ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 16th episode

7

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「ふははは!やべぇなにそれ腹の傷開くんですけど!
 ユミルってさぁ、あ、の、ちょ、バイセクシャル星川潤から言わせてもらえば君って両性具有りょうせいぐゆうだよね最早!」
「おいこらいい加減不穏当過ぎるぞ二人共。
 ユミル、多分な、ショウにその話したらお前ぶっ殺されるからやめとけな。あいつケリーに、不動産野郎に入れるっつって喧嘩して銃抜き合ったらしいから」
「あぁやりそうだネ。えでも話したヨ。ざまぁみろよって優男スマイルで言われたからひっ叩いた」
「案外お前ら仲悪いよな実は」
「僕ショウ好きだけど嫌いだもんネ」

まぁまぁ。
やはり政治の話はよくないもんだな。

「え誰それ」
「あー、日本離れたときのチームメイトだヨ。まぁ流星の潤ちゃんみたいな?僕とリュウとショウ。まぁこれはケリーの時限定だよネ。高田さんの時は潤ちゃんと俺とリュウもあったネ。最近はあんまないけどさ」
「へぇ…」

 なにか、考えるような目で潤は俺を見た。
まぁ毎度この手の話は少し機嫌を損ねる。

 それを見てかユミルは黙って、比較的穏やかな表情で潤を見てから俺に控えめに微笑むばかりだった。

 車に乗り込んでからは主に潤が黙々と、と言うのもおかしな話ではあるがまぁ黙々と、無線を入れ、愛蘭とやりとりをしたりして状況を把握。

 どうやら立て籠られたのは医療大の第一棟。第二棟まであり、一棟は附属病院と隣接している。
 そして救出機会を伺って潜入していたマトリの捜査員がまだ撤収出来ずに残っているとのこと。

 厚労省麻薬取締部の今回のそれはあくまで潜入捜査段階、つまり捜査令状だとか、そんな大がかりな段階ではなかった。

『特本部に密礼というか…まぁ事態の沈静化が言い渡されました』
「だってさ部長様。犯人は?」
『通報が理事長室からありまして。犯人は第一棟に爆弾を仕掛けたようで第二棟を閉鎖するように指示し、理事長と共に第二棟へ移動。第一棟にいた大学研究員一部と第二棟の研究施設にいた計80名と里中さんが人質に。
 犯人グループの人数はいまだわかっておりません』
「はいはい。頃合いを見計らって、上には、『交換条件』で帝都の、捜査令状じゃなくて逮捕令状取っといて。原田さんに確認取れ次第報告よろしく。
 ただ、マトリ連中に令状のタイミングは伝えるな。そうだな、潤に電話してくれ。
こっちが沈静化したら大至急向かうと政宗に伝えてくれ。まぁ、どっちが先にやられるかってとこだな。それぞれ欲しいもんだけ持ってこいと。
 多分だが、取引くらい持ってこれるだろ?あの人なら」
『かしこまりました』

 愛蘭からの通信が途絶えると、不機嫌面のまま潤は言う。「リスク高すぎるな」と。

「まぁな」
「お前ってなに?平和だと死ぬの?アドレナリンジャンキーだから」
「別に好きでやってるわけじゃないよ」
「ふん、俺にはわざわざ墓場増やしてるようにしか見えねぇんだよ」

まぁいい。言わせておこう。
こいつはいま機嫌が悪い。
だが、ひとつくらいは勘違いを正してやろうか。

「そう思うなら別についてくんなよ。
 てめぇは俺の右側守ってりゃいい。俺はてめえの背後を守る。それだけでこいつらを引っ張んなきゃならねぇ、そうじゃねぇのか潤」

 タバコを取り出し火をつける。
 不機嫌に舌打ちをする潤と俺が摩るライターの音が重なる。
 発火しない。やっぱこのタイプのライター、イライラするわ。

「…相変わらずだなぁ、二人は」
「…ユミル、お前ヤバそうならちゃんと引き返してこいよな」
「わかってるよリュウ。相変わらずだね。これだからやりにくいんだよ。潤ちゃんって凄い」
「やめてよユミル。俺こんなクソ鉄面皮大っ嫌い。今すぐ撃ち殺したい」
「はは、はいはい。いーかげんにしないと部下達がカタマってるから」

確かに。

「…つくまで起こすな狂犬」

 そう言うと潤は腕組んでそっぽ向いた。

「…なんだかんだ、元気じゃないっすか潤さん…」

 ぼそっと諒斗が言った。
全くもってその通りだ。

「多分こいつ殺しても死ねねぇよしばらくは」
「それなんかカッコいいっすね…俺も言ってみたい」
「は?」
「多分様にならないな諒斗は」

 ふと瞬が言う。「なんだよー!」と返す諒斗を見て、
あれ、この二人こんな仲良かったのかと知る。

クール系とおちゃらけ系、でもそっか。ホストの時もそういえば、こいつら一緒だったな。

「諒斗、お前楽しそうだな」

 ふと、吉川が諒斗に話を振る。そうか諒斗は、元はマトリだったのか。
 バックミラーをちらっと覗けば、言葉は発さないが辻井も横目で諒斗を見やっていた。それに諒斗は堂々と微笑み「はい」と答える。

「お宅より断然面倒だし危ねぇし、辛いこともあるけど、まぁ折れませんね、ここは」
「…そうか」

 蟠りがあった、と諒斗に対して原田さんが赤羽雀荘でそう言っていたのを思い出す。見ていると確かに、多分そうなんだろう。
 はっきりと、しかし嫌味なく答えた諒斗に対し、二人は少し安堵を覚えたような表情ではあった。

そういえばそうだな、諒斗は折れねぇな、なかなか。

「やさぐれることはたまにあるよね、諒斗」
「そうだな。瞬に比べたらあるな」
「まぁ流星さんと潤さんには敵わない」
「それな」

聞き捨てならないんだが。

「言われてるよ二人とも」
「ホントだな」

しかし潤は不機嫌さから答えない。

 諒斗と瞬がバックミラーで、顔を見合わせて笑いあったのが見えた。
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