ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 3rd episode

8

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「…ま、いいんじゃねぇか?
お前ら、どうした」

 それから二人で出勤して、政宗に始末書を一度見せている。が…。

 俺はげっそり、潤は生き生き。怪訝そうに政宗が俺たちを見るのも無理はないだろう。

「え?いい?いい?やったね、もーちょー頑張ったからね」
「お、おぅ。なぁ、なんで流星そんなげっそりしてんだ、たった半日で」
「え?疲れてんじゃないの?寝れば?」
「寝かせてないのかお前…」
「寝ましたよ…。いつも通りの睡眠時間でしたが休めなかったの!」
「え、なに、お前ら…」
「だー!違う、確かにこいつは化けモンだけど違うんだよ!もうやめて!俺死んじゃう!」
「…今度はお前が死ぬのか…」
「いやぁ、俺が生気をすべて吸い取ったっぽいね」

 一発潤の横っ腹を殴ろうと拳を繰り出すがかわされちまった。

「誤解を生むような言い方してんじゃねぇよ変態!」
「いや流星、それもそれだと思う」

 取り敢えずデスクに座り、仕事をすることにした。

 仕事をしようとパソコンを開いた瞬間、ケータイが鳴った。見れば高田と書いてあった。

 溜め息を吐いて席を立ち、部署を出て壁に寄りかかる。

「はい、スミダ」
『スミダー。お前何してんだよー、おい』
「あい、何がですか。始末書は持って行きます」
『大手柄だよご苦労さん。おかげで警視庁一斉摘発へ一歩全身だよ』
「…あ?」
『昨晩の!』

 何言ってんだこの野郎。

「あーはい。話はそれだけですか。切りますよ」
『今日の夜告別式あるけど、行けば?場所送っといたから』
「は?」
『白澤の』
「…忙しいんで切りますね」

 通話を一方的に切ってやって舌打ちし、頭に来て壁を蹴っ飛ばした。

 部署に戻ると、みんな雰囲気が騒然としていて、「物に当たるな。ガキじゃあるまいし」と政宗に言われた。

「…はいこれ」

 それだけ言ってケータイを渡した。メールホルダーを見て、政宗は俺をちらっと見る。

「顔が怖い」
「すんませんね」
「…悪いなみんな、ちょっとタバコ吸ってくるわ。なんかいるか?」

 政宗はそう言って立ち上がる。「俺コーヒー!」と早坂が言い、「わかった。飲めないやついないな?」と確認。

「おら行くぞ王子」

 政宗の目は久しぶりに猛獣のような鋭さがあった。しかし、背中に促されるように置かれた左手はやけに優しかった。

 無言のまま喫煙所に連れていかれる。イライラしてタバコを何度も叩いてから火をつけたが、睨むような政宗の目に、少し落ち着かなければならないと思い、一口目を深く吸い込んだ。

「…落ち着いたか」

 口調は優しい。だからこそどう返事を返していいかわからない。取り敢えず荒々しく煙を吐き出して意思表示をする。

「…今日の夜、告別式があるから、行けば?ってさ」
「…そうか」
「喧嘩売ってんのかよあのクソ野郎」
「まぁ、空気読めねぇからなあの人」
「にしてもさ」
「態度が悪い。お前もお前だ」
「…うるせぇな。ごめん」
「うん。ホントに」

 あぁ、イライラがだんだん虚しさに変わってきた。

「おい、お前さ。手が震えてるけど大丈夫か?」
「んあ?あぁ…。疲れてるからな。自律神経失調症かなんかだろ」
「それ潤も言ってたな」
「あいつは最早精神病だよ」
「…まぁな、普通じゃねぇからな。職も、お前らも」
「…今だけ言っていいですか」
「どうぞ」
「イライラする」
「見てわかる」
「イライラを通り越して虚しい」
「あぁ、そろそろ無の境地だな」
「はぁ…」

 昨日の今日でなんだって言うんだ。

「…辛いか?」
「辛くない」
「じゃぁなんだ」
「何もねぇ。最悪だ」
「確かにな。最悪だ」
「はー、ごめん、スッキリした。悪い。うん、ちゃんとやろう。今後に生かそう」

 顔を上げて見た政宗は、思いのほか辛そうに人の顔を覗き込んでやがった。

「なぁ流星」
「…なんですか」
「…お前、なんのためにここでこんな仕事してる?」

 …なんのため。

「…さぁな。
 先に戻ります。すみません。
コーヒー下で買ってくから気にしないで。じゃぁまた」

 一人、喫煙所を後にした。
 またひとつ、伝えなかった。
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