに君が一瞬で治してしまったから、みんな驚いているんだ」
「そ、そうなのですか?! 私なにも知らなくて……」
「いいんだ、そんなことはこれから学べば良いのだから」
そう言うとシメオンはアメリを抱き寄せた。それを見たリディは激しい口調で言い放つ。
「なんてこと、命の恩人に対してこんな態度をとるなんて、貴方には本当にがっかりですわ!」
それを聞いてシメオンも言い返す。
「往生際の悪い。ここまで証明しても、まだ自分を命の恩人と言い張るのだね。では、もう一つその主張のおかしな点について面白い話をしてあげよう」
そう言うと、フィリップに向かって言った。
「証人を」
そして招待客に向き直る。
「招待しておいて、みなさんのことを置き去りに話を進めてしまって申し訳ない。説明させてもらおう、少し前にバッカーイの森でアメリを庇って私が毒矢に射られる事件があった。その時にブランデ侯爵令嬢がどこからともなく現れ、私を治療したと言っているのが今回の件だ」
そこまで話すと一息ついて、リディを見つめてニヤリと笑った。
「だが、偶然その場に居合わせたうえ、治療魔法も使えたなんてずいぶん都合の良い話だろう? だから今回の件を徹底的に調べることにした。まず、私はその矢を射った犯人を探しあて、捕え直接犯人に話を聞くことにしたんだ」
そこへフィリップが一人の男を連れて戻ってきた。男は後ろ手に縛られ、終始ふてぶてしい態度を取っている。
シメオンはその男を見つめて言った。
「彼がその矢を放った本人だ」
それを聞いて、その場の全員がその男に集中した。
シメオンはその男に質問する。
「バッカーイで毒矢を放ったのは君だね?」
不貞腐れたようにその男は答える。
「ハイハイ、そうですよ。何度も言っているだろう、面倒臭い」
「で、君は誰に雇われたんだ? その人物はここにいるか?」
すると、その男はその場にいる全員の顔をじっくりと眺めると、リディの顔を見てニヤリと笑った。
「この嬢ちゃんだ」
そう答えると、シメオンの横にいるアメリを顎で指し示して言った。
「あの嬢ちゃんが邪魔だから消せってよ。だけど俺がヘマしたら盗人扱いして軍に突きだしやがったのよ。とんでもねぇガキだぜ」
リディは明らかに動揺しながら叫んだ。
「な、なんですの? こんなならず者の言うことをみなさん信じるとでも仰るの? これは、これはとんでもないことですわ!!」
連れてこられた男は鼻で笑った。
「確かにな、俺は見ての通りならず者さ。それにとんでもねぇことをしでかしたと思うよ。んなこたぁわぁってるよ。俺はきっと処刑されるさ。だがな、だからこそこの女のことは許しておけねぇのよ。領民を守らないとならねぇ立場の貴族様が、こんなに腐れたことをしてるってことがな。それに何よりも俺を裏切った。それは絶対に許せねぇ」
そこで、シメオンがもう一つ男に質問する。
「ところで君が矢に使った毒なんだが、どんな毒なのか話してくれるか?」
「サイアナイドさ。あんた、その使い手のお嬢ちゃんがいて本当に命拾いしたな。普通の使い手じゃあ、あの毒は解毒できねぇからな」
それを聞いてシメオンはニヤリと笑うとリディに向き直る。
「聞いたかブランデ侯爵令嬢、ただ治癒魔法が使えるだけでは私の治療はできないはず。アメリは出自を隠していたから、その才能が周知されていなかっただけで、この能力が知られていないのは仕方がないが、貴族である君がそれほどの能力を持っているのなら周知されていないのはおかしなことではないのかな?」
それを聞いたリディは、鬼の形相でシメオンに問い詰め始めた。
「こんな男の言うことを信じますの? これは証拠になりませんわ!! いくら辺境伯令息といえど、侯爵令嬢にこのような屈辱的な仕打ちをしてただで済まされると思ってらっしゃらないですわよね? 私がお父様にこのことを伝えればどうなると思って?!」
それを聞いてアメリは不安になり、シメオンの顔を見上げる。シメオンはそんなアメリに微笑むと、軽くキスをして囁く。
「アメリ、大丈夫。私を信じて」
そう言うと、リディに向き直る。
「私が何も証拠をもっていないとでも?」
そう言ってシメオンは懐から一枚の小切手を取り出す。
「君はこの男が、小切手をすぐに使ってしまうだろうと油断していたようだね。だが、彼は賢かった。君が裏切った時のために小切手を使わずに大切に持っていたんだよ。見てくれ、この男の持っていた小切手には、君のサインが入っている」
リディはそれを見て目を泳がせながら、なにか言い訳を考えているようだった。シメオンはリディが言い訳をする前に更に畳み掛ける。
「それに残念だがブランデ侯爵令嬢、現在城下で私の優秀な部下によって、君のお父上の罪が次から次へと暴かれているようだよ? 君にかまっている暇はないのではないかな? それと、もう一つ」
そう言うと、シメオンはフィリップに目配せした。フィリップは素早く前に出ると、丸筒から一枚の紙を取り出し周囲に見えるように掲げた。
「フィリップが今掲げているのは、王太子殿下から直々にいただいた書状だ。ここには『ブランデ侯爵令嬢は城下から追放されており、謹慎を言い渡してあるにも関わらず今回の騒動は目に余る。これから処分があるまで、屋敷から一切の外出を禁ずる』と書いてある」
すると、それを聞いてリディはポロポロと涙をこぼしてシメオンに言った。
「私がなにをしたというのですか? そこまでして私を陥れて、何が目的なのですか?」
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