狂い咲く花、散る木犀

伊藤納豆

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7章

103話 本家

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「はぁ……はぁ…」

「……」


ベッドに横たわる2人。あれから何時間セックスをしただろうか。2人とも息絶え絶え、限界が来ていた。大切な祖母の墓参りの帰路から何故かおかしくなったな、と、晴柊は事の発端を思い返していたが、きっかけを考えたところでそれも無意味なのでやめることにした。


琳太郎も体力の限界のようで、珍しく事後にぐったりとしている。いつもはヘトヘトの晴柊を抱きかかえて直ぐに風呂場に行くほどの余裕はあるのだが。


「なんか、一生分ヤった気分…」

「馬鹿言え。俺はお前がじじいになっても抱き続けるぞ。こんなもんで一生なわけあるか。」

「はは…俺がおじさんになる頃、琳太郎はおじいさんだよ……」


琳太郎は癪に障ったのか、晴柊を小突いた。たかだか10歳ほど離れているくらいだ、と思うが、今の10歳と60歳70歳となったときの10歳ではあまりにも違いがある。


そもそも、自分の身では「無事」老衰できるかも不安だ。琳太郎は晴柊には絶対に言わない本音を心の中で呟いた。


「組長、そろそろ移動です。準備してください。」


寝室の扉越しに、日下部の声が響く。琳太郎は気怠そうに身体を起こすと、晴柊の頭を撫でた。


「お呼び出しだ。俺は仕事に行く。お前はゆっくり休め。今日は朝早くから遠出もしたから疲れただろ。」

「うん。いってらっしゃい、気を付けて。」


晴柊が琳太郎の手をにぎにぎしながら伝える。琳太郎はそっと晴柊の手に口づけをし、服を持って寝室を後にした。琳太郎は忙しい人である。琳太郎の仕事も、具体的にはわからない。夜中でも朝でも働いているし、お店の経営、金貸し、いろいろな業務があるのだろう。晴柊は詳しく知りたいとも思うし、知ったところで自分には何もできないということもわかっていた。


そう考えると一人こうしてゴロゴロしているのも居た堪れなくなるものである。しばらくして琳太郎が仕事に向かった後、晴柊も起き上がりシャワーを浴びに行こうと寝室を出た。リビングには遊馬がいた。


「晴柊。散歩、今日は俺が行こうか。」


時刻は夕刻17時。いつもの散歩時間より少し遅めだ。


「ううん、俺も行くよ。ささっとシャワーだけ浴びちゃう。」


晴柊は急いでシャワーを浴びに行く。


ボディーソープを泡立て、身体を洗いながら晴柊は考え事をしていた。時折思う「琳太郎自身のこと」である。


(俺は、琳太郎のこと何も知らないな。)


仕事だけじゃなくて、彼の家のことも、家族のことも、生まれ育った環境のことも。ずっとタイミングを逃している。琳太郎と出会ってあと数か月で1年が経つ。今となっては彼は恋人だ。この1年という年月は、恋人なのに彼のことを何も知らない、という違和感が晴柊の中でちょうど膨らみ始めるタイミングであった。



そんな違和感と葛藤して数日後。そんな晴柊にとってベストタイミングな話が降りかかってきた。


「本家…?」

「そう、まあ要は、俺の実家だ。」


琳太郎はリビングのソファで、晴柊とテレビを見ているときに何気なく話を持ち掛けた。琳太郎が身寄りのない少年を囲ってると思いきや、どうやら本気らしい、という噂が本家の先代、つまり琳太郎のお父様に行き渡ったらしい。


「先代がお前も連れて話をしに来い、と口うるさい。俺が特定のやつに入れ込むことが初めてなのを向こうは知っているし、どうせ、俺にとってもお前にとっても良くないこと言われるだろう。俺は別にお前を連れていくつもりは無いと言ったんだが――。」

「行くよ。俺、行きたい。」


晴柊の予想だにしない発言に琳太郎は言葉を飲んだ。


「…向こうは仲良しこよししようって話じゃないぞ。」


本当にわかっているのか、と、二つ返事で了承した晴柊にもう一度聞く。琳太郎も30歳である。琳太郎が組長になってまだ数年ではあるが、次の跡継ぎ問題が出てくるのだ。今までも明楼会と関わり深い家の孫娘やら令嬢やらとの見合いを持ちかけられてはいたが、琳太郎は晴柊に出会う前から蹴っていた。跡継ぎなど自分の血の繋がった子供にこだわる必要も無いと考えていたからだ。


しかし、実の父親である先代との間には、そこでの認識のズレがあるのだった。先代は、赤の他人にこの名立たる明楼会の後を継がせるなど以ての外だと考えているらしい。明楼会は代々、世襲を重要視した家系である。


「琳太郎は、俺を連れて行きたくないの?」

「まぁな。何を言われるか大体想像はついている。お前に対して腹立たしいこと言われるとわかってるのに、連れていくのはそりゃぁ気乗りはしない。あとあそこは男所帯でむさくるしい。お前を見世物にしたくない。」


後半は琳太郎の私欲である。


「でも、親父さんは俺も連れて来いって言ってるんだろ。じゃぁ、俺も付いていくよ。その方が無駄な反感をかわなくて済むだろ。俺は平気だよ。」



晴柊は琳太郎を真剣な眼差しで見つめて答えた。晴柊の肝が据わっているのは琳太郎が一番よくわかっている。本人がこう言ってくれているなら、と、琳太郎は晴柊を本家に連れていくことを決めた。


晴柊はこの件から、琳太郎のことをもっと知るきっかけになれたら、と考えていた。晴柊は緊張と少しの嬉しさを感じながら、足元をうろつくシルバの顔を両手ではさみ、わしゃわしゃと撫でた。
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