その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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策謀の王都

晩御飯の前に、ちょっと快適に? 

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 第十三号棟に帰る前に、女給のお姉さんにちょっとお話したの。



 あの食堂は、下級職員用の食堂だって教えて下さったわ。 やっぱり、ここにも階級意識っていうものが存在してた。 一般下級職員さんって、庶民階層の人がとても多いの。 することは、雑用に近い事なんだけど、きちんとお給金があり、” 王宮薬師院で働いています! ” と、云うことで箔もつくらしいの。

 ちょこちょこって、女給のお姉さんが笑いながらそう言っていたわ。 でも、長続きしないんだって。 とにかくキツイんだって。 遅くまで食堂が開いているのも、他の食堂で食べられなかった人達の為に開けているんだって。

 ほんと、人手不足だね。 その上、お仕事の量は減らないから、キツ過ぎて辞めちゃうんだって。 で、辞められると困る様な場所には、奴隷なんかを突っ込んで、出られないようにして、働かせているらしいの。 ラムソンさんみたいなな獣人の人が他にも沢山いるらしいわ。


 ほんと、困ったものね。


^^^^^


 ご飯を持って帰った。 アレよりは、ずっとましなご飯。 扉の前で、【開錠】を使って施錠された扉を開ける。 少し扉を開けて、中に滑り込む。 ちょっと考えて…… あのバケツを外に出してから、私が使っている【施錠】を掛けておいたわ。

 この【施錠】の魔法、私と同じくらい魔法を勉強していたら、あっさりと割れるけれど、そういう魔法を勉強してないと、ちょっと開けられないかもしれない。 かなりの腕を持つ、冒険者の盗賊スカウトなら、いけるかもしれないけれど、ダクレール領の冒険者の盗賊スカウトさん達に、腕試しって事で試したことがあるの。

 宝箱の中に、上級体力回復ポーションを五本ほど入れて、蓋を閉じ、私の【施錠】の魔法を掛けたのよ。 少なくとも、私がダクレール領を出るまで、追加の上級体力回復ポーションの補充はしていないわ。 そんなモノなのよ。 あぁ、辺境領の冒険者さん達って、相当腕は立つって噂があるんだけれど…… アレって、本当かしら?

 ラムソンさんは、まだ眠っていたわ。 相当、疲れていたみたいね。 彼のベッドの近くに、空き箱を二、三個用意して、その上に貰って来たご飯を用意したの。 えっと、なんか殺風景ね。 そうね、いろいろと使いたいから、布を沢山用意しようかしら。

 殆どダメになっている薬草が入った、古い箱を五、六個 用意してね、魔方陣を展開したの。 今度は簡単なモノ。 分解して、繊維化して、織っただけ。 真っ白にはならないけれど、そこそこ白い布が、魔方陣の下から、ハタハタ~って、出てきたわ。 うん、これなら使えるよね。

 適度な大きさに、クリスナイフで切り出して、テーブルクロスにしたわ。 一度、晩御飯を側に下ろして、机代わりの箱の上に敷いてみた。 なかなか良い感じね。 でも暗いの…… ランタンは煤で真っ黒だし、天井近くの窓の外は夜。 星明りが遠くにしか無いんだものね。

 とりあえず、【浄化】で、ランタンを綺麗にしてみたんだけど、あんまり明るくない。 




 ―――そうだ! 




 ブラウニーが取っておいてくれた、魔法草があったじゃない! 釣鐘蛍草が! 以前、魔物と命のやり取りをして手に入れた、小さな魔石をポーチの中から取り出したの。 それから、ブラウニーにお願いして、釣鐘蛍草を出してもらった。 またも錬金魔法陣の出番ね。 ポーチの中から、これまたダクレール領で採取したガシュベルの枝とか、カイガラムシの甲殻とかを取り出して準備。 

 おばば様に教えてもらった、自動光源オートライトの魔方術式を思い出して、魔方陣に書き込むの。 形は…… 前世の記憶にある、ベッドサイドのランプ…… それから、壁にあった魔法灯火。 柔らかな光を放つそれは、とても心落ち着かせるものだったわ。 イライラしたり、落ち込んだ日には、深夜に小さく光を灯して、何時までも揺らぐその光を見詰めていた事を思い出したの。

 用意するモノは全部用意したから、あとは錬金魔方陣に放り込むだけ。 上から、ポンポン放り込むと、チャカポコ音がして、下からポソッと落ちてきた。

 カイガラムシの甲殻は、極端に薄く削れていて、光を透過する。 ホヤに使ったわ。 それと、釣鐘蛍草は、その形をとどめたまま、壁に付けられるようにしたの。 私が使う部屋と、入り口から遠い倉庫の中に、付けたのよ。 ちょっと、マシになったかな? ランプは少し大きめ。 柔らかな光を放つそれは、さっきのテーブルの上に置いたの。



 ちょっとは、文化的な生活が出来そうね。



 さぁ、晩御飯を食べよう。 冷えたちゃったスープを、生活魔法で温め直しそう。 ラムソンさんの分は、起きたら温め直すとして、私の分は、借りてきたお椀の中に注ぎ込むの。 温め直しをして、バケットを包んでいた紙をはがして、さぁ、食べよう!




 ” 今日の糧を授かれました事、精霊様に感謝いたします ”




 ぽそりとそう呟いて、食べ始めたの。 あたたかな夕食。 大口を開けて、モグモグ食べるのよ。 いろんな魔方陣使ったから、お腹空いちゃったよ。 ブラウニー達は、私の左手に戻ったし…… きっと、私の魔力を食べているのよね…… そんな気がしたわ。

 そのときね、ぱたりと寝返りを打ったラムソンさんと、目が合ったの。 見つめあう視線で、お話しできそうね―――。 



 起きたの?

 大丈夫?

 もう、疲れてない?

 お腹、へってない?



 ラムソンさんの、ぼんやりとした表情が急に険しくなった。 眉間にグッっと皺が寄る。 釣り目がさらに引き絞られるようにつり上がるの……



 えっ?


 なに?


 なんか、怒っているの?







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