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従軍薬師リーナの軌跡
薬師錬金術士リーナの日常
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” 日常は突如として変化する。”
誰が言ったのか知らないけれど、それは、私にも当てはまったわ。 私の日常が崩れたの。
日々の「お仕事」は、イグバール様から送られてくる魔法草から、薬品類を錬成する事。 必要な薬品類は、シャルロット様から教えて貰っているの。 錬成はすこぶる好調だったわ。 日に一箱づつ、毎日錬成していたの。
体力回復ポーション
魔力回復ポーション
傷薬
解毒薬
毒薬
色々な要望にお応えしていったわ。 どれも、作った事があるモノばかりだし、中級中容量の物ばかりだしね。 南方領域の魔法草の薬効は高い。 その上、イグバール様が自ら符呪された【保存】の符呪が施された薬草箱は、中身をとても新鮮な状態に保持してくれるもの。
とても、「お仕事」が、捗ったわ。
言われるままに、お薬を練成していった私は、ある時点から問題を感じ始めたの。 あまりにも順調に練成しちゃったのもだから、保管場所が手狭になって来たのよ。 その時には、粗方第四四師団の備蓄分の薬品類の錬成は終わっていてね、シャルロット様もイザベル様もホクホク顔だったのよ。
でも、ほら、後から、後から、南方領域から魔法草の入荷はづづいているでしょ。 このまま、材料として保管するのもなんだから、他の師団が必要としている薬品類も一緒に錬成しましょうかって、お伺いも立てたの。
丁度、第四軍の司令部でお話していたのよ、その時ね。 色めきだったのが、第四一師団、第四二師団、そして、特に第四三師団の庶務主計長様達。 足りない薬品類の調達に東奔西走していたかららしいの。 特に第四三師団の庶務主計長様である、ゾイマー=ジャラック男爵様。
泣きそうな感じで、シャルロット様で、懇願されていた。
「頼むよ、第三師団は本気で金欠なんだ。 もう、余分な金は片銅貨一枚も無いんだ。 そりゃ、王太子殿下の予算が回されて来たよ。 でも、それで、糧秣買ったらなにも残ら無いんだ。 王都で薬品類を調達しようとしても、碌な品質のもんが無い。 その上、取引してくれてた商家が…… 無くなっちまったんだ。 新規にお願いしようと思っても、どこも相手にしてくれないんだよ」
「そうは言われましても…… 第四四〇特務隊は、第四師団隷下にあります。 薬師リーナ様の御心遣いで、消耗してしまった、解毒薬と疾病薬はお渡ししました。 第四四師団、エドアルド伯爵から、出来ればと願いがあったからです。 ですが……」
「それは、有難いと思っているよ。 いや、本当に。 でもな、第四三師団が使えるポーション類が絶望的に少ないんだ。 いや、もう払底していると云ってもいい。 俺が何とか捻り出した分は、四一師団と、四二師団に半分分捕られたんだ。 あっちからの侵入が色々あって、散発的に戦闘状態にもなっているんだ。 前線で頑張っている奴らに、渡さん訳にはいかんだろ? 無理して…… 本当に無理して捻出したんだがなぁ…… だから…… 余力があるんなら……」
もう、泣きそうになっているね。 私が言うのも何だけれも、あまりに可哀そうな気がしてたのよ。 同じ部屋に、師団長様もいらっしゃってね、私の方を見ているのよ。 そんな、エドアルド伯爵に、キツイ目を向けているのが、シャルロット様。
「アルバート。 薬師リーナ様に無理を強いてはいけません。 軍属とはいえ、所属は薬師院です。 リーナ様のご厚意で、医薬品と解毒薬は、各師団に、お渡ししました。 特例です。 各師団にも、薬師の方はいらっしゃります。 それなのに、リーナ様がお力添えするのは……」
「それは、知っているし、理解もしている。 しかし……な。 お前も、判っていっているのだろ? 他の師団の薬師の方々が何をしているのか。 聖堂教会の薬師に……な。 他の師団の連中の財布は、ほぼ空になっている。 糧秣の手当ても思うように進まんのだからな。 薬師リーナ殿。 無理強いはしない。 が、お願い出来ないだろうか」
「……どのくらいの量なのでしょうか? それによっては、イグバール商会の商会長様にお願いする、魔法草の量が変わってくるので」
私が、そう云うと、ジャラック男爵様が絞り出す様な声で、申し出られたの。 本当に厳しい状況らしいの。
「…………薬品の備蓄は、ほぼ無い。 幾分なりとでもよいので……」
「つまりは…… 第四師団が、必要であった量と同等にございますか?」
「えっ…… あぁ…… まぁ…… な」
単純に計算したみたの。 イグバール様からの、お荷物が届いたのは、三回。 一ヶ月半の間だったわ。 まだ、私は止めていない。 だけど…… 購入資金はどうするんだろう。 薬草だって只じゃないもの。
「エドアルド伯爵様。 魔法草の購入資金は、どういたしますか? 相手は商家です。 第四三師団の主計発行の約束手形では、取引に応じて貰えない可能性もありますが?」
「…………シャルロット。 第四師団には……」
「……………………はぁ。 ええ、まだ、少しは。 南方領域の魔法草のお値段は、王都産の物より安くはあります。 かなり、ご厚意で設定されているお値段と、思われます。 その上、第四四〇特務隊に対して、グランクラブ商会から、信用取引も可能であると、そう申されております。 薬師リーナ様が居られるからです。 アルバート…… 商人に借りを作るのですよ。 いいのですか?」
物凄い厳しい目だったわ。 以前になにか、あった様ね。 物凄く警戒されているわ。 今の所…… あと二回分は…… 手付の分で支払い済みだから…… そうねぇ…… 次に納品に見えた方に、止めて貰う手はずだったしねぇ……
「判った。 俺の個人資産から捻出する。 第三師団…… だけでなく、四軍全体の備蓄分相当の魔法草を手配してくれ」
「ア、アルバート!」
「市場に出回っている、薬品類を集めるよりも、早く確実で、その上、高品質だ。 背に腹は代えられない。 なんなら、俺の領地からの俸給分も全部合わせて、当てて貰っても構わない。 手配する」
い、いや、それは…… でも…… まぁ…… そう、仰るのなら…… 第四三師団の次年度分の肩代わり、なんて意味も有るのかしら。
でも、決まったわね。 やる事に変わりは無いし、出来上がった薬品類の保管場所もコレで確保できたんだもの。 いい事よね。 早速第四軍の工兵隊に方にお願いして、第四軍の薬品備蓄庫が連なっている倉庫間の内扉を撤去してもらったの。
だって、あれ、邪魔なんだもの。
これで、イチイチ外に出なくても、各師団の薬品備蓄庫へ行ける様になったの。 お話があった次の日から、各師団の庶務主計長様達に必要な薬品類の一覧を出してもらって、ジャンジャン錬成を始めたの。
かなりの勢いで、薬品備蓄庫の中は充実していったわ。
ジャラック様、ある日、私のいる第四師団の倉庫にいらしてね、私の両手を握りしめて、涙を流して居られたの。
「助かった…… 本当に、助かった。 口外はしない。 入手元は誰にも言わない…… 本当に、本当に、ありがとう! これで…… アイツらの命は…… 命は繋がった……」
良かった。 私の錬金術がこんなにも感謝されるとは…… 思ってもみなかった。 出来るだけの事はするって…… 約束したもの。 約束は…… 違えられなかったと、言ってもいいわよね。
毎日、必要な薬品類を練成して、第四軍全体の薬品の備蓄量を増やしていたの。そんな風に、さらに四週間が経ったの。
そして――― 私が、軍に着任してから、二か月半たったその日。
日常が大きく変わったの。
呼び出しが、あった。
普通第四四師団の呼び出しじゃなくて……
第四軍、司令部からの……
呼び出しだったの。
誰が言ったのか知らないけれど、それは、私にも当てはまったわ。 私の日常が崩れたの。
日々の「お仕事」は、イグバール様から送られてくる魔法草から、薬品類を錬成する事。 必要な薬品類は、シャルロット様から教えて貰っているの。 錬成はすこぶる好調だったわ。 日に一箱づつ、毎日錬成していたの。
体力回復ポーション
魔力回復ポーション
傷薬
解毒薬
毒薬
色々な要望にお応えしていったわ。 どれも、作った事があるモノばかりだし、中級中容量の物ばかりだしね。 南方領域の魔法草の薬効は高い。 その上、イグバール様が自ら符呪された【保存】の符呪が施された薬草箱は、中身をとても新鮮な状態に保持してくれるもの。
とても、「お仕事」が、捗ったわ。
言われるままに、お薬を練成していった私は、ある時点から問題を感じ始めたの。 あまりにも順調に練成しちゃったのもだから、保管場所が手狭になって来たのよ。 その時には、粗方第四四師団の備蓄分の薬品類の錬成は終わっていてね、シャルロット様もイザベル様もホクホク顔だったのよ。
でも、ほら、後から、後から、南方領域から魔法草の入荷はづづいているでしょ。 このまま、材料として保管するのもなんだから、他の師団が必要としている薬品類も一緒に錬成しましょうかって、お伺いも立てたの。
丁度、第四軍の司令部でお話していたのよ、その時ね。 色めきだったのが、第四一師団、第四二師団、そして、特に第四三師団の庶務主計長様達。 足りない薬品類の調達に東奔西走していたかららしいの。 特に第四三師団の庶務主計長様である、ゾイマー=ジャラック男爵様。
泣きそうな感じで、シャルロット様で、懇願されていた。
「頼むよ、第三師団は本気で金欠なんだ。 もう、余分な金は片銅貨一枚も無いんだ。 そりゃ、王太子殿下の予算が回されて来たよ。 でも、それで、糧秣買ったらなにも残ら無いんだ。 王都で薬品類を調達しようとしても、碌な品質のもんが無い。 その上、取引してくれてた商家が…… 無くなっちまったんだ。 新規にお願いしようと思っても、どこも相手にしてくれないんだよ」
「そうは言われましても…… 第四四〇特務隊は、第四師団隷下にあります。 薬師リーナ様の御心遣いで、消耗してしまった、解毒薬と疾病薬はお渡ししました。 第四四師団、エドアルド伯爵から、出来ればと願いがあったからです。 ですが……」
「それは、有難いと思っているよ。 いや、本当に。 でもな、第四三師団が使えるポーション類が絶望的に少ないんだ。 いや、もう払底していると云ってもいい。 俺が何とか捻り出した分は、四一師団と、四二師団に半分分捕られたんだ。 あっちからの侵入が色々あって、散発的に戦闘状態にもなっているんだ。 前線で頑張っている奴らに、渡さん訳にはいかんだろ? 無理して…… 本当に無理して捻出したんだがなぁ…… だから…… 余力があるんなら……」
もう、泣きそうになっているね。 私が言うのも何だけれも、あまりに可哀そうな気がしてたのよ。 同じ部屋に、師団長様もいらっしゃってね、私の方を見ているのよ。 そんな、エドアルド伯爵に、キツイ目を向けているのが、シャルロット様。
「アルバート。 薬師リーナ様に無理を強いてはいけません。 軍属とはいえ、所属は薬師院です。 リーナ様のご厚意で、医薬品と解毒薬は、各師団に、お渡ししました。 特例です。 各師団にも、薬師の方はいらっしゃります。 それなのに、リーナ様がお力添えするのは……」
「それは、知っているし、理解もしている。 しかし……な。 お前も、判っていっているのだろ? 他の師団の薬師の方々が何をしているのか。 聖堂教会の薬師に……な。 他の師団の連中の財布は、ほぼ空になっている。 糧秣の手当ても思うように進まんのだからな。 薬師リーナ殿。 無理強いはしない。 が、お願い出来ないだろうか」
「……どのくらいの量なのでしょうか? それによっては、イグバール商会の商会長様にお願いする、魔法草の量が変わってくるので」
私が、そう云うと、ジャラック男爵様が絞り出す様な声で、申し出られたの。 本当に厳しい状況らしいの。
「…………薬品の備蓄は、ほぼ無い。 幾分なりとでもよいので……」
「つまりは…… 第四師団が、必要であった量と同等にございますか?」
「えっ…… あぁ…… まぁ…… な」
単純に計算したみたの。 イグバール様からの、お荷物が届いたのは、三回。 一ヶ月半の間だったわ。 まだ、私は止めていない。 だけど…… 購入資金はどうするんだろう。 薬草だって只じゃないもの。
「エドアルド伯爵様。 魔法草の購入資金は、どういたしますか? 相手は商家です。 第四三師団の主計発行の約束手形では、取引に応じて貰えない可能性もありますが?」
「…………シャルロット。 第四師団には……」
「……………………はぁ。 ええ、まだ、少しは。 南方領域の魔法草のお値段は、王都産の物より安くはあります。 かなり、ご厚意で設定されているお値段と、思われます。 その上、第四四〇特務隊に対して、グランクラブ商会から、信用取引も可能であると、そう申されております。 薬師リーナ様が居られるからです。 アルバート…… 商人に借りを作るのですよ。 いいのですか?」
物凄い厳しい目だったわ。 以前になにか、あった様ね。 物凄く警戒されているわ。 今の所…… あと二回分は…… 手付の分で支払い済みだから…… そうねぇ…… 次に納品に見えた方に、止めて貰う手はずだったしねぇ……
「判った。 俺の個人資産から捻出する。 第三師団…… だけでなく、四軍全体の備蓄分相当の魔法草を手配してくれ」
「ア、アルバート!」
「市場に出回っている、薬品類を集めるよりも、早く確実で、その上、高品質だ。 背に腹は代えられない。 なんなら、俺の領地からの俸給分も全部合わせて、当てて貰っても構わない。 手配する」
い、いや、それは…… でも…… まぁ…… そう、仰るのなら…… 第四三師団の次年度分の肩代わり、なんて意味も有るのかしら。
でも、決まったわね。 やる事に変わりは無いし、出来上がった薬品類の保管場所もコレで確保できたんだもの。 いい事よね。 早速第四軍の工兵隊に方にお願いして、第四軍の薬品備蓄庫が連なっている倉庫間の内扉を撤去してもらったの。
だって、あれ、邪魔なんだもの。
これで、イチイチ外に出なくても、各師団の薬品備蓄庫へ行ける様になったの。 お話があった次の日から、各師団の庶務主計長様達に必要な薬品類の一覧を出してもらって、ジャンジャン錬成を始めたの。
かなりの勢いで、薬品備蓄庫の中は充実していったわ。
ジャラック様、ある日、私のいる第四師団の倉庫にいらしてね、私の両手を握りしめて、涙を流して居られたの。
「助かった…… 本当に、助かった。 口外はしない。 入手元は誰にも言わない…… 本当に、本当に、ありがとう! これで…… アイツらの命は…… 命は繋がった……」
良かった。 私の錬金術がこんなにも感謝されるとは…… 思ってもみなかった。 出来るだけの事はするって…… 約束したもの。 約束は…… 違えられなかったと、言ってもいいわよね。
毎日、必要な薬品類を練成して、第四軍全体の薬品の備蓄量を増やしていたの。そんな風に、さらに四週間が経ったの。
そして――― 私が、軍に着任してから、二か月半たったその日。
日常が大きく変わったの。
呼び出しが、あった。
普通第四四師団の呼び出しじゃなくて……
第四軍、司令部からの……
呼び出しだったの。
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