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6.わたしだけの幻
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しおりを挟む「心桜が来ないなら、こっちから行くからな」
そう言うと、大和くんが柵に足をかけてあっさりと乗り越えてくる。そのまま大股歩きで桜の木に近付いてきた大和くんは、座っているわたしの手をグイッと引っ張った。
「ほら、立て。今から急げば、次の授業にギリギリ間に合う」
ほとんど力づくでわたしを立たせた大和くんが、そう言って腕を引っぱる。
痛い。イヤだ。わたし、行かない! 桜介くん……!
大和くんに引きずられながら振り向くと、わたしの心の呼びかけに答えるように桜介くんが「心桜ちゃん……」と呼んでくれた。
桜介くんに助けを求めるように手を伸ばすと、彼もわたしのほうに手を差し伸べてくれる。
でも……。わたしと桜介くんとの距離はどんどん離れていってしまう。
わたしの手を引っ張る大和くんは、桜介くんのことをチラリとも見なかった。
必死に抵抗するわたしと桜介くんのことをわざと無視してるみたいだ。
柵の前まで来ると、大和くんがわたしを先に外に出す。つづいてすぐに柵を乗り越えると、わたしを引っ張ってずんずん歩いていく。
桜の木から少し離れたところで、振り向いた大和くんが「はあーっ」とため息を吐いた。
「ほんとにさあ、毎日、あんなところでひとりで何やってんの?」
ひとり……? 大和くんのほうこそ、何言ってるの……?
大和くんに言葉に、わたしはおもわず眉をひそめる。
最初は、大和くんがわたしへのいじわるでそう言ったのかと思った。
だけど、いぶかしげに首をかしげる大和くんの目は、ウソやいじわるを言っているようには見えない。それに気付いたとたん、心臓がドクン、ドクンと激しく脈を打ち始め、顔から血の気が引いていった。
「どうした、心桜? 顔色悪い……」
心配そうに尋ねてくる大和くんに小さく首を振ると、わたしはスカートのポケットからスマホを出した。それから、メモアプリを開くと、少し震える指で文字を打つ。
《わたしはひとりじゃない》
メモに打った文章を見せると、大和くんが「は?」と眉根を寄せた。
《桜介くんがそばにいたでしょう?》
「誰だよ、桜介って。心桜、さっきから何の話して――」
わたしが新しく打ちなおした文を見た大和くんが、眉間のシワを深くする。
けれどすぐに、何かを思いついたかのようにハッと言葉を飲み込んだ。
「なあ、心桜。もしかして……、桜の木の下に幽霊でも見えてんの……?」
大和くんの言葉で、胸にざわざわっとさざ波が立つ。
幽霊って……。みんながウワサをしていた桜の木の下の……?
そんな、まさか。桜介くんが幽霊のはずない。
ばっと、勢いよく桜の木を振り返る。その瞬間、わたしの心臓が凍り付いた。
わたしが振り向いた視線の先。校庭の古い桜の木の下に、桜介くんがいないのだ。
ウソ……。どうして……? さっきまで、たしかにそこにいたのに。
不安になったわたしは、大和くんにつかまれていた手を思いきり振り払うと桜の木に向かって駆けだした。
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