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29. 許された触れ合い
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ロイドは牢の中へ入って来ると、私の方へゆっくり近づいてくる。
そしてその場に膝を突き、座っている私と目線を合わせながら申し訳なさそうな表情を浮かべ口を開いた。
「アリシア様、お助けするのが遅くなり申し訳ありません……。まさかアリシア様が侍女と入れ替わっているとは思わなかったのです。アリシア様は本殿の客間に保護され、丁重にもてなされていると報告を受けており、それを信じていました。やっとお会いできると思って客間に行けば、影武者を務めている侍女から事情を打ち明けられ助けを求められました。聞いた時は血の気が引きましたよ」
「そんなことより、ロイドは大丈夫なの!? エドワード殿下の側近は拘束されたって聞いたのだけど」
「ええ、側近のほとんどは拘束されました。でも私は問題ありません」
「それなら良かったわ。こうしてここへ来られるということは、自由に動き回れるのでしょう? つまりロイドは反乱軍に優秀で必要な人材だって引き抜かれたってところかしら?」
寝返りや引き抜き、取引などはよくあることだ。
反乱が成った今、反乱軍がエドワード殿下の側近の中から今後の統治のために、叛逆の意志がなく優秀な者を味方にしようとすることは容易に想像ができる。
数々の実績があり、政務のほとんどを仕切っていたロイドはきっと有益な人材として反乱軍のトップに目をかけられたのではないかと思ったのだ。
「いえ、そうではありません」
「あら? 違うの? それならなぜ自由に動き回れているの?」
だが、ロイドは即それを否定した。
それならばなぜロイドは今ここでこうしているのだろうと不思議に思い重ねて問う。
すると思わぬ方向に話が展開された。
「私が反乱軍の一味であり、王位簒奪をした張本人だからです。つまり王家を廃した今、私が新しい国王になるということです」
「えっ……」
衝撃的な言葉に私は目を丸くして息を呑む。
ロイドが無事だったということに安堵すると同時に思ってもみなかった事態に頭の中は大混乱だ。
そんな私の様子を見越していたのか、ロイドはゆっくりとこれまでの経緯を話してくれる。
反乱にずっと誘われていたこと、エドワード殿下が臣下や民を顧みなかったこと、前国王陛下が築いてこられた治世を引継ぎたいこと、王位継承権第2位の自分であれば反乱ののち国内の混乱は最小限で済むこと、そしてその期限が私の婚姻までであったことなどだ。
「このように様々なことから反乱の旗頭になり与することにしたわけですが、一番の決め手はアリシア様、あなたの存在です」
「私……?」
「あのバラ祭りに行った日、アリシア様はおっしゃいました。私と素顔で三曲連続踊ってみたいと。普段無欲なあなたが願いを口にされたのを聞いて、私は思ったのです。なんとしてでも叶えて差し上げたいと」
「ロイド……」
「あの時は立場上、言葉にすることが許されず、苦肉の策として独り言を呟くしかありませんでしたが、ようやく言葉にして真正面から伝えることができます」
そこで一度言葉を切ったロイドは、改めてまっすぐに私を見つめる。
その瞳には熱がこもっていた。
「アリシア様、私はあなたを女性として心から愛しています」
その言葉に喜びが電流のように駆け巡った。
頬がみるみるうちに紅潮していくのを感じる。
男性から愛の言葉を贈られるのは、前世も含めて初めてのことで、どう答えて良いのか分からず言葉が出てこない。
自分でも驚くほど動揺し狼狽えていた。
そんな私を見てロイドは愛しそうな眼差しをして小さく笑う。
「そんなに驚かれますか? あの時、独り言で遠回しではありましたが、私の想いは伝えたつもりでしたが?」
「だ、だって、あれ以来まったく顔を見せてくれなかったじゃない。だからてっきりあの場だけのことだと思って……。私も気持ちに折り合いをつけて婚姻に向けて心の準備をしなければってこの1ヶ月半ずっと思っていたのだもの」
「私も本当はアリシア様にお会いしたかったですよ。ただ舞踏会で注目を集めてしまったので私たちの関係を邪推する貴族が現れることを懸念したのです。特に反乱の前だったので行動にはより慎重にならざるを得ませんでした」
「そうだったのね……」
「……1ヶ月半の間で、私と素顔で三曲連続踊ってみたいとおっしゃった気持ちは変わられてしまいましたか?」
「いいえ! いくら考えてもそれが叶うはずはないって現実を見て諦めてはいたけれど、気持ちは変わっていないわ」
「ということは、アリシア様も私を異性として好意を寄せてくださっていると思ってもよろしいのですか?」
「…………!」
改めて真正面から問いかけられ、体がかあっと燃えるような恥ずかしさを感じる。
照れにより逸らした視線は行き場がなくなり、辺りを彷徨った。
……自分の好意を人に伝えるってこんなに恥ずかしいことなのね。今まで縁がなさすぎてどうしていいかサッパリ分からないわ……!
これくらいのことで混乱して無言になる私はきっといちいち手間のかかる面倒な女に違いない。
マティルデ様だったら相手の男性が喜ぶような言葉をいとも簡単に紡ぐのだろうと思うと自分の女性としての未熟さを感じずにはいられなかった。
だけどロイドは苛立ったり、嫌悪を見せることはなく、むしろますます機嫌良さそうに目を細める。
ふいに伸びてきた手は、私の頬にそっと触れ、そのことで彷徨っていた私の視線はロイドの方へ向く。
そして再び吸い込まれるように美しい赤い瞳と目が合った。
「照れているアリシア様も可愛らしいのでもう少し見ていたいところではありますが、やはりハッキリ気持ちを伺いたいです。もうエドワード様を気にして言葉を控える必要はありません。アリシア様、愛しています。あなたの想いも私に聞かせください」
「わ、私の気持ちは、その、あの……」
どもる私をロイドは懇願するような色を目に浮かべてじっと見つめる。
ロイドが切実に私の言葉を聞きたくてしょうがないのだということが伝わってきた。
私は恥ずかしさをなんとか押し込め、顔を赤らめながら必死で口を開く。
「わ、私もロイドのことを男性として愛しているわ……!」
「……っ」
次の瞬間、言葉を詰まらせたロイドに体を引き寄せられ、私はロイドの腕の中にすっぽりと収まっていた。
それはダンスの時とはまた違う距離感で、明確に意思を持って触れ合った体勢であり、あの時以上の近さだ。
私の顔は広い胸に押し付けられていて、トクントクンというロイドの鼓動の音まで感じられた。
「……やっとこうしてアリシア様に触れることができました。お互い素顔で三度連続踊ることだって今ならできます」
抱きしめられて苦しいくらいドキドキする中、噛み締めるように言葉を漏らしたロイドに私は問いかける。
「……できるの? 本当に?」
「ええ。エドワード様はもう王族ではありません。今後は爵位もなく、政治に関われないよう辺境の地に追放する予定です。もうアリシア様の婚約者ではありません」
「……でも私がエドワード殿下と婚姻を結ばなければユルラシア王国とリズベルト王国の同盟に綻びが生じてしまうわ。また戦乱になってしまうかも……」
「心配いりませんよ。アリシア様と私が婚姻を結べば良いのです。さっきも申し上げた通り、私は新国王となります。もともとアリシア様は同盟のためにユルラシア王国の王族のもとへ嫁ぐ予定だったのですから、相手が代わっただけで履行すれば問題ありません。……それとも私との婚姻は嫌ですか?」
「まさか! そんなはずないでしょう? ……ただ、その、なんだかあまりにも私に都合が良すぎて信じられないというか、心が追いつかなくて」
結婚して形式上の王太子妃となり、冷遇を受ける愛されないお飾り妃として生きていくのだとずっと覚悟していた。
なのにそれが一転、初めて異性として好きになった人と結婚できて、しかも相手からも愛を返してもらえるという、前世も含めた私の人生史上ありえない幸運が舞い込んできたのだ。
衣食住に苦労しない生活であるだけで幸せな中、私には過ぎた幸せのような気がして少し身震いがする。
そんな私の心を見透かしたように、ロイドは少し体を離すと、私の顔を覗き込んだ。
「アリシア様のことですから、衣食住に苦労しない生活だけで満足なのに、これ以上の幸運を享受していいのか戸惑っておられるのでしょう? リズベルト王国での生い立ちもあって、アリシア様は幸せ慣れされていないと思います。王女なのに、他の人より満足の基準値が極端に低いのです。それもアリシア様の美徳ではありますが、私はあなたをもっともっと幸せにして差し上げたい。アリシア様の願いならなんでも叶えていきたいと思っています」
作り物の笑顔を浮かべ、取り澄ました顔をしていた最初に出会った頃のロイドとはまるで違う。
こんなふうに情熱的に私を幸せにしたいと言われて、喜びが心の底から溢れ、心と体を満たした後に外に溢れ出る。
「ロイド……ありがとう。私もあなたを幸せにしてみせるわ」
自然とそんな言葉が口をついて出て、私は笑み崩れた。
気づけば再び抱き寄せられ、ギュッと先程より強く抱きしめられていた。
ロイドの腕の中に包まれ、触れたところからは体温が伝わってくる。
私の心臓は破裂しそうなほどドキドキしていた。
……こんなにうるさい音、ロイドに聞こえてしまいそうだわ。
そう思いながらも、なんだかもっとロイドに近づきたい気持ちが溢れてくる。
私は所在なさげに放置していた自分の手をそっとロイドの背中に回して、自分からも彼を抱きしめた。
ピクリと反応したロイドがさらに自身の腕に力を込め、その抱き合った状態のまま、ロイドが私の耳元でつぶやく。
「近日中に新国王のお披露目を兼ねた舞踏会を計画しています。その時はお互い素顔で一緒に踊りましょう。三回連続で」
「ええ、喜んで」
ここは牢屋の中だ。
全然ロマンティックな場所でもなんでもない。
殺風景で何もない、石畳のゴツゴツした床が寒々しい空間だ。
だけど私はこの時、人生で一番と言っても過言ではない幸せと感動で胸がいっぱいだった。
ロイドに身を預けながら、見たもの、聞いたもの、感じたもの、この瞬間のすべてを絶対に忘れないようまぶたの裏に焼き付けた。
そしてその場に膝を突き、座っている私と目線を合わせながら申し訳なさそうな表情を浮かべ口を開いた。
「アリシア様、お助けするのが遅くなり申し訳ありません……。まさかアリシア様が侍女と入れ替わっているとは思わなかったのです。アリシア様は本殿の客間に保護され、丁重にもてなされていると報告を受けており、それを信じていました。やっとお会いできると思って客間に行けば、影武者を務めている侍女から事情を打ち明けられ助けを求められました。聞いた時は血の気が引きましたよ」
「そんなことより、ロイドは大丈夫なの!? エドワード殿下の側近は拘束されたって聞いたのだけど」
「ええ、側近のほとんどは拘束されました。でも私は問題ありません」
「それなら良かったわ。こうしてここへ来られるということは、自由に動き回れるのでしょう? つまりロイドは反乱軍に優秀で必要な人材だって引き抜かれたってところかしら?」
寝返りや引き抜き、取引などはよくあることだ。
反乱が成った今、反乱軍がエドワード殿下の側近の中から今後の統治のために、叛逆の意志がなく優秀な者を味方にしようとすることは容易に想像ができる。
数々の実績があり、政務のほとんどを仕切っていたロイドはきっと有益な人材として反乱軍のトップに目をかけられたのではないかと思ったのだ。
「いえ、そうではありません」
「あら? 違うの? それならなぜ自由に動き回れているの?」
だが、ロイドは即それを否定した。
それならばなぜロイドは今ここでこうしているのだろうと不思議に思い重ねて問う。
すると思わぬ方向に話が展開された。
「私が反乱軍の一味であり、王位簒奪をした張本人だからです。つまり王家を廃した今、私が新しい国王になるということです」
「えっ……」
衝撃的な言葉に私は目を丸くして息を呑む。
ロイドが無事だったということに安堵すると同時に思ってもみなかった事態に頭の中は大混乱だ。
そんな私の様子を見越していたのか、ロイドはゆっくりとこれまでの経緯を話してくれる。
反乱にずっと誘われていたこと、エドワード殿下が臣下や民を顧みなかったこと、前国王陛下が築いてこられた治世を引継ぎたいこと、王位継承権第2位の自分であれば反乱ののち国内の混乱は最小限で済むこと、そしてその期限が私の婚姻までであったことなどだ。
「このように様々なことから反乱の旗頭になり与することにしたわけですが、一番の決め手はアリシア様、あなたの存在です」
「私……?」
「あのバラ祭りに行った日、アリシア様はおっしゃいました。私と素顔で三曲連続踊ってみたいと。普段無欲なあなたが願いを口にされたのを聞いて、私は思ったのです。なんとしてでも叶えて差し上げたいと」
「ロイド……」
「あの時は立場上、言葉にすることが許されず、苦肉の策として独り言を呟くしかありませんでしたが、ようやく言葉にして真正面から伝えることができます」
そこで一度言葉を切ったロイドは、改めてまっすぐに私を見つめる。
その瞳には熱がこもっていた。
「アリシア様、私はあなたを女性として心から愛しています」
その言葉に喜びが電流のように駆け巡った。
頬がみるみるうちに紅潮していくのを感じる。
男性から愛の言葉を贈られるのは、前世も含めて初めてのことで、どう答えて良いのか分からず言葉が出てこない。
自分でも驚くほど動揺し狼狽えていた。
そんな私を見てロイドは愛しそうな眼差しをして小さく笑う。
「そんなに驚かれますか? あの時、独り言で遠回しではありましたが、私の想いは伝えたつもりでしたが?」
「だ、だって、あれ以来まったく顔を見せてくれなかったじゃない。だからてっきりあの場だけのことだと思って……。私も気持ちに折り合いをつけて婚姻に向けて心の準備をしなければってこの1ヶ月半ずっと思っていたのだもの」
「私も本当はアリシア様にお会いしたかったですよ。ただ舞踏会で注目を集めてしまったので私たちの関係を邪推する貴族が現れることを懸念したのです。特に反乱の前だったので行動にはより慎重にならざるを得ませんでした」
「そうだったのね……」
「……1ヶ月半の間で、私と素顔で三曲連続踊ってみたいとおっしゃった気持ちは変わられてしまいましたか?」
「いいえ! いくら考えてもそれが叶うはずはないって現実を見て諦めてはいたけれど、気持ちは変わっていないわ」
「ということは、アリシア様も私を異性として好意を寄せてくださっていると思ってもよろしいのですか?」
「…………!」
改めて真正面から問いかけられ、体がかあっと燃えるような恥ずかしさを感じる。
照れにより逸らした視線は行き場がなくなり、辺りを彷徨った。
……自分の好意を人に伝えるってこんなに恥ずかしいことなのね。今まで縁がなさすぎてどうしていいかサッパリ分からないわ……!
これくらいのことで混乱して無言になる私はきっといちいち手間のかかる面倒な女に違いない。
マティルデ様だったら相手の男性が喜ぶような言葉をいとも簡単に紡ぐのだろうと思うと自分の女性としての未熟さを感じずにはいられなかった。
だけどロイドは苛立ったり、嫌悪を見せることはなく、むしろますます機嫌良さそうに目を細める。
ふいに伸びてきた手は、私の頬にそっと触れ、そのことで彷徨っていた私の視線はロイドの方へ向く。
そして再び吸い込まれるように美しい赤い瞳と目が合った。
「照れているアリシア様も可愛らしいのでもう少し見ていたいところではありますが、やはりハッキリ気持ちを伺いたいです。もうエドワード様を気にして言葉を控える必要はありません。アリシア様、愛しています。あなたの想いも私に聞かせください」
「わ、私の気持ちは、その、あの……」
どもる私をロイドは懇願するような色を目に浮かべてじっと見つめる。
ロイドが切実に私の言葉を聞きたくてしょうがないのだということが伝わってきた。
私は恥ずかしさをなんとか押し込め、顔を赤らめながら必死で口を開く。
「わ、私もロイドのことを男性として愛しているわ……!」
「……っ」
次の瞬間、言葉を詰まらせたロイドに体を引き寄せられ、私はロイドの腕の中にすっぽりと収まっていた。
それはダンスの時とはまた違う距離感で、明確に意思を持って触れ合った体勢であり、あの時以上の近さだ。
私の顔は広い胸に押し付けられていて、トクントクンというロイドの鼓動の音まで感じられた。
「……やっとこうしてアリシア様に触れることができました。お互い素顔で三度連続踊ることだって今ならできます」
抱きしめられて苦しいくらいドキドキする中、噛み締めるように言葉を漏らしたロイドに私は問いかける。
「……できるの? 本当に?」
「ええ。エドワード様はもう王族ではありません。今後は爵位もなく、政治に関われないよう辺境の地に追放する予定です。もうアリシア様の婚約者ではありません」
「……でも私がエドワード殿下と婚姻を結ばなければユルラシア王国とリズベルト王国の同盟に綻びが生じてしまうわ。また戦乱になってしまうかも……」
「心配いりませんよ。アリシア様と私が婚姻を結べば良いのです。さっきも申し上げた通り、私は新国王となります。もともとアリシア様は同盟のためにユルラシア王国の王族のもとへ嫁ぐ予定だったのですから、相手が代わっただけで履行すれば問題ありません。……それとも私との婚姻は嫌ですか?」
「まさか! そんなはずないでしょう? ……ただ、その、なんだかあまりにも私に都合が良すぎて信じられないというか、心が追いつかなくて」
結婚して形式上の王太子妃となり、冷遇を受ける愛されないお飾り妃として生きていくのだとずっと覚悟していた。
なのにそれが一転、初めて異性として好きになった人と結婚できて、しかも相手からも愛を返してもらえるという、前世も含めた私の人生史上ありえない幸運が舞い込んできたのだ。
衣食住に苦労しない生活であるだけで幸せな中、私には過ぎた幸せのような気がして少し身震いがする。
そんな私の心を見透かしたように、ロイドは少し体を離すと、私の顔を覗き込んだ。
「アリシア様のことですから、衣食住に苦労しない生活だけで満足なのに、これ以上の幸運を享受していいのか戸惑っておられるのでしょう? リズベルト王国での生い立ちもあって、アリシア様は幸せ慣れされていないと思います。王女なのに、他の人より満足の基準値が極端に低いのです。それもアリシア様の美徳ではありますが、私はあなたをもっともっと幸せにして差し上げたい。アリシア様の願いならなんでも叶えていきたいと思っています」
作り物の笑顔を浮かべ、取り澄ました顔をしていた最初に出会った頃のロイドとはまるで違う。
こんなふうに情熱的に私を幸せにしたいと言われて、喜びが心の底から溢れ、心と体を満たした後に外に溢れ出る。
「ロイド……ありがとう。私もあなたを幸せにしてみせるわ」
自然とそんな言葉が口をついて出て、私は笑み崩れた。
気づけば再び抱き寄せられ、ギュッと先程より強く抱きしめられていた。
ロイドの腕の中に包まれ、触れたところからは体温が伝わってくる。
私の心臓は破裂しそうなほどドキドキしていた。
……こんなにうるさい音、ロイドに聞こえてしまいそうだわ。
そう思いながらも、なんだかもっとロイドに近づきたい気持ちが溢れてくる。
私は所在なさげに放置していた自分の手をそっとロイドの背中に回して、自分からも彼を抱きしめた。
ピクリと反応したロイドがさらに自身の腕に力を込め、その抱き合った状態のまま、ロイドが私の耳元でつぶやく。
「近日中に新国王のお披露目を兼ねた舞踏会を計画しています。その時はお互い素顔で一緒に踊りましょう。三回連続で」
「ええ、喜んで」
ここは牢屋の中だ。
全然ロマンティックな場所でもなんでもない。
殺風景で何もない、石畳のゴツゴツした床が寒々しい空間だ。
だけど私はこの時、人生で一番と言っても過言ではない幸せと感動で胸がいっぱいだった。
ロイドに身を預けながら、見たもの、聞いたもの、感じたもの、この瞬間のすべてを絶対に忘れないようまぶたの裏に焼き付けた。
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