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番外編
【女騎士視点】 第二王子は初恋クラッシャー
しおりを挟む私は生まれてすぐ孤児院の前に捨てられていたそうだ。親を探したみたいだけど結局、名乗り出る者はいなかったらしい。そこで当時の院長先生は私をそのまま孤児院で育ててくれた。
孤児院では、私みたいな子達が沢山いてみんなで畑を耕したり、年上の男の子たちは町でお手伝いをしてお金をもらったりしてなんとか過ごせていた。
院長先生はおじいちゃんだったけどすっごく優しい人だった。だけど院長先生の息子は最悪な奴で、仕事もせず悪い仲間とつるんで酒と博打ばかりしていた。そして貴族様から頂いている寄付金を持ち逃げするのは一度や二度じゃなかった。
院長先生は何とか止めさせようとしたけどかなり年を取っていて力ではかなわなかった。私たちも子供だけだったのでどうすることもできなかった。
そうしてある日、院長先生は風邪をこじらせて、あっけなく亡くなってしまった。町の人たちと孤児院の私達で院長先生のお葬式をしてこれからどうしようかとみんなで話し合っている時に、あの最悪な息子がやってきた。
あいつは貴族様の寄付金を自分のものにするために、私たちを奴隷商人に売り渡したのだ。夜中に大人の男の人たちがたくさん院内に入ってきて私達は縛られて馬車の中に詰め込まれた。
馬車がどこに向かっているのかわからなかったけど、山道を進んでいるようだ。これからどうなるのか怖くてみんなも私も泣いた。
神様、どうか私たちを助けて下さい!
私の願いが通じたのか、何頭もの馬の蹄の音が近づいてくるのが聞こえた。
「そこの馬車! 止まれ!!」
「ひぃいい! 騎士団の奴らだっ、逃げるぞ!!」
それからすぐに馬車が止まってバタバタと男たちが逃げていく足音が聞こえた。
私たちが息を潜めているといきなり馬車の荷台の幕が開けられて綺麗な顔の男の子が覗いてきた。
「君たちは、あの孤児院の子達か?」
「そうです……。」
近くにいた私が返事をする。
「間に合ってよかった。もう大丈夫だぞ。」
ニカッと笑った顔がまるで絵本に出てきた王子様のようだと思った。
思ったんだけどさ……。
あの時の私に言ってやりたい。
そいつだけは好きになっては駄目だ!! と。
まあ、あの後の私のことを話すとすっかり王子様に心臓を撃ち抜かれて、王子をお守りする騎士になるんだー!!とか言って騎士団の偉い人に直談判までして見習いで席を置かせてもらった。それからがむしゃらに鍛練をつんで、容赦ないしごきにも耐えてなんとか最年少で騎士爵をいただけるほどの実力を得ることができた。
で、念願の第二王子殿下付きの護衛騎士に任命されたのだが。その時に私の事を先輩騎士達が可哀想な目で見ていることに気づかなかった。
「俺から一つ言えることは、“強く生きるんだぞ” な?」
「はあ?」
なんだかよくわからない先輩の言葉に首を傾げつつ、いよいよ第二王子との面会となった。
「……………。」
「はあ、今日も綺麗だ。その瞳は世界中にあるどの宝石よりも美しい。この透き通った白い肌、小悪魔のように俺を誘う唇。肖像画でさえも俺を虜にさせる罪づくりな人だ……。」
初日の朝、挨拶をする為に第二王子殿下の部屋に入ったのだが、かれこれ30分以上も王子はどこかの令嬢の描かれている大きな肖像画の前でブツブツと独り言を呟いている。
『気にするな、いつもの事だ。』
隣にいた騎士が私に聞こえる様に小声で呟く。
「では、今日も頑張ってくるからね。……愛しい君のために。」
やっとで肖像画との語らい(?)が終わって王子が私たちを見た。
「アーノルド殿下、本日より殿下の護衛を担当する者を連れてまいりました。」
「ああ、うん。よろしく。」
肖像画に向けていたあの情熱的な目が一気になくなり、無表情で頷いた。
少し、衝撃を受けたがそれでもあの時のお礼を言いたかった。
「あの! お礼を申し上げたくて頑張ってここまで来ました。殿下のお役に立てるよう全身全霊をかけ務めさせていただきます。」
「あの時…?」
「殿下、彼女は奴隷商人事件の孤児院にいた子です。」
「ああ、あれか。あの町はレーナ嬢が住んでいる邸があったからな、危険な芽は早く摘んでおかなければ何かあってからでは遅いのだ。」
「レーナ嬢?」
「ああ、君にも言っておこう。彼女は私の天使、いや女神と言ってもいい。将来、俺の妃になる人だ。君もそのつもりでいてくれ。」
この時、私の淡い恋心は見事に粉砕した。
そして、アーノルド殿下にお仕えするようになって殿下の変態…‥いや、奇異な行動を否応なく見せられるのだった。
まず驚いたのは、王家にとって重用されるはずの影を使ってレーナ嬢の情報を集めさせていることだ。
「まあ、楽でいいんっスけどねえ~。結構、報酬も貰えるんでこっちとしてはありがたいっス。」
影の一人がそう言っていたが本当にそれでいいのだろうか?
あとは、魔術師の連中を集めて怪しげな密談をしていたりしている(何故かその時だけは部屋の前で待機せよと命令される)
気になってそっと扉に耳を近づけたこともあった
『……して、そのままの彼女を…、することはできるか?』
『肖像画のように止まった状態なら…、ですが動くものとなると予算が……。』
『かまわぬ、俺の私財で賄え!』
『承知しました!!』
何かの道具を作る話のようだが私にはそれが何かは分からなかった。どうせロクな物じゃないと思う。
この頃には私の初恋メータはマイナスにまで振り切れていた。むしろ無かったことにしたい。
そうしてある時、私だけアーノルド殿下に呼び出された。
「お呼びでしょうか。」
「うむ、君に最重要任務をお願いしたい。」
「最重要ですか。」
いつになく真剣な表情のアーノルド殿下に私は少し緊張した。
「そうだ。君にはレーナ嬢の邸に護衛兼侍女として潜入してほしい。」
「は?」
「彼女は美しすぎるのだ、もし彼女が出かけた先でかどわかされるかもしれないと考えると私は心配でならない!」
「は、はあ……。」
「君以外に適任者はいないのだ。やってくれないだろうか? もちろん、この任務にあたって特別手当を出そう!!」
「…わかりました。この任務、お引き受けします。」
アーノルド殿下の想い人のレーナ嬢にも興味があったし、何より特別手当が割と高額だったので引き受けることにした。
まあ、毎日毎日、あの変態王子の行動を見るのも疲れてきたというのもある。
侍女として入り込んだオルコット家は皆、温厚な人たちばかりだった。レーナ様にもすぐに会う事ができた。確かにお綺麗で心根の優しい令嬢だったがごく普通の女の子だ。王子が言っていたような崇拝レベルの特別な何かがあるようには見えなかった。
歳が近いこともあってレーナ様と私はすぐに打ち解けて、専属の侍女にしていただいた。
驚いたことにレーナ様には既に別の婚約者がいた。何でもアーノルド殿下が婚約しようとした時にはすでにいたようで殿下はずっと諦めきれずにいるらしい。なにやら陛下とお約束をされたらしいがどんな内容かは私にはわからない。
そして、レーナ様の婚約者であるイーサンは最低野郎だった。月一のお茶会を簡単にすっぽかし、来たと思ったら約束の時間よりだいぶ過ぎている。会ったら会ったで『可愛げがない』だの『お高くとまるな』だの暴言を吐いて帰っていく。レーナ様は『昔からああいう人だから』と言っていたが私にはあんな奴と結婚しないといけないレーナ様が可哀想になってしまった。
アレよりまだアーノルド殿下の方がマシに思える。
レーナ様とイーサンが不仲そうだと報告書を出すと、アーノルド殿下は小躍りしていたらしい。
それからしばらくして、レーナ様とアーノルド殿下が学園に入学する1か月前に私は急に殿下に呼び出された。
「よく来てくれた。実は危惧していることがあるのだ、そこでレーナ嬢の近くにいるお前の意見を聞かせてほしい。」
「なんでしょう?」
「来月で俺とレーナ嬢は学園に入るのだが……、彼女の美しさに他の男共が虜になってしまうのではないかと心配なのだ。もしその誰かとレーナ嬢が恋仲になってしまったら、俺は我を失ってそいつを切り殺しかねないっ。」
「そうなる前に、殿下からレーナ様にアピールされてみては?」
どうでもいい事だろうなとは思っていたが本当にどうでもいい事だった。
「それはわかっている!! 俺も学園に入ったらそのつもりだ、ただ彼女は婚約者のいる身。節度を保って行動しなければレーナ嬢に嫌われてしまうかもしれないのだぞ。」
「それでしたら他の皆様も殿下と同じ考えでは?」
「世の中には常識が通じぬ相手もいるのだ! よく言うだろう、男は皆、オオカミなのだ!!」
たしかに私の目の前に現在進行形でいますね…。
「その件につきまして、お耳に入れたいことがございます。」
「なんだ?」
「レーナ様はあまり目立つのは好きじゃないようなのです。実はお嬢様から入学するにあたってあまり目立たぬようにするにはどうしたらいいかと問われました。服装や髪形を変えてはどうかとお話しましたが……。」
「でかした!! では、俺が言うようにしてもらえないか。」
「レーナ様がそれでいいというならやりますが……。」
「では、まずあの美しい瞳を隠そう、あの瞳に見つめられたら万人が惚れるに違いないからな、眼鏡をかけさせろ。それから、あの髪! あのキラキラの光る黄金の髪に触れたいと思う不埒な奴がいるかもしれないから目立たないように結ってほしい。それから服装は……。」
その後なんやかんや注文されたが半分は聞き流した。
邸に戻りさっそくレーナ様に眼鏡をかけさせて髪を三つ編みにし、やや落ち着いた色の服を着せた。どこからどう見ても真面目な優等生に見えるがお嬢様はこの格好が気に入ったらしくこの格好で学園の入学式へ行くことになった。
その後、入学式が終わって再び私はアーノルド殿下に呼び出された。
「あれでは、レーナ嬢の美しさが全く隠しきれてはいないではないか!!」
もう、この仕事辞めちゃおうかな……。
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