探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず

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気分を入れ替えて。

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「さて、と」

まずは新しい服でも買いましょう。
これから新しい住まいを探して旅に出るんだし、動きやすくて尚且つ可愛い服がいいわ。
そこで私が尋ねたのは、行きつけの小さな服屋でした。
服屋の扉を開けると、フワリとロールの花のいい匂いがやってきました。
ロールの花はピンク色の小さな花で、綺麗なので私も好きです。

「あれ? ラティ?」
「ルル」

私が来たことで顔を出したのは、服屋の店長であるルルです。
ルルとは服屋に通うことで仲良くなりました。
店員も私のことはよく知っているので、笑顔で「いらっしゃいませ」と挨拶してくれます。

「いらっしゃい……って、どうしたの、その大荷物」

私の旅用意を見つけて、ルルは訝しげな顔をしてみせます。
確かに、不自然ですよね。
特に隠す理由はありませんし、言ってしまいましょう。

「家出しました」
「へっ?」
「ですから、家を出ました」
「……しょ、正気!? アルジェルド様は!?」

私に猛スピードで詰め寄り、早口でまくしたてるルル。
どうやら相当焦っているようです。
焦る必要はないでしょうに。

「旦那様は、お仕事です。一週間いません」
「……はえー、珍しいね。アルジェルド様が一週間も家を開けるなんて」

思えば、旦那様がこんなに家を開けることはなかったように思えます。
……本当に仕事なのでしょうか?
手紙に書いてあったペティア様と、デートでもなさっているのかしら。
まあ、私にはもう関係のないことです。

「私、旦那様にはもう愛想を尽かしました。旅に出て、もっといい人を見つけます」
「愛想を尽かした!? うわぁ……」
「だって旦那様、ちっとも私を愛してくれないんですもの」
「……………」

すると、ルルはなぜか自分の顔を手のひらで覆ってみせました。
何か困るようなことでもあったのでしょうか。

「ルル?」
「………あーっ、もうっ、わかったよ!! アルジェルド様にも!! 反省してもらおう!!」

なぜかヤケにやったようで、ルルは大声を出して店の奥に引っ込んでいきます。
そして布生地や糸、針を抱えて戻ってきました。

「アルジェルド様が戻ってくるのは?」
「あと……五日後かしら」
「よーしそれなら一日使っても大丈夫ね。今日中に服仕上げるから、とりあえずラティ、泊まってきなさい」
「いいんですか? あなたにも旦那様がいるのに……」
「この際知ったこっちゃないわ。私、あなたの友達なんだからっ。どう見てもヤバそうなことだけど、首突っ込んであげるっ」

ルルは私の採寸をすると、急いで服を作り始めました。
一回集中し出すとルルは止まりません。
それを見ていると、店の扉がガチャリと開きました。

「ママ! ただいま!」
「ルイくん」

帰ってきたのはルルの息子であるルイくんでした。
確か、今年で十歳だったはず。

「あっ! ラティアンカさん! いらっしゃい! ママは?」
「ママは集中してるみたいで……」
「あ~。うん。わかった」

無言で布を縫い続けるルルを見て、ルイくんは状況を察したらしい。
二階の私室に買い物の荷物を置きにいきました。
彼もルルの行動には慣れっこなのでしょう。
しばらくすると、ルイくんがお茶を持ってきてくれました。

「ママとラティアンカさんに」
「ありがとうございます」

このお茶は店の香りと同じロールの花から作られています。
優しい香りを放つお茶を一口含むと、思わず笑みが溢れます。

「おいしい」
「よかった! なんかラティアンカさん、元気ないからさ」
「!」

私、元気がなかったのでしょうか?
おかしいですね。
やっと家を出れて、せいせいしているというのに。

「そういえば、アルジェルド様は?」
「……ルイ」
「ママ!」

作業を止め、ルルはルイくんの頭を撫でました。

「あんたは将来お嫁さんをもらったら、絶対愛してるって言わなきゃダメよ」
「……? うん!」

ルル、十歳の子にはそれは早いんじゃないでしょうか。
ルイくんもあまり理解しているようではないみたいですし。
それを伝えると、ルルは苦笑いしました。

「対策ってやつさ。嫁さんに逃げられたらたまったものじゃないからね」

◆ ◆ ◆

その後、帰ってきたルルの旦那様も含めた合計四人で夜の食卓を囲ませていただきました。
何だか家族の団欒に参加するのはとても申し訳ない気がします。
ルルは気にするなと言ってくれたし、とてもありがたいのですが……。
寝床まで貸していただきました。
ルルと同じ部屋です。

「狭くて悪いね」
「そんなことありませんわ」

敷き布団を敷いて、ルルと横並びになります。
お泊まり会のようで思わず私はクスクスと笑ってしまいます。

「こうして見ると、ますます別嬪さんなんだけどね~。何で綺麗の一つ、アルジェルド様は言わないんだか」

ルルが呆れたように言いますが、私は別嬪さんなどではありません。
行き遅れでしたから。
アルジェルド様と結婚しましたが、これでまた行き遅れに逆戻りです。

「次はもっと、愛してくれる人と一緒になります」
「……う~ん、まあ、がんばれ」

歯切れが良くありませんね。
やっぱり、年の問題でしょうか。

「こんな年増は、誰も娶ってくれませんでしょうか……」
「とんでもない!! あんたみたいな美人は、王子に見染められてもおかしくないくらいだよ!!」
「言い過ぎですよ」

ルルは私を元気付けてくれているみたいです。
私、元気ですのにそこまでやつれて見えますでしょうか。
それを聞いて困るのはルルですので、口をつぐむことにします。

「さ、もう寝ましょ」
「はい。おやすみなさい」

電気を消すと、ルルが小さな声でこう言いました。

「ラティ。何があっても、私はあんたの味方だから……」
「ルル……」

ありがとう。
ルルという友達を持てたことに、私は凄く誇りに思いました。
ーーここでの私は気づいていませんでした。
本当に、王子様に見染められてしまうことに。
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