狂い咲く花、散る木犀

伊藤納豆

文字の大きさ
100 / 173
幕間

99話 メンタルコーチ(2)

しおりを挟む

「…はぁ?」

「うわぁ…」


今にでも殴り掛かりそうな琳太郎、その横でまるで面白いものをみるような天童。2人がリビングに入ると、そこには2人仲良くラグの上で眠っている晴柊と篠ケ谷の姿がいた。


人の気配に気が付いたのか、篠ケ谷がごそごそと体を動かし始めた。天童はまぁまぁと琳太郎を宥めている。まだこの面白い様子を見ていたい、といった様子だ。


「………ん~…」

「……げ……おはよーございます…」


つられて晴柊も起きるがまだ眠たそうにぐずっている。その横で篠ケ谷は目を覚ましたのか、視界に琳太郎と天童の姿を捉えるとバツの悪そうな顔をした。何より自分の上裸という格好も最悪である。


「おはよ~……あれ、りんたろう、早いね……おかえり…」


今の時刻は昼時。早朝に出かけた割には確かに早い帰還である。晴柊はまるで何事もないかのように目を擦りながら上半身を起こす。前髪がぴょこんと跳ねるようについた寝ぐせすら琳太郎の心をくすぐるが、今はそれよりも勝る篠ケ谷の存在であった。


「添い寝は浮気だ。」

「雑魚寝だよ雑魚寝。」


晴柊はしれーっとキッチンの方に行ってコーヒーを淹れようとしている。一人だけこの状況で暢気である。晴柊の肝の据わり方は異常だなと天童は思った。


篠ケ谷は、帰ってくるの早くねえかと天童に視線を送る。不満気だ。急遽予定が変更になったのだから仕方が無い。


「じゃぁ俺が一緒に寝てても文句ねえのか?」

「シノちゃん達とってこと?文句も何も、微笑ましいなあとしか思わないけど。」


自分と晴柊の側近たちに対する尺度の違いに琳太郎は気付きより一層不満を持つのだった。琳太郎は側近たちを部下として認め「男」と認識しているが、晴柊にとっては「家族」や「兄弟」なのである。


「俺がその辺の男と女と寝てたら?」

「は?それは浮気。嫌に決まってる。比べる相手が違いすぎるじゃん。」


晴柊はあからさまに嫌な顔をすると、琳太郎をあしらいながら朝食(昼食)の準備を始めた。これは晴柊を責めてもどうにもならないとわかったのか、琳太郎の怒りの矛先が篠ケ谷に向く。篠ケ谷は面倒ごとを避けたいとでも言うように天童が持ってきてくれた着替えを受け取りそそくさと退散しようとしていた。


「お前、減給な。」

「勘弁してくださいよ組長……」

「もーそうやっていじめるな!」

「なぁ~晴柊、今度俺ともお昼寝して♡」

「天童さんも元気無いときは良いよ~。」

「え、シノ、やっぱり昨日ヘコんでたんだぁ~!だから晴柊に慰めてもらってたんだぁ~!」

「ヘコんでなんかねーようるっせえなぁ!!」


どうやら晴柊はこの組のアニマルセラピー的役割を担っているらしい。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

仕方なく配信してただけなのに恋人にお仕置される話

カイン
BL
ドSなお仕置をされる配信者のお話

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

処理中です...