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ゼロカウント
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「今日の撮影予定は、陽咲が幼馴染の藤澤さんと話すシーンと、陽咲と蒼月が駅前で待ち合わせするところ。それから、陽咲と蒼月が公園でデートするシーンね」
台本を見ながら、大晴がわたし、涼晴、あやめに今日の撮影スケジュールを説明する。
ジャージ姿の大晴の声は、暑い日差しの中で午後の部活を終えてきたばかりだと言うのに溌剌としていて、少しの疲労も感じさせない。
対して、それぞれに午後の部活のあとに教室に集まってきた大晴以外のメンバーは、暑さで体力をかなり消耗していて、顔のそばでハンディファンで稼働させたり、気怠げに椅子に腰かけたり、水を飲んだりしながら話を聞いていた。
「陽咲と藤澤さんのシーンは廊下で撮影するね。台本通りで撮るけど、もしかしたら編集でカットするセリフもあるかも。せっかく覚えてきてもらってると思うけど、そのときはごめん」
大晴がわたしとあやめのほうを見て、ほんの少し眉を下げる。ふたりでハンディファンを回していたわたしとあやめは、お互いに顔を見合わせて、こっそり目配せをした。
大丈夫だ。わたしもあやめも、セリフはうろ覚え。
毎日部活で忙しいし、台本は読んできたけど、本番はカンペに頼る気満々で来た。
「で、廊下の撮影が終わったら駅前に移動。蒼月と陽咲のシーンを撮る予定。後半のシーンは藤澤さんの出番はないから帰ってもらってもいいけど、もし時間があれば、カンペ持つのとか手伝ってもらったら嬉しい」
「わかった。駅での撮影までは残るね」
あやめの言葉に、大晴がにこっと笑う。
「なあ、たいせー。おれは? 今回も出番なしだよね。おれ、集まる必要あった?」
気怠そうに話を聞いていた涼晴が、小さく手を挙げる。
「ああ、涼晴は出番に関わらず毎回強制参加。カンペ持ったりとか、別角度で撮影してもらったりとか。小物の配置移動とか。そういうの手伝ってほしいんだよね」
「えー、それ、雑用じゃん」
大晴の言葉に、涼晴が不満顔で椅子の背もたれにそっくり返る。
ヒロインの恋人の弟っていう役を与えられた涼晴の出番は、物語の終盤に少しだけしかない。
暑い中部活に出て疲れてるだろうに、出番もない映画撮影に強制参加なんて、ちょっと気の毒だ。
だけど、出番に関わらずといえば……。
「ところで、今日、蒼月は?」
みんな、部活後に招集をかけられたというのに、蒼月だけ姿が見えない。ちょっと遅れてるのかな。
気にして廊下を振り返ると、
「蒼月は駅での撮影から参加するよ」
大晴が教えてくれた。
「ええ~。いいなあ、蒼月くん」
兄から雑用係を押し付けられた涼晴が、眉根を寄せて口を尖らせる。
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