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毒ガエルやクラゲ、イソギンチャク。小さな展示、大きな展示がバランスよくあった。
予想より人混みも忙しなさもあり少し疲れた頃、シノがふっと、こちらに紙を渡してきた。
金か?と、楽は一瞬手を出さなかったが、思考が追いつけばそれは何か券のようなもで、受け取ってよく見てみた。
ウミガメ餌やり券。
再びシノを見ると、ニヤッと笑った顔と細い指、目の前に大きな水槽がある。
そのままスタスタ歩く、指が緩く握られた。どうやら、楽が思っていたよりシノはノリ気な様だ。先を行くシノの背、旋毛が見える。
この、照れた顔を見られなくてよかった。
何組か並び、足元に疑似の海が広がる。思ったより生臭い。
果敢にウミガメに餌をやるシノを見て、自分も恐る恐るあげてみるが、やはり生き物とはそういった人の心情がわかるのだろうか。シノばかりに餌を貰いに行くウミガメたち。
「食べた」
だけど数少ないその現象を見たシノは、にへっと笑ってくれた。
それだけで眩しくて、この網から落ちるかも、というくらいには気がそぞろになってしまう。
「手、熱いね」
足元の振動で、ふふふと後ろでシノが笑ったのを感じる。
まぁ、次の客に見られようと何をしようと、きっとウミガメ体験に喜ぶ若者、くらいに見えるだろう。実際少し、楽しかったし嬉しかった。
それからアザラシのショーも見た。ガイドが言った、アザラシはショーが苦手で珍しい、愛嬌があると。
確かになと、アザラシのぎこちなさについつい顔も綻んでしまった。
いいなぁ、本当に飼育員とか、やってみたい気がしなくもない。こうした、少しのエンターテイメントを生き甲斐にしつつ、何かを育もうなんて。きっと本人たちは幸せだ、それが伝わってくる。
水槽の前の線引きは、子供の観賞用らしい。行き届いた配慮だ。
アザラシの何ちゃんだか、「バイバーイ!」と手を振る…というより腹を叩く演出で、人の流れが出てくる。
さて、そろそろ終わってしまうかな、この時間も…と辺りを確認しながら歩いていたが、シノがふと「あ」と言った。
円柱の水槽。まるで水の中にいるような空間に、アザラシが泳いでいる。
それを目で追いかけるシノは、一匹…へその緒のようなものが付いたアザラシを指し「ちんこかな?」と子供のような口調で言うのに「…おいっ!」と窘めるのは大人の理性と恥ずかしさなのか、保護者なのかと微妙な心境に至る。
「だって、きっとそうじゃない?裸だよ?」
…海洋生物に「裸」の概念とか…でも確かに、へその緒…どうなんだ、とついついシノのペースに呑まれその個体を目で追い掛けてしまう。
「…かもしれないが、」
「へー、こんなモロ出」
「確かこの先が最後だよ。サメが…」
「ピンク~!ガクのとは」
「シノ、サメがあっちいる。行こ、」
…あたりを見る。子連れ、いるしっ!
しかし子供は気にしてないし、子供が気にしてないから親も何も言わないらしい。
水族館の出口の前。大きな縦の円柱の中に、サメが二頭いる。
まるで、自分達とは時の流れが違うように、ゆったり堂々と泳いでいた。
「シロワニだ」
「…ん?」
楽は、カメラ禁止のマークを眺めていた。
それにシノが、「目が悪いから」と言った。
「だから水槽も丸い。フラッシュの光とかで、ビックリしてショック死しちゃうんだよ」
「そうなんだ…」
「おっきいなぁ」
サメを眺めるシノを見て、今日は色々見たなぁ、カワウソも可愛かったし…と思い返せるくらいには、ゆったり、このままずっとだなんて考えているから…。
そういえばイワシも円柱だった。延々と、止まることなくくるくる回っていて、何だったか忘れたが確か、死ぬまで永遠に泳いでいないと死んでしまうんだよな…今、ワニって言ったけど…と、ケータイを取り出し調べてみる。
ワニは、サメの別称?ん?と進めていくうちに、小さな声で「ガク」と呼ばれ我に返る。振り向いたシノが、「出よ」と出口を指した。
申し訳なかったなと、「ん、あぁ…」別につまらなかったわけじゃない。寧ろこれはどちらかといえば興味が湧いたんだよなと、楽に着いていきながら「ワニってどういうこと?」と聞いてみたりした。
しかし予想外の反応で「え?」と返ってくる。
それで会話は終わり、「ここに確か喫煙所が…」と出てすぐの場所を覗いていたが、「あれ、なくなったみたい」と振り向くシノに、邪推が入る。ここ、来たことあるのかと。
まぁ、別に不思議なことでもないし、なんともないことだけど…。
ふとベンチに座り、「で、どこ?」と聞いてくるシノに、一気に距離を取られたように感じた。
「疲れたから足伸ばせる風呂がいいなあ」
…そういうわけじゃなかったんだけど…。
気まずくなり、「なんか食う?」と、売店を指し聞いてみた。
「飲み物~」としか返ってこないので、何味かはわからないが、なんとなくここ限定だろう飲み物を買った。
透明なプラスティックの向こう側の気泡。青から透明にグラデーションされている。
下に落ちて行く水滴は透明なはずなのに、青くなる。本当に透明だからだろう。
カランと、氷が溶けた。
予想より人混みも忙しなさもあり少し疲れた頃、シノがふっと、こちらに紙を渡してきた。
金か?と、楽は一瞬手を出さなかったが、思考が追いつけばそれは何か券のようなもで、受け取ってよく見てみた。
ウミガメ餌やり券。
再びシノを見ると、ニヤッと笑った顔と細い指、目の前に大きな水槽がある。
そのままスタスタ歩く、指が緩く握られた。どうやら、楽が思っていたよりシノはノリ気な様だ。先を行くシノの背、旋毛が見える。
この、照れた顔を見られなくてよかった。
何組か並び、足元に疑似の海が広がる。思ったより生臭い。
果敢にウミガメに餌をやるシノを見て、自分も恐る恐るあげてみるが、やはり生き物とはそういった人の心情がわかるのだろうか。シノばかりに餌を貰いに行くウミガメたち。
「食べた」
だけど数少ないその現象を見たシノは、にへっと笑ってくれた。
それだけで眩しくて、この網から落ちるかも、というくらいには気がそぞろになってしまう。
「手、熱いね」
足元の振動で、ふふふと後ろでシノが笑ったのを感じる。
まぁ、次の客に見られようと何をしようと、きっとウミガメ体験に喜ぶ若者、くらいに見えるだろう。実際少し、楽しかったし嬉しかった。
それからアザラシのショーも見た。ガイドが言った、アザラシはショーが苦手で珍しい、愛嬌があると。
確かになと、アザラシのぎこちなさについつい顔も綻んでしまった。
いいなぁ、本当に飼育員とか、やってみたい気がしなくもない。こうした、少しのエンターテイメントを生き甲斐にしつつ、何かを育もうなんて。きっと本人たちは幸せだ、それが伝わってくる。
水槽の前の線引きは、子供の観賞用らしい。行き届いた配慮だ。
アザラシの何ちゃんだか、「バイバーイ!」と手を振る…というより腹を叩く演出で、人の流れが出てくる。
さて、そろそろ終わってしまうかな、この時間も…と辺りを確認しながら歩いていたが、シノがふと「あ」と言った。
円柱の水槽。まるで水の中にいるような空間に、アザラシが泳いでいる。
それを目で追いかけるシノは、一匹…へその緒のようなものが付いたアザラシを指し「ちんこかな?」と子供のような口調で言うのに「…おいっ!」と窘めるのは大人の理性と恥ずかしさなのか、保護者なのかと微妙な心境に至る。
「だって、きっとそうじゃない?裸だよ?」
…海洋生物に「裸」の概念とか…でも確かに、へその緒…どうなんだ、とついついシノのペースに呑まれその個体を目で追い掛けてしまう。
「…かもしれないが、」
「へー、こんなモロ出」
「確かこの先が最後だよ。サメが…」
「ピンク~!ガクのとは」
「シノ、サメがあっちいる。行こ、」
…あたりを見る。子連れ、いるしっ!
しかし子供は気にしてないし、子供が気にしてないから親も何も言わないらしい。
水族館の出口の前。大きな縦の円柱の中に、サメが二頭いる。
まるで、自分達とは時の流れが違うように、ゆったり堂々と泳いでいた。
「シロワニだ」
「…ん?」
楽は、カメラ禁止のマークを眺めていた。
それにシノが、「目が悪いから」と言った。
「だから水槽も丸い。フラッシュの光とかで、ビックリしてショック死しちゃうんだよ」
「そうなんだ…」
「おっきいなぁ」
サメを眺めるシノを見て、今日は色々見たなぁ、カワウソも可愛かったし…と思い返せるくらいには、ゆったり、このままずっとだなんて考えているから…。
そういえばイワシも円柱だった。延々と、止まることなくくるくる回っていて、何だったか忘れたが確か、死ぬまで永遠に泳いでいないと死んでしまうんだよな…今、ワニって言ったけど…と、ケータイを取り出し調べてみる。
ワニは、サメの別称?ん?と進めていくうちに、小さな声で「ガク」と呼ばれ我に返る。振り向いたシノが、「出よ」と出口を指した。
申し訳なかったなと、「ん、あぁ…」別につまらなかったわけじゃない。寧ろこれはどちらかといえば興味が湧いたんだよなと、楽に着いていきながら「ワニってどういうこと?」と聞いてみたりした。
しかし予想外の反応で「え?」と返ってくる。
それで会話は終わり、「ここに確か喫煙所が…」と出てすぐの場所を覗いていたが、「あれ、なくなったみたい」と振り向くシノに、邪推が入る。ここ、来たことあるのかと。
まぁ、別に不思議なことでもないし、なんともないことだけど…。
ふとベンチに座り、「で、どこ?」と聞いてくるシノに、一気に距離を取られたように感じた。
「疲れたから足伸ばせる風呂がいいなあ」
…そういうわけじゃなかったんだけど…。
気まずくなり、「なんか食う?」と、売店を指し聞いてみた。
「飲み物~」としか返ってこないので、何味かはわからないが、なんとなくここ限定だろう飲み物を買った。
透明なプラスティックの向こう側の気泡。青から透明にグラデーションされている。
下に落ちて行く水滴は透明なはずなのに、青くなる。本当に透明だからだろう。
カランと、氷が溶けた。
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