ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 31st episode

7

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 後ろにいるから雰囲気でしかわからないが、多分流星はケリーに笑い返したのかもしれない。
 柔らかい空気、声色で「ありがとう、ケリー」と言った。

 にやっと笑ったケリーは「突っ立ってねぇで、さっさと済ますぞ」とそれから背を向け神台へ歩いていく。流星も、ユミルもついて行くように。
 俺もそうしようと歩いていくついでに祥ちゃんに手を貸せば「ありがとう」と言われて。

「マジで怖かった~」

と肩を借りながらおどけて言う祥ちゃんには「ったく、」と言うしかない。

「…悪かったよ、助かったね潤」

てか、

「あの人、まぁ大丈夫なんでしょ」
「どうかな…」
「…わかんねぇけど、なんであの人関西風味なの」

 流星が前で、ケリーに骨壺を渡していた。
 ユミルも手を組んで、それで話は一度終了して、なんとなく祥ちゃんもそうしたから俺も真似してみる。

祈ることは果たして、何かな。
まずは環ちゃんを思い浮かべるべきなのかな?

 ケリーは骨壺を神台に置いて、無言で祈っていた。
殺伐が急に消えていく。

 キラキラした神聖な空気はやがて肺に水を浸すようだ、俺はそう思えた。黙祷、浮かぶのはでも、俺には凄惨な環ちゃんでしかなかった。

流星はどうなんだろうか。多分幸せだったはずなんだ。あれは肺に水を浸したくらいでは、多分流してくれなくて。祈ることしか出来ないけど。

 何分そうしたかはわからない。結構経ったかもしれない。
 終わったらしいケリーが振り返り「さぁて」と空気はまた日常に戻ってきた。

「茶でもゆったり飲みながら聞くわ」

 そう言ってケリーは神台から降り、先につかつかと出口まで歩いていくその神父の背中は「俺についてこい」と言いたげで。意外と日本的だな。

「さっきのだけどさ、潤」
「ん?なに祥ちゃん」
「ケリーに日本語を叩き込んだ日本人が、関西の人だったらしいよ」

 ふと、祥ちゃんは前で、神台を眺めたままの流星を見ては小声でそう言った。

「…叩き込んだ、日本人…」

 ぼんやり流星の背を眺めていたが、やっと振り返って

「待たせた。ケリーがキレる前に行こう」

と言って出口へ向かう流星について行くことになるが、

「…日本語を教えた日本人?」

意味が浸透し祥ちゃんに聞き返した。

 それってまさかこの前言っていた「イッセイ・スミダだよ」と、横から聞いたユミルが口を挟んでくる。

何、ユミルは知ってるの?

「僕を、ケリーと拾った人」
「…ん?」
「そっか、ユミルは会ったことあるんだ」
「ん?」
「俺はないけどね」
「なんで?」
「もう俺が拾われた時には姿をくらませていた」
「ん、待って、」

ナニソレ。

 歩きながらの会話、講堂は出たが俺の疑問は置き去りに、「あー、そうだったかもネー」とユミルは言う。

「ショウは何年前だっけネー」
「16年かな」
「待て、お宅らファミリーが全然わから」
「ユミルはこー見えてアラフォーだから」
「ん、」

 around forty?

「アラウンドフォーティい!?」

 声大きくなっちまった。めちゃ反響。「し!」とか「潤ちゃん、」とか窘められる。

だって…。
んな胡散臭ぇ話、あるかぁあ!?高田と近ぇじゃん!多分今年「アラフィフ」と言われるぞあれ!

 案内するように先を歩いていた流星もケリーも雑談に振り向いてしまう。「うるせぇわ」とケリーに言われてそれからずっと皆黙る。

 ずっと黙っていると、ケリーのいた講堂とは逆の突き当たりにあった、
不自然なまでに重々しく禍々しい鉄の扉があり、俺のケリーに対する警戒心が変わった。
 雰囲気だけでそこは、いままでのケリーの行動などを差し置いて、シンプルに「ヤバい」と感じた。

「ここな」

 関西イントネーションに却って現実へ戻ってこれた。
 悪寒を認識したら鳥肌が立つ、冷や汗が急速にじわりと吹き出るのがわかる。急激に不安。なんだ、ここは。初めて来た場所の筈だ。
 ここな。そこには何があると考える。
 
「ケリー、ちょっと待った…」

 そう言って血相を変えた、冷や汗のようなものをかいた祥ちゃんがケリーの元へ行き、鉄の、爪形の取っ手を掴んだケリーの手に目掛けるように制して掴んだ。
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