One-sided

碧月あめり

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彼女になりたいわたしの恋の話

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***

 また、だ……。

 駅から学校まで続くなだらかな坂道。友達と呼ぶには近く、恋人と呼ぶには遠い距離感覚を保って隣を歩く彼を横目に見る。

 待ち合わせ場所の駅の改札で一度目が合ったきり、彼は一度もわたしのほうを見ない。駅を出てからひとりでしゃべり続けているわたしの話は、今日も彼の耳を素通りしていく。

 わたしにとっては、ふたりきりで歩ける貴重な朝の登校時間なのに。顔を合わせた瞬間からずっと、わたしの彼氏はぼんやりと別のところばかり見ている。

 はぁーっとこれみよがしに深いため息を吐くと、一学年上のわたしの彼氏、梁井やない碧斗あいと先輩が「あー、うん」と頷いた。わたしが溢したのはため息なのに。相槌を返してくるタイミングが最悪だ。

「先輩、ちゃんとわたしの話聞いてました?」
「あー、何?」

 正面から顔を覗き込んだら、ようやく梁井先輩と目が合った。

「だから、夏休み。どうするのかなーって」
「あー……、いつ遊べるかって話だったっけ」
「そうです」

 来週から夏休みが始まる。わたしにとっては、人生で初めての《彼氏のいる夏休み》だ。

 梁井先輩もわたしもお互いに部活があるけれど、休みが合う日に遊びたい。来週から見たかった映画も上映されるし、夏の水族館デートも涼し気でよさそう。この辺りで有名な河川敷の花火大会に浴衣で行くのも憧れるし、まったりとお家デートもいいかもしれない。

 梁井先輩の隣で、わたしはずっとそんな話をしていた。わたしが憧れているキラキラした青春の話。梁井先輩にとっては一ミリの興味もない、わたしの脳内にだけある妄想の話。

「あとで部活のスケジュール確認しとく」

 強制的にわたしと目線を合わせることになってしまった梁井先輩が、わずかに眉根を寄せる。綺麗な顔が面倒くさそうに歪むさまに胸がチクリと痛んだけれど、無視されなかっただけマシだ。

「お願いします」

 ほっとして頬を緩めたとき、わたしたちのそばを同じ高校の男子生徒がびゅっと駆け抜けていった。着崩した制服のシャツが、風を孕んで膨らんでいる。


「みなみ!」

 彼が息を切らしながら叫ぶと、わたしたちの少し前を歩いていた女子生徒がスマホを片手に笑顔で振り返った。振り向きざまに、毛先を緩く巻いた彼女の栗色のロングヘアが軽やかに揺れる。

「おはよう、昌也まさや

 立ち止まった彼女が、坂道を駆け上がってくる彼が追いついくのを待っている。 

「はあー、坂道きっつ」
「足、鍛えられていいじゃん」

 両手を膝について息を整えている彼の肩を、彼女が笑いながらパシパシと強めに叩く。

「いてえよ、力強いな」

 肩に置かれた彼女の手を笑いながら振り払う彼の声は、たぶん少しも本気じゃなくて。朝っぱらからケラケラ笑い合うふたりは、少しうざったく思えるくらいに楽しそうだ。

 ふたりは、登校中に毎朝見かける二年生のカップル。登下校はいつも一緒だし、校内でもふたりでいる姿をよく見かける。彼氏は門倉かどくら 昌也まさや先輩と言って、バスケ部所属。彼女の喜島きじま みなみ先輩はバスケ部のマネージャーだ。そして彼女のみなみ先輩は、わたしの彼氏・梁井先輩の幼なじみでもある。

「ていうか昌也、寝癖やば。ネクタイもすごい曲がってるよ」

 朝の通学路で、みなみ先輩が人目も憚らずにベタベタと昌也先輩に触れる。

「急いでたし」
「朝起こしてあげたじゃん」

 昌也先輩のネクタイを直しているみなみ先輩は、呆れ声でそう言いながらも彼のことを優しい目で見つめている。ふたりの微甘な会話はいつもどおりで、仲の良さそうなふたりの背中を無言で見つめる梁井先輩の目が切なげなこともいつもどおり。いつもと変わらない朝に、少しだけ泣きたくなる。

 わたしの好きなひとは綺麗な横顔で、今日も変わらず別の人を憂えた眼差しで見つめ続けている。


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