その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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策謀の王都

素敵な、晩御飯にしたいな。

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 ブラウニーとレディッシュの準備が整ったわ。 薬草の中で、体力回復と魔力回復のポーションを作る材料を持ってきてくれた。 ラムソンさんの頭は膝の上に残したまま、錬金魔方陣を発動するの。 【詳細鑑定】で彼に何が必要は、把握済み。

 魔方陣の上からブラウニーとレディッシュ、それにホワテルが、薬草と浄水を注ぎ込んでくれたわ。 あぁ、それと、屑薬草を焼いた灰もね。 

 魔方陣の下から出てきたのは、薄い瓶に入った、体力回復ポーションと、魔力回復ポーション。 瓶は灰から作ったの。 固めて、焼結させただけのもの。 当然保管なんて考えもしない、単なる入れ物。 とても薄くて、一度きりしか使えない代物だけど、すぐに使っちゃうから、問題は無いはず。

 出来上がったポーションを、ラムソンさんに飲ませるんだけど…… そこは、私じゃなくて、シュトカーナにお任せしたんだ。 私は、ポーションがこぼれないように、ラムソンさんの頭を固定していたの。 シュトカーナがちょっとした魔法を掛けた。 口を若干開かせて、その中に注ぎ込むの。



 〈いい子にしてね。 さぁ、あなたの力を元に。 リーナのポーションは、あなたへの贈り物。 ” 染みわたり、広がり、潤す、我シュトカーナが注ぐ、森の息吹と共に…… ” 〉



 そうね、失われた北の森の息吹…… シュトカーナだったら再現できるものね。 森人である森猫族の最高の癒しよね。 それも、先祖代々がずっと受け取っていた森の息吹だものね。 ぼんやりとラムソンさんの身体が光るの。 彼の精気が充足していくのね。 何となくだけど判る。

 心持ち毛艶も良くなったような気がするわ。




 〈しばらくは、起きないわ。 そうね、ゆっくりと眠らせてあげて。 わたしも、あなたの中に帰るから〉

 〈シュトカーナ、ありがとう〉

 〈いいのよ、森の愛し子なのよ。 これは、わたくしの役目でもあるの。 奴隷紋…… 潰してくれてありがとう〉

 〈……ごめんなさい。 霧散させる事は、出来ないの。 やれば出来るんだけど、そうしたら、ラムソンさんが罰せられるから……〉

 〈わかっているわ。 リーナ…… いえ、エスカリーナ。 貴女は優しい子。 お礼を言うわ〉




 スゥっと、シュトカーナはその存在を揺らめかし、私の左腕に帰っていったの。 しばらくは起きないんだよね、ラムソンさん。 ゆっくりと眠らせてあげたいんだけど、どうしようかな。 小屋のベッドに眠らせてもいいんだけど、後でなんか言われるのも嫌だし……

 空箱がたくさんできてるから、あれで、ベッド作っちゃおうかな……

 そっと、ラムソンさんを横たえて、彼がいつも眠っている寝床を見てみたの。 毛布一枚しかない。 それも、壁際の薬草の入った箱の間…… ホントに、どうなっているのよ! ちょっとムカついたから、とびっきりのベッドを用意したくなった。 薬草の入っている箱はまだまだある。 二、三箱使っても、別段誰も気にしないだろうし、全損扱いしても、問題ないものね。


 そうと決まれば、錬金魔法使ってベッドを作っちゃお!


 ホワテルにお願いして、まだ手を付けてない、薬草箱を三箱持ってきてもらった。 術式は…… アレと、コレと、ソレ。 ゆるく組んで、魔方陣展開。 


 術式と連結式の確認をして…… 大丈夫そうね。 では、起動!


 ホワテルに箱を魔方陣の上から入れてもらったの。 チャカポコ音がするわ。 魔方陣が赤黒く発光して、錬金が始まったの。 入れた魔法草入りの箱を、分解して、必要なモノを取り出して、集めて、再構成してるわ。

 酷い品質の魔法草も、繊維として使うなら、役に立つものね。 ベッドの枠組みがごとりと落ちるの。 ヘッドボード付きよ! それから、繊維化した屑魔法草で織り上げられた数枚の袋の中に、乾燥してほぐした魔法草が詰め込まれたモノが落っこちてきた。 狙い通りね!



 魔方陣が光を失い、発動していた錬金魔法が止まる。 魔方陣が霧散して、終了ね。 



 ブラウニーとホワテル、二人して、ベッドを運んでくれたの。 ありがとう。 彼が使っていた寝床近くの壁際にもっていってね、そこに設置するの。 その上に、大きさを合わせて作った魔法草入りの袋を置いて、出来上がりね。

 男の子にしてはとっても軽いラムソンさんを毛布ごとお姫様抱っこして、ベッドの上にそっと横たえるの。 薬草の香りがちょっと強いけど、眠るだけで体力回復の効果もあるし…… いいよね。 小さい袋を頭に当てて枕替わりにしたわ。 ちょっとだけ、精霊様にお願い。


 ――― 眠れ、眠れ。 よき夢を。 一時の癒しを、彼に与えてください ―――


 一仕事終えたら、お腹空いちゃったよ。 バケツの中のモノは…… 食べたくないし、食べさせたくないわ。 たしか、食事は食堂でって言ってたわよね。 じゃぁ、有難くそうさせていただきますか!

 扉には【施錠】の魔法がかかっているけれど、とても単純なもの。 わざわざ【開錠】の魔方陣を唱えるまでもなく、簡単に開くわ。 ちょっと押せば、こんなの壊れちゃうものね。 するりと扉を抜ける。 さて、どこにその食堂が有るのやら……




 *******************************




 黒のパンツ。 コットンの白シャツ。 濃い灰色のウエストニッパー。 腰には山刀、クリスナイフ、それと魔法の杖。 行き交う人達が何故かギョッとした顔で私を見るのよ。 えっ? 何か問題でもあった? ちょっと、戸惑っている薬師領の一般職員さんい聞いてみたの。




「あの食堂はどこでしょう? 食事は食堂で頂くようにと、薬師アイスバーグ子爵に申し伝えられておりますの」

「えっ、あっ、いやっ、その…… しょ 食堂ですか?」

「ええ、食堂です。 どこに有るのでしょうか?」

「えっと、あちらの…… じ、事務棟の脇にあります」

「そうですか。 ありがとうございます」




 頭を下げて、お礼を言うの。 ふわりと黒髪が揺れる。 踵を返し、事務棟の方向に向かったの。 もう夕刻も過ぎて、夜空に星が出ているわ。 ちょっと、気温が落ちてきている。 今夜は寒くなるかな? 

 紅い錬石造りの事務棟の脇に、あの事務員さんの言ったとおりに食堂って書かれた看板がある建物があったわ。 素直に教えてくれてホントにありがたいわ。 一般職員用の食堂ね、ここは。 貴族の方とか、薬師の方とかいないものね。 そういえば、内装も素朴な感じ…… なんだよね。 旅の途中の大きな宿屋の食堂みたいな感じなのよ。

 厨房脇のカウンターに行ってね、お姉さんが受付してたの。 御胸の周りが物凄いボリューミーなお姉さん。 女給さんの制服着てるんだけど、お胸の周りが妙に露出してるよねぇ…… これが、王都の流行なのかなぁ。 ダクレール領の女給さんと違った意味で、スゴ~ク大人な雰囲気があるのよね。

 くんくん…… 麝香系の香水かぁ…… 辺境じゃぁ娼館のお姉さん達しか付けられない、高級品だよ。 髪もきれいに結っているし…… なんか、可愛いイヤリングもキラキラしてる。 物凄い笑顔を私に向けてきたのよ、このお姉さん。 ん? ここって、食堂でしょ?




「あら、可愛いお嬢さん。 どうしたの?」

「ええ、食事をここで取りなさいと教えられました」

「あなた、薬師院の人?」

「ええ、薬師リーナです。 よしなに」

「ふえっ? や、薬師様?」

「ええ、辺境から来て、本日付で第十三号棟に着任いたしました」

「……そ、そうなの。 辺境の薬師様…… で、その装備は?」

「辺境では、標準ですわ。 往診時に何時、魔物と遭遇するかわかりませんもの」

「……ここは王都なのよ? それも王城近くなんだけど…… そんな物騒なもの装備してるのは何で?」

「……思うのですけれど、街にも強盗や破落戸ゴロツキが居るのでは? 役目柄、遅くに出歩く事も御座いますゆえ、護身の刃は、必要なのでは?」

「……そ、そうね。 あなた、とても可愛いから必要かも…… ん! そっか!! それで、何を食べるの?」



 眉を寄せていた表情が、一転して最初の物凄いいい笑顔になったの。 非常識だった? この装備。 山刀と、クリスナイフと魔法の杖だよ? あぁぁ! シマッタァ!! そういえば、エスカリーナの記憶の中には、こんな姿の街の人、居なかった! いても、冒険者さん位だった!! 一応、誤魔化せたみたいなんだけど……

 そっと、辺りを伺うの。 なんか、ちょっと、注目集めちゃってるね…… 

 でもまぁ、いいや、ご飯、ご飯!!



「あの、申し訳ないのですが、持っていけるモノってありますか? お仕事の途中なので」

「えっ? こんな時間まで?」

「ええ、そうです。 なにかありますか?」

「そ、そうね…… 簡単なお弁当ならすぐ出来るけど?」

「お願いします。 代金は?」

「一食分が大銅貨一枚よ」



 大銅貨一枚かぁ…… ちょっと高めだよね。 まぁいいか。 お金はきちんと貯めてたらから、贅沢言わなきゃ、大丈夫だろうしね。 そのうちお給金も出るかなぁ…… そうだ、お給金! 聞いてなかったよ…… 今更聞けないし…… 今は、ご飯を手に入れないと! お腹ぺっこぺこだもん。



「二人前お願いします」

「えっ?」

「こう見えて、大食いなんですよ。 食べないと、力出ませんから」

「そうなの? わかった。 ちょっとサービスしちゃうわ。 待ってて♪」




 お姉さん、そう言うと、すごい勢いで厨房に走り込んでいったのよ。 

 食堂…… か。 薬師院の下級の職員さんたちの食堂よね。 整然と並ぶ、木のテーブルの上には、湯気が上がるシチューとか、煮込み料理の椀とかが並んでる。 なんかガッツいている人とか、お酒を飲んでる人とか、一日の終わりみたいな感じね。 私の近くのテーブルに着いている人達は、さっきのお姉さんとの会話が聞こえてたのか、私に伺うような視線を向けてきたの。

 まぁ、珍獣見るような視線だったけれどね。 どうしようか…… ジロジロ見られんのは、あんまり好きじゃないし…… いいや、笑っておこう。 あいまいな笑みを浮かべて、ちょっと頭を下げるの。 ビクッって、されてた。 なんだ? いやだったのか? じゃぁ、見ないでよ。



「お待たせ!! えっと、バケットにお肉と野菜、挟んだモノと、温ったかシチューだよ。 シチューは、携帯鍋に入れてあるから、持って帰ってきてくれたら、小銅貨二枚返すわ。 それと、匙もね」

「ありがとうございます。 代金はここに置きますね。 では、また」

「待ってるわよ! お嬢ちゃん!! 私、エルザっていうの。 この時間は大体いるわ! また来てね!」




 騒々しい人だなぁ。 さぁ、ご飯も手に入ったから、お部屋に帰ろう! 

 ラムソンさんも、もうすぐ目が覚めるだろうし、ちょっと、色々と聞きたいし……



 まだまだ手付かずの箱もあるし。



 色々と頑張んなくちゃね。



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