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彼女になれないわたしの恋のおわり
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しおりを挟む一学期の終業式の朝。駅から学校まで続くなだらかな坂道を、いつものように梁井先輩と並んで歩く。
明日から夏休みだ。嬉しいけれど、しばらくは梁井先輩とあまり会えなくなる。それが淋しくて、わたしは梁井先輩の隣で必要以上に饒舌になった。
駅の改札の前で顔を合わせてから、あれこれといろんな話をしてみるけれど、梁井先輩は相変わらずわたしに見向きもしない。
「先輩、夏休みの予定なんですけど……」
校門が数メートル先に見えてきたところで、思いきって夏休みの話を切り出してみたけれど……。
ぼんやりと遠くを見ながら歩いている梁井先輩の耳には、わたしの声なんて届いていない。
梁井先輩の視線の先を辿ると、そこにいるのはみなみ先輩。梁井先輩の世界は、今日もみなみ先輩を中心に回っている。みなみ先輩は梁井先輩のことなんて少しも見ていないのに。
胸に澱む暗い気持ちを、ため息とともに吐き出す。
口角をあげて明るく見えるように笑顔を作ると、わたしはぴょんと跳ねるようにして梁井先輩の顔を横から覗き込んだ。
「夏休み、花火大会に行きませんか?」
横から身を乗り出してきたわたしに、梁井先輩が驚いたように一瞬身を引く。
「河川敷の?」
「そうです」
わたし達の住む地域で一番規模の大きいのが、毎年七月の最終土曜日に行われる河川敷の花火大会だ。
浴衣を着て彼氏と花火大会に行くのなんて、憧れ中の憧れだし。もしかしたら普段見慣れない格好で会えば、梁井先輩も少しくらいはわたしのことを意識してくれるかもしれない。それに、好きな人と見に行く花火大会はキラキラした青春の思い出になる。
「花火大会の日、部活入ってますか? わたしは午前練だから、夕方は大丈夫です。先輩は?」
いい返事をもらえることを期待しながら訊ねると、梁井先輩が制服のポケットからスマホを取り出した。
ラインを開いて見ているのは、陸上部の練習カレンダーらしい。しばらくジッとそれを見ていた梁井先輩が、スマホに視線を落としたまま「おれは午後練」とつぶやく。
「あ、じゃあ……」
ダメかな……、とションボリ肩を落としかけたとき、梁井先輩が制服のズボンのポケットにスマホを入れながら顔をあげた。
「でも、15時には練習終わるから行ける。花火大会って毎年19時半からだっけ」
「はい、そうです!」
大きく頷くと、梁井先輩が少し面倒くさそうに眉根を寄せる。それでも、「行ける」という返事をもらえたことがわたしにはとても嬉しかった。
「花火大会の日は電車も混むと思うので、できたら早めに待ち合わせしましょ。18時くらいには会えます?」
「大丈夫」
「わかりました。じゃあ、前日にまたラインしますね」
うきうきしながらそう言うと、「待ち合わせ場所だけど」と、珍しく梁井先輩のほうから会話を続けてきた。
「花火メインなら、主会場じゃなくて橋を渡った反対岸で見たほうが空いてると思う」
「そうなんですか」
普段はわたしとのデートに受身で臨む梁井先輩が、自分から何か提案してくるのは珍しい。
「うん。食べ物の屋台はないけどピザとか飲み物だけなら近くの店から手売りで来てくれるし、コンビニもある。反対岸の最寄り駅は普通電車しか停まらない駅だから少し不便だけど、行き帰りもあんまり混まないと思う」
「へえ」
やけに詳しいけど、梁井先輩は主会場の反対岸で花火を見たことがあるのだろうか。それとも、夏休みのことを考えて少しは下調べしてくれていたのだろうか。
後者だったらいいな、と思いながら、梁井先輩の言葉に期待する。
「じゃあ、主会場の反対岸の最寄駅で18時に待ち合わせますか?」
「それでいいよ」
にこっと笑いかけると、梁井先輩が少し目を細める。
たぶん先輩は朝の太陽の光が眩しかっただけだ。
わかっているけれど、その仕草がわたしに笑いかけて返してくれたように見えなくもなくて。夏休みと花火大会への期待で、胸がときめいた。
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