狂い咲く花、散る木犀

伊藤納豆

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6章 こちら側の世界

85話 *ごっこ遊び

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「ゃ、やめてっ…!」

「客になんだその態度は。」


琳太郎は晴柊の尻を一度叩く。晴柊の表情がまるで怒っている様だ。怒っているのはこっちだというのに。仕置きがまだまだ足りていない。


「やめて、ください…!」

「ノリが悪いキャストだなぁ。ちょっとのお触りくらいいいだろ。そんなんじゃやってけねぇぞ。ほら、媚びるんだよ。客の脚に乗って、誘惑の一つでもしてみろ。」


晴柊は琳太郎の悪ノリが始まったと思ったが、怒っている琳太郎にさらに歯向かうほどの勇気は持ち合わせていない。最早言うことを聞くしかないのだ。元はと言えば知らなかったと言えど、自分で蒔いた種でもある。


晴柊は言われた通り、琳太郎の脚に自分の膝を軽く乗せ、自らは立ったまま密着する姿勢を取った。琳太郎の肩に手を乗せ見下ろすと、琳太郎は再び晴柊の尻を揉みしだく。


「”一応”お触りは禁止だ。注意しろ。」


琳太郎はあくまで研修相手、客役に徹底しているらしい。晴柊は尻をまさぐる琳太郎の手を掴んだ。


「や、やめてください……お触りは、駄目…」

「ふーん。つまんねえなぁ。おら、じゃぁこれやるよ、ちゃんとサービスしろよ。」


琳太郎は財布を取り出し、一万円札を出すと晴柊の胸元に挟んだ。チップである。晴柊はしどろもどろである。悪ノリにしては過ぎる。琳太郎は本気で怒っているのだ。琳太郎の手がぐいっと晴柊の腰を引いたことで、晴柊がよろける。そして琳太郎の上に座るような形になった。晴柊は離れようとするが、琳太郎がさらにもう一枚、晴柊の胸元に札を入れた。


「ぅ、っ…」

「隙だらけだな。そんで、押しにも弱い。こんなんじゃ簡単に手籠めにされるだろうなぁ。」


もはや役なのか、琳太郎なのか、わからなくなる。琳太郎の手が晴柊の乳首を布越しに触れた。薄い生地のせいで晴柊の身体はびくっと反応する。


「ん、っ……い、やっ…」

「客に悪戯されて喘いでんじゃねえよ。」


無理を言うな、相手は役と言えど琳太郎なのだ、と言いたくなる晴柊であったがなんとか収める。


「なぁ、あんた可愛いなぁ。もっとサービスしてくれよ、払うもんは払うからさ。」

「い、いやだ…です…!」


琳太郎が何枚かの札束を次は晴柊の太もものガーターベルトに挟んだ。この悪趣味な遊びを止めにしたい。晴柊は半泣きになりながら琳太郎の膝から降りようとする。すると、そんな晴柊の動きを手助けするように、琳太郎が晴柊を膝から降ろし、足の間に置いた。


そして晴柊の目の前に、自分の立ち上がったモノを取り出すと、晴柊の髪の気を掴みぐいっと目の前に持って行った。晴柊の視界いっぱいに、ギンギンになった琳太郎のモノが飛び込む。オスのエロい匂いが晴柊を煽った。


「舐めろ。その挟んでやったチップ分働いてもらわないと。」


晴柊はおそるおそる舌を出し琳太郎のものをゆっくり下から上へ舐め上げ始めた。晴柊の頭には最早相手は琳太郎ということしかなく、お仕置きにはなっていないようである。


琳太郎は琳太郎で、嫌らしい衣装をまとった晴柊に興奮してはいたが、まだ苛立ちは消えてはいなかった。こんな服をして、自分以外の野郎にこうしている晴柊を想像するだけで、ふつふつと怒りが湧いてくるのだった。晴柊がゆっくり口の中に琳太郎のモノを含んだ。右頬が琳太郎のモノで膨らみ、ハムスターのように頬をパンパンにさせている。


「ふぅ、んっ……んん…」

「なぁ晴柊。お前、俺以外にもこういうことできるのか?金の為ならできちまうってか?そんなに欲しいものがあるなら俺が買ってやる。金ならいくらでもやる。頼むから、俺をこれ以上不安にさせるな。」


琳太郎はそう言いながら晴柊の腰に諭吉を挟む。晴柊は口から琳太郎のモノを出して違うと答えようとするが、琳太郎の手が晴柊の頭を離すことを防ぎ、その声が届くことは無かった。寧ろさらに喉奥がゴリゴリと当たるところまで琳太郎のモノが差し込まれる。喉を犯されている感覚に晴柊の目の前が霞んだ。


琳太郎の悪い癖である。晴柊の言葉を聞くのが怖いとでもいうように、自分で解釈して突っ走るのである。


晴柊は喉の奥を突かれすぎて、晴柊の顔は真っ赤であった。晴柊の口からズルッとモノを抜く。


晴柊は肩でゼェゼェと息をしていた。


「ほら、褒美だよ。」


琳太郎はまた、晴柊の太腿に札を挟める。晴柊の胸元、両太腿、腰、至る所に一万円札が挟められていた。晴柊は相手が琳太郎とわかっていながらも、本当に身体で稼いでいるような気分になっていた。


「もう、嫌だ…りんたろう…」


晴柊は今にでも泣き出しそうになっていた。いつもと違う琳太郎が嫌だった。恋人に、男娼のように扱われるのが嫌だったのだ。


琳太郎はそんな晴柊を持ち上げ、ベッドに四つん這いにさせる。まだだ。働きたいなんて言わせない。働きたいなんてもう言わないと言わせるまで、琳太郎は満足できなかった。


「琳太郎ってばあ…!もう、琳太郎のお店で働くなんて言わないからあっ…普通の、ところ、お店…それならっ……」


「当たり前だ。俺の店で働かせる気なんて毛頭ない。普通の店?そこもダメに決まってるだろう。いいか、もう働くなんて言うな。何処だろうと何が理由であっても許さない。」


どうしてわかってくれないのだ。琳太郎の気持ちもわかる。でも、自分が琳太郎の気持ちを理解するように、琳太郎だって自分の気持ちを汲んで欲しい。そう思うと、晴柊は悔しくて仕方ないのだった。



「なんだよっ…アンタばっかり我儘言って……琳太郎は俺の気持ち分かろうともしないで、逃げてばっかり!!臆病者!!」



晴柊は思わず振り返り、琳太郎に溜め込んでいた言葉を投げかけてしまった。口から出た時はもう遅い。ハッとした時には、琳太郎の顔を見る間も与えられないまま、首根っこを掴まれそのまま説き伏せられるようにしてベットに頭を抑えられる。


「なんだ、俺に口答えか?お前は本当にこういうところも変わらないな。そんなに気に食わないならいい。わからせるまでやるだけだ。」



晴柊は、琳太郎と出会ったばかりの時を思い出していた。冷たい言葉と、晴柊の感情を無視した態度。思い出したくもないことが次々とフラッシュバックしていく。


琳太郎は晴柊の頭を押さえつけたまま尻を上げさせる。何処から取り出したのか、折りたたみナイフのような物で晴柊の尻のところに切り込みを入れた。


晴柊は体が強張るのがわかった。怖い。何でこんな思いをしなきゃいけないのだ。自分の言い分をまるで飲み込まないまま有無を言わさない琳太郎。琳太郎は切れ目を入れたところにゆっくりと自分のモノを当てた。


琳太郎は晴柊のこととなるとまるで余裕がない。それが彼を傷つけるとわかっていても、止められないのだ。離れようとすることも、拒絶されることも、琳太郎にとっては耐えられないのだ。


琳太郎の中で沸々と黒い感情が湧いてくる。琳太郎は当てがったものを一気に入れ込み晴柊を貫いた。琳太郎はそれと同時に押さえつけた髪の毛を引っ張り顔を上げさせるとそのまま喉元を掴んだ。


晴柊はうまく息が出来ず苦しそうにもがく。しかし、もう片方の手が晴柊の腕を腰辺りで一纏めに抑えつけた。


琳太郎が容赦なくピストンを始めた。喉元を抑えられたせいでぐぐもった晴柊の喘ぎ声が漏れ出る。


「う゛っ、ぉ゛……お゛っ……あ゛……!!」

「息が出来なくて苦しいか?それだけじゃないよな。ナカがギュウって絡みついてくる。一回イッちまえよ。そしたら、3万やる。今から1分以内にイけ。」


琳太郎は晴柊のことを本当の娼婦のように扱った。晴柊は悔しくて悲しくてたまらない。琳太郎は3枚の札を、バックで突く晴柊の腰で一纏めに固定している手に握らせる。晴柊の手に伝わるその紙質も、体が揺さぶられるたびにカサカサと音を立てる紙の音も、晴柊の嫌悪感を煽った。


「ほら、あと20秒だ。頑張れよ。」

「あぁあ゛っ!!……ん゛、い゛っ、お゛ぉっ……!!」


琳太郎がバチュんッと一際奥に突いた。そしてぐりぐりと擦るように腰を動かす。


息が出来なくなると、頭が真っ白になる。血の巡りが止まり、堰き止められた感覚になる。


「10、9、8…っ……はは、派手にイッたなあ。」


晴柊は体をガタガタと震わせながらベッドシーツに自分のものを吐き出した。晴柊は気道を解放され大きく息を吸い込むと、固定されていた手も離され体を保つことができず倒れ込むようにしてベッドに寝転がった。手には力無く握られた3万円。自分が惨めだ。


そう思うと、静かに涙が流れてきた。もはや先ほどみたいに琳太郎に反抗する余裕すらない。そうすればどうなるかも、目に見えてわかっているのだ。


「も、う……いや……ひどい、っ……。」


たかが外れたような琳太郎にとって、晴柊の涙は煽るだけだった。琳太郎の暴走は止まらない。今度は正常位の体勢で晴柊の脚を持ち上げた。嫌だと零す晴柊のもう片方の手に札をいくらか握らせる。


両手に、そして胸や腰、腿に何枚も札を入れている晴柊の姿はまさにいたいけな少年を甚振っている感じかヒシヒシと伝わり、琳太郎は思わず息を呑んだ。


「りんたろうなんて、嫌いだ……嫌い…」

「言うじゃねえか。おら、キャストごときが客の名前を呼び捨てにするな。……何だその目は。気に入らないなら、ちゃんと言え。「もう働きたいなんて馬鹿なことは言いません。ごめんなさい。」ってな。」


そんな言葉は屈辱でしかなかった。晴柊は琳太郎と対等にいたいのだ。しかしそれを許そうとしない琳太郎に、まるで前の関係に戻ったかのように思わせる。


目の前にいるこの人は、本当に自分の恋人なのか、何でこんな酷いことができるのだ、と思う晴柊。2人の気持ちがすれ違っていく。晴柊の静かに溢れる涙が止まらない。


愛を感じないセックスなど、晴柊にとっては苦痛でしかないのだ。


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