季節はずれの桜の下で

碧月あめり

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8.めぐり合わせと伝えたい想い

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 大和くんとハルちゃんが帰ったあと、わたしはふたりから渡されたものを机の上に広げた。

 大和くんにもらった白い封筒とピンクのお守り。

 ハルちゃんが持ってきてくれた、今日休んだ分の授業プリントや配布物。そのなかには、原稿用紙が二枚入っていた。五十周年の文集に載せる作文を書くためのものだ。

『想いを伝える』、か。

 大和くんは、わたしに伝える想いを作文に書いたって言っていた。

 わざわざ作文に書かなくても、大和くんは、いつも思ったことを遠慮なくわたしに言ってきていたと思うけど……。この作文に、どんなことを書いたんだろう。

 何が書かれているのか、ちょっと怖いなあ。

 そう思いつつ、白い封筒に手を伸ばす。

 封を開くと、四角く折りたたんだ原稿用紙が入っていて。わたしは、ドキドキしながらそれを開いた。

 パッと目についたのは、原稿用紙のマス目いっぱいに書かれた大和くんの大きな文字。

『想いを伝える』 一年一組 宮地 大和

 タイトルと名前が最初に書いてあって、その横の枠外に『こころへ』とわたしの名前が殴り書きしてある。


『僕には、幼稚園の頃からの幼なじみがいます。その子は、昔から人前で話すことが苦手です。』

 作文は、そんな文章で始まっていた。

「僕」なんて、いつも上から目線な話し方をする大和くんらしくない。

『人前でうまく話せない幼なじみが、僕にはいつも困っているように見えていました。だから、顔を合わせば話しかけていたし、ひとりでいたら強引に仲間に入れたりしていました。

 だけど、僕は最近、自分が何気なく言った言葉が幼なじみを傷付けていたことを知りました。それから、幼なじみが人前でうまく話せなくなった原因が僕にあったことも……。

 幼稚園の頃からいっしょだったのに、僕は幼なじみが自分を怖がっていたことに少しも気付いていませんでした。むしろ、自分は幼なじみの役に立っていると思ってて……。心桜の本音を知って、自分がどれだけ独りよがりだったかを思い知らされて恥ずかしくなった……』

 ずっと、「幼なじみ」と書いていた作文に、途中からわたしの名前が出てくる。

 そのあたりからもう、大和くんの作文スタイルは崩れ始めて、わたしへの手紙みたいになっていた。

『小学校の参観日のとき、おれが余計なこと言わなかったら……。すぐに謝ってたら、心桜はもっとふつうに話せるようになってたのかな。
 あいつみたいに、おれのことも友達って思ってもらえたのかな。

 小学校のときの言葉に悪気はなかった。
 心桜の声が聞けたことにびっくりしたし、ちょっとうれしくて、思ったことが声に出た。からかったつもりも、バカにしたつもりもなかった。

 でも……、おれの言葉が心桜を傷つけたならほんとうにごめん。今さら遅いかもしれないけど、それでもごめんなさい。

 あのときの言葉は取り消せないし、心桜はおれのことなんて嫌いかもしれない。
 だけど、おれは話すのが苦手な心桜のことずっと気にかけて見てたよ。そのことだけは知っててほしい。』

 二枚の原稿用紙のマス目、ギリギリいっぱいまで使って書かれた大和くんの手紙。

 それを読みながら、胸がぎゅーっと痛くなった。

 今までずっと、大和くんは上から目線で物言いがきつくて、わたしの気持ちなんて何もわかってないって思ってた。

 でも……。わたしだって、大和くんの気持ちを何もわかっていなかった。

 どうしてわたしにばかりからんでくるのか、知ろうともしなかった。

 手紙を読んだあとで考えてみると、わたしは大和くんにかなりひどい言葉をぶつけた。

 大和くんだって、きっとすごく傷付いたと思う。

 それでも、手紙にしてわたしに想いを伝えてくれたんだ……。

 わたしのこと、友達だって思ってくれてたから――。

 大和くんからの手紙をしばらく見つめたあと、わたしはハルちゃんが届けてくれた原稿用紙を目の前に置いた。

 わたしの伝える想いはなんだろう。

 誰に、何を……。書こう……。

 頭に浮かぶのは桜介くんと……、それから大和くんの顔だった。

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