その距離は、恋に遠くて

碧月あめり

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Seven

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「あれ、岩瀬?」

 わたしが先に見つけるつもりだったのに。駐輪場の隅で蹲るわたしに気付いてくれたのは、那央くんだった。

「おまえ、こんなところで何してんの?」

 薄闇の向こうから現れた那央くんが、驚いたようにわたしのそばに駆け寄ってくる。この時間帯にはやむ予定だった雨は、まだぽつぽつと降っていて、那央くんの差した大きな黒い傘を濡らしていた。

 ほら、やっぱり。雨は完全にはやまなかった。
 ぼんやりと見上げると、那央くんが困ったように首の後ろを撫でる。

「もう最終下校の時間もすぎてるのに、こんなとこで何してんだ? おまえ、部活やってるんだっけ? だとしても、こんな時間まで残ってるとかおかしいだろ。ずっと雨降ってたし、外真っ暗だぞ」

 膝をついてしゃがんだ那央くんが、駐輪場の地面に座り込むわたしに手を差し伸べる。

「もう大丈夫なのかと思ってたけど、また何かあったのか?」

 首を傾げた那央くんの黒髪が揺れる。切長の綺麗な瞳が、わたしの顔を覗き込むようにジッと見てくるから、雨で冷えた身体が一気に火照った。

 那央くんは健吾くんとのことを心配してくれているのだろうけど。それは違う。

 少し前まで、わたしの頭の中は健吾くんのことでいっぱいだったのに。今、わたしの頭を支配しているのは、大半が那央くんのことなのだ。

「なぁ、岩瀬。本当にどうした?」

 ひさしぶりに近付いた那央くんとの距離に鼓動を高鳴らせていると、彼が訝しそうに首を傾げる。あまり近付かれると、顔が赤いことや心音が速いことがバレてしまいそうだ。


「雨、降ってたから」
「ん?」

 那央くんの傘を押しやりながらつぶやくと、不思議そうに瞬きをする。

「雨が降ったときはいつでも呼んでいいって言ったのに。全然呼んでくれないから、勝手に待ってた。動けなくなったら駆けつけるって約束したから」

 わたしがそう言うと、那央くんが自分の傘を少し見上げて「あぁ」とつぶやいた。

 雨の中、真っ暗になるまで外で待ってるなんて。そんなことをすれば、那央くんは苦笑いを浮かべてやんわりとわたしとの間に線を引くだろう。そう思っていたし、ここで線を引かれたら諦めようという気持ちもあった。だけど那央くんの反応は、わたしの予想以上に薄い。

 やりすぎて、引かれた……? 考えてみたら、那央くんの車を特定してその側で待ってるなんて、軽くストーカーだ。

「ごめんなさい、わたし……」

 慌てて立ち上がろうとすると、那央くんがふわっと優しくわたしの手をつかまえる。

「ありがとう。気にかけてくれて。だいぶ小雨になってきたからそろそろ帰れると思ったんだけど、いざ外に出てきてみると、大丈夫かなって少し不安で。歩いて帰ろうかな、って迷ってた」

 少し目を細めた那央くんの表情が、笑っているみたいにも泣きそうにも見えて、胸が詰まる。

「ずっと前のお礼のコーヒーの代わりに、今日だけ助けてくれる?」

 那央くんがそう言ってくれたのは、きっとわたしのことが特別だからでも、本当に必要だったからでもない。那央くんは優しいから、雨の中、バカみたいに待っていたわたしに同情してくれただけ。

 それでも、那央くんがわたしとの間に境界線を引かないでくれたことが嬉しくて。彼の言葉に、小さく何度も頷いた。
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