消えていく君のカケラと、進まない僕の時間

碧月あめり

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ゼロカウント

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 3、2、カンッ――。

 保健室のベッドで横たわっていたわたしは、カチンコの合図でゆっくりと目を開けた。

『陽咲、よかった――』

 耳元で、蒼月の少し掠れた声が聞こえる。声のほうに顔を向けると、予想よりも至近距離で蒼月と目が合って、心臓がドクンと跳ねた。

『あ、え……、や、矢野くん?』

 第一声で言葉に詰まってしまうのを、なんとか誤魔化す。大晴の「カット」がかからなければいいけど……。

 そう思ってヒヤヒヤしながら、わたしはなんとか映画のヒロインとしての青山陽咲を演じ続ける。

『わたし、どうして……。ここは……?』
『覚えてない? 君は事故に遭って、丸一日眠ってたんだ。よかった、目が覚めて……』
『事故……? わたし、よく覚えてない……』
『まだ無理しないで。陽咲が無事で、ほんとうによかった……』 

 起き上がって額を押さえる演技をすると、演技とは思えないくらいの切なさをたっぷりと含んだ声で蒼月が囁いて、そのままわたしの肩を遠慮がちに抱く。

 無口で無表情で、最近ではクールな印象の蒼月。そんな彼が演技をできるのが意外すぎた。

 主役のふたりはセリフだってそこそこあるのに、蒼月はほぼ完璧にそれを覚えてきている。そういえば、蒼月は昔から記憶力がいいほうだった。

 小学校のときは漢字を覚えるのが早かったし、詩の暗唱のテストで花まるをもらっていた。

 でも、セリフに感情をのせるのまでうまいとは知らなかった。

 家でかなり練習してきたのだろうか。蒼月のセリフの言い方があまりに自然すぎて、わたし自身に言われているような気がしてドキドキする。

 わたしのほうは、完璧に暗記してきたつもりが結構うろ覚えで……。さっきから、あやめが出してくれているカンペをチラチラ確認しながらカメラの前で演技していた。

 
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