探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず

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ルシフェルside

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千里眼。
あらゆるものを見通し、見ることができる能力。
それは、人の心ですらも例外ではないーー。
私はそんな千里眼の能力を持って、第二王子として生まれ落ちた。
この能力が発覚したのは五歳の頃。
鬱陶しさ、苛立ち、やかましさ………それらを全て包み隠した笑顔。
一気に感情の波が直撃し、あまりの恐ろしさに気絶したのを覚えている。
王宮というのは、互いを化かし合う場所のようなものだ。
取り繕うのが苦手な奴ほどつけいられ、失脚していく。
人々の足の引っ張り合い、剥き出しになった感情を、幼い頃からずっと眺めてきた。
そこから私は、酷く冷めてしまった。
子供らしくない子供である。
周囲の人々は私の能力と態度を不気味に思い、一切近づいてはこなかった。
ちょうど良い。
面倒なものに絡まれるのは、ごめんだったから。
だが、成長すれば婚約者を持たねばならなくなった。
私は誰とも結婚などしたくない。
しかし王子というだけで、結婚は強いられることとなる。
候補として何人かの縁談を受けることとなったが、気になったのが国の端付近の領地の娘である、ユリアという女性であった。
王子の婚約者として名が上がるほど有名な美人でもなく、聡明であるわけではない。
どうやらその地で作られる上質な果物が縁談に関係しているらしく、確かに果物は我が国の名物というくらいには売れていた。
そのユリアに会う前に何人かの女性と縁談をしたが、全く心に響かなかった。

「ルシフェル殿下とこうしてお話しできるなんて、光栄ですわ」
「わたくし、ルシフェル殿下のことが……」

そう言い寄ってくる女性達の心の中が、私には透けて見える。
彼女達の心に巣食っていたのは、めっぽう強い欲だけであった。
そして私は、ユリアと会った。
正確にはーーユリアのふりをした、女性と出会った。
一目見ただけで気づいた。
この人はきっと、ユリアではないのだろうと。
この人は美しすぎる。
外見はもちろんのこと、心が澄んでいた。
純白というわけではない。
彼女の心には辛いことを体験した、という思いが根強く残っていたし、この婚約に乗り気ではないということは感じ取れた。
それに、彼女が貴族ではないことも理解できた。
だが私は、このチャンスを逃したくなかった。

「いつまで演技を続けるんだい?」

そう尋ねれば、わかりやすく彼女は目を見開いてみせる。
私は彼女に嘘をいくつか並べてみせた。
そもそも初対面であること。
ユリア嬢はとても性格の悪い女であること。
ユリア嬢には申し訳なく思うが、彼女は案外簡単に引っかかってくれた。
昔に一度会ったことがあるのは事実だし、性格は悪女とまではいかなくとも地味。
それが、ユリア嬢への私の評価。
そこまで並べてみせれば、彼女はとうとう抵抗することをやめた。
無駄なことだと理解したのだろう。
彼女が何者だろうが、私には関係がない。
こんなに惹かれる心の色をしているのだ。
悪人であるはずがない。
千里眼を持つ私だからこそ言えたことであった。
彼女に求婚をすると、彼女は戸惑い私を見つめ返した。

「あの、失礼ですが、なぜ私などを……?」
「君に一目惚れしたんだ。何より、君の心の美しさに」

私が千里眼を持っていることを説明すれば、彼女はそのことを理解した上でこう続けた。

「私には、旦那様がいました。世界一の魔術師の旦那様です。あの人のことを愛そうと決めていたはずだったのですけど……上手くいきませんでした。あの人は、私を愛してくれませんでした」

知っているとも。
あなたの心にいる男が、あなたを未だに苦しめていることを。

「それで私、新しい恋を探そうと家を出たんです。王子様の求婚は、とても名誉なことでございます。けれど……ごめんなさい。お断りするのはとても失礼なことだとわかっています。あなたが命令すれば、私なんてあっという間に王宮に連れ去られてしまうことも、理解しております。その上でのお願いです。どうか、今はそっとしておいてはくれませんか」

彼女はひたすらに頭を下げた。
肩は小さく震えていた。
彼女の言うことに嘘はない。
これほど素晴らしい女性である彼女を手放した魔術師とやらに殺意が沸くし、八つ裂きにしてやりたいとも思う。
彼女は怯えていた。
新しい恋をして、また捨てられることに。
こんな怯えの色の心を持つ彼女をまだ誘えるほど、私の心は図太くはない。

「わかりました。……ただ、あなたを諦めることはできません。ですから、デートをしてくれませんか?」
「デート、ですか?」
「そうです。それで、私の婚約を受けるか決めてください」
「……わかりました」

ひとまずチャンスは手に入れた。
後は彼女をどう落とすかである。
私は初めて手に入れたいと思った存在を前にして、目を輝かせてみせた。
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