その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

文字の大きさ
上 下
297 / 713
公女リリアンネ様 と 穢れた森 (1)

作戦発動 (2)

しおりを挟む

 私は、一台の荷馬車に積み込まれた、布に包まれた大きな荷物を指し示しながら、皆さんにご説明するわ。 この作戦にはとても重要な案件だもの。 しっかり取り付けて貰わなくては、いけないし……




「この荷は、『 皮 』 です。 王族専用の馬車と酷似した外装です。 固定具は有りませんが、それに準じた物資は持って来ております。 荷馬車にこの 『 皮 』を被せ、持って王族専用の馬車の囮と成します」




 言葉も出ない工兵中隊の皆さん。 ちょっとだけ、布をはぐって、中身を見せるの。 出来るだけ軽くなるように、錬成したから…… 

 私の笑顔に、ハッとして、各小隊長さん達が行動を起こしたの。 積み込まれている荷物を手早く下ろし、荷解きをする。 その構造を確認して、固定する為の方策を、ザックリと編み出す。 




「二台だけで良いです。 三台分の 『 皮 』は、用意しておりますが、万が一、固定時に破損してしまった時の為に、予備として持って来ております、そちらをお使いください」




 第四三四一中隊の中隊長さんがニンマリと笑みを浮かべるの。 良く判っているって感じの表情ね。 予備は、何にでも必要なの。 万が一は何処にでも存在するから。 それに、本物の「王族専用馬車」を作る訳じゃ無いし、材料はとてもお安いモノだから、私の負担にもなりはしない。 金なんか使わないしね。 それっぽく見えればいいの。




「なかなか、面白き事を考えられましたな。 これだけのモノを用意されるとなると、相当時間もかかりましたでしょうに」

「錬金魔法を駆使しました。 錬成にはそれほど時間は掛かりません。 此処で錬成しても構わないのですが、眼を惹きますので」

「なんと! そうでございましたか。 成程、此処で錬成するとなると、大型の錬金釜も必要となりますし、そんな物は御座いませんしなっ。 噂には聞いておりましたが…… そこまでとは……」

「薬師錬金術士なれば、可能に御座います」

「まさに、第四軍の至宝ですな…… 「薬師」リーナ殿は……」

「まさか……」




 ちょっとハニカミ、笑みを浮かべる。 顔、赤くないかな? ちょっと、恥ずかしいよ。 でも、そんな事言っている間に、偽装用の 『 皮 』はどんどん取り付けられて行ったの。 流石は工兵隊の皆さんね。 その確固たる技術力は、本当に頼もしい。 有り合わせの物資で、抜かれた城壁を再構築するとか、行軍に耐えうる簡易橋を架けるとか……

 もうね…… 凄いの一言よ。

 お願いして良かった…… これ、一人でやるとなると、丸一日かかるわよ。

 御昼前には、完成したわ。 皆さんやり切ったって御顔をされているの。 出来上がったものは、ほんとにそっくりになった。 きちんと確実に固定されていてね。 それに、後部の板は簡単に跳ね上げられるし。 荷馬車としても、ちゃんと機能するのよ。




「これで、宜しいかな?」

「はい、素敵です!」

「ならば、良かった。 また、なにかありましたら、ご用命を。 我ら第三師団の皆は、薬師リーナに救われた命。 貴女の軍命ならば、直ぐにでも参じます故」

「勿体なく。 第三師団のファンダリア王国への献身、誠に貴ぶものに御座います。 マクシミリアン殿下に置かれましても、そう思われる事に御座いましょう」

「……薬師リーナ殿。 貴女という人は……」




 そう、栄誉は私以外、誉れもね。 第三師団の献身は真に称えられるべきモノなのよ。 だから私には、不必要。 この護衛作戦を全うする為に、必要だったのだからね。 上手く行って本当に良かった。


 私の準備は終わった。 後は…… 騎士団長様の宣言を待つだけ。 



^^^^^


 工兵大隊の皆さんに丁寧にお礼を申し上げて、本館に向かうと、そこは明らかに混乱していたの。 怒号と命令と、そして、何より必死の形相の騎士長様がいらしたの。 ほんと…… 


 ――― 役者ね ―――




「皆の者、狼狽えるな!! もう一度云う、『王家の見えざる手』、『月夜の瞳』、『眺訊ちょうじんの長き手』の者達から、殿下、公女殿下を襲う『不逞の輩』がこちらに向かっているとの報告が入った。 方角は、マグノリア王国との国境。 マクシミリアン殿下を、弑せんと画策されたと思しき兆候有りと。 緊急報である。 確度は高い! よって、護衛計画の中にある、緊急事態要綱を実施する」




 騎士長様の大声が響き渡ると、静けさが、迎賓館のホールを埋め尽くす。 この場の騎士団の方々は、緊急事態要綱なんて、御存じなかったものね。 尊敬のまなざしを騎士団長様に向けていらっしゃるのが何よりの証拠。 そして、私は、その方々の表情を伺うの。

 だれか、当然という表情をしている方がいないか。 どこかに連絡を取ろうとしている方がいないか。 じっくりと見極めるの。 内通者の炙り出しも、私の役目だもの……




「これより、臨時編成に移る。 敵の目的を交わす。 拙速を持って、事に当たる。 尚、欺瞞作戦も同時に発動する。 奴らの眼を欺くために。 良いか!!!」

「「「「 ハッ!! 」」」」




 綺麗に御唱和して頂けた。 見る限りは、内通者は居ないようね。 気位が高く、脳みそ迄筋肉製の騎士さん達だから…… ね。 それでも、何かしらの行動を起こす方もいらっしゃるかもしれないから、きちんとこの場に居る人たちには、印をつけておくことにしたの。

 明朝より、本格的に護衛戦は始まるわ。 今夜は忙しくなるのよ。 

 本命と、囮を作って…… 其々に貴人の人達を振り分け、疾走する。 その為の準備。 騎士長様が、立案されたと韜晦した、緊急事態要綱に沿っての振り分けよ。 すでに、その振り分け表は渡してあるもの。



 第一陣は―――


 マクシミリアン殿下が乗るのは、最初の馬車。 同乗されるのは、公女リリアンネ様、シュバルツァー子爵様、ライヒトゥーム子爵様、ハイマート子爵様の五名。

 囮と云う事にしてあるの。 だって、マクシミリアン殿下は、騎士見習いの装束をずっと纏ってらっしゃるし、公女リリアンネ様は侍女を装ってらっしゃる。 さらに、シュバルツァー子爵様、ライヒトゥーム子爵様、は侍従の格好。 唯一ハイマート子爵様のみが、その身分にふさわしい御姿なのよ。

 騎士さん達には、囮を守護するって事で、お話が付いたわ。 騎士長様は、出来るだけそれらしく、整え、街道を疾走すると、そう宣言されたの。 そう、当初の目的通りね。 それが可能なように、魔法具も手に入れたんだもの。

 眼を惹く様にって、マグノリア王国から来た、あちらの荷馬車も、第一陣に付随する。 王家専属馬車と、偽装馬車、そして、あちらの荷馬車。 厩の人達に、あちらの馬車の整備をお願いしたわ。 流石に軍事国家の軍用馬車だけあって、とても堅牢よ。 これなら、付いていけると、厩の方も太鼓判押して下さったの。



 第二陣はと云うと。



 殿下に扮したアンソニー様。 公女様に化けてる女、そして、シュバルツァー子爵様、ライヒトゥーム子爵様、に化けている漢達と、侍従姿の男が一人。 全員偽物なの。 それに、私も参加するわ。 ただし、馬車は別。 高貴な方々の中には入れないもの……

 表面上は、此方が本命。 韜晦する為に、第四四〇〇護衛隊がその周囲を護衛すると、そう騎士長様は宣言されたの。 まぁ、皆さんは驚いてらっしゃた。 でも、それも計画だと云われれば、彼等は納得するわ。 無茶な行軍計画を騎士長様がお提示に成られたものね。

 矢継ぎ早に命令を下されて、騎士長様は各人に動く様に促されたの。 長距離疾駆には、相応の準備が必要。 もう、騎士隊の方に時間の余裕は無いわ。 明日の作戦発動まで、忙しくされる。 街に「お出かけ」された方がにも伝令は飛ぶ。 


 ” 至急、迎賓館にお戻り頂きたい。 不測の事態が発生しました ”


 ってね。 バタバタと慌てて出て行く、迎賓館の職員の方。 大変だろうけれど、頑張って下さいね。 きちんと繋が付けられない様に、敢えてこの時を待っていたのよ。 時間は午後三刻。 これから、宵闇が迫り、闇の者達が動き回る時間。

 あちらにとっても、繋ぎや連絡が付けやすくなる時間なのよ。 

 ふふふ…… さて、二重の欺瞞作戦。 見破れるかしら?




 ^^^^^



 その夜…… ついに、待ちに待った人が、帰って来たの。 小部屋の中で、全ての準備を整え、出発を待つ私の元に…… 彼女は帰って来た。

 沢山の荷物と、証拠品と……


 そして―――





 作戦の成否を掛けた情報を持ってね。




しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

甘い婚約~王子様は婚約者を甘やかしたい~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:177pt お気に入り:385

攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました

BL / 完結 24h.ポイント:631pt お気に入り:2,625

婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です

sai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,491pt お気に入り:4,185

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。