転生侍女は悪役令嬢のお気に入り!

一ノ瀬千景

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モブにも驚くべき背景があるんですのよ8

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 答えは恋。彼に恋してるからに決まってるじゃないの。でも侍女のエマじゃ、身分違いも甚だしいだろうか。
 私が答えに窮していると、ルークはおもむろに私の腕を引いた。

「ちょっとこっちに来い」

 罪人を引き立てるかのような勢いで、彼は私を庭園の奥の茂みの中へと連れ込んだ。

「いたたっ」

 木の枝が背中に当たって、ちょっと痛い。侍女とはいえ、仮にも年頃のレディに対して扱いがひどすぎやしないか。私は目の前の彼に文句のひとつも言ってやろうと意気込んだが、次の瞬間、ひいっと息をのんだ。

「あ、あわわわ」

 あろうことかルークは腰の短剣を抜き、私の首に突きつけたのだ。
 な、なんだ、コイツ。天然通り越して頭おかしい!

「刺客か。誰に送り込まれた?」
「し、し、しかく?」

 しかく、四角、死角……刺客か! スパイってこと? 私が!?

「なぜキースを狙う?」

 ……どうやら私と彼との間には、大きな大きな誤解があるようだった。ていうか、コイツがアホすぎる。女子がイケメンをうっとりと見つめているのを、暗殺と思う? 普通は思わん!

「刺客ではありません。神に誓って……」


 私はなんとかこのアホに短剣をおさめさせ、事情を説明した。

「恋? キースに?」
「はい。私ごときが恐れ多いとは存じていますが……ただ憧れているだけなのです。お許しください」

 ルークは不可解だと言いたげに、首をかしげた。

「恋してるからと言って、なぜ見る必要があるんだ?」
「好きな人のことは、ずっと見ていたいじゃないですか」
「そういうものか?」
「そういうものです」

 そりゃ世の中には、見つめてなんていないでさっさと告白するっていう積極的な女子もいるだろう。けど、私は違う。見つめているだけで大満足というオタク気質なのだ。

「そもそも……キースのどこがいいんだ? さっぱりわからん」
「えぇ!? こんなに近くにいるのに、キース様の魅力がわからないだなんて……」
「近くても遠くてもわからん。あいつ、相当な腹黒だぞ」
「そこがまたいいんですよ! 策略巡らせてるときの悪そうな顔とか、人を品定めするような冷たい視線とか、本心とかけ離れてそうな甘いセリフとか、も~たまらないって感じで」
「……それは褒めてるのか?」
「もちろんですとも!」

 私は大きくうなずいた。腹黒さはキース様の最大の魅力じゃないか。
 ルークは呆気に取られたように私を見つめたかと思うと、はぁと小さく息を吐いた。

「変わった趣味だとは思うが、お前がキースをすごく好きなのは理解した。刺客じゃないと言う言葉は信じる」
「わかってもらえて、なによりです」
「悪かったな、剣を向けたりして」
「二度目はなしにしてくださいね。すっごく怖かったので」

 私が言うと、彼はふっと目を細めた。笑いかけてくれた、と思っていいのだろうか?
 ルークの最大の魅力は、ごくたまにしか見せない破壊力抜群の笑顔……だったはず。

「なるほど。キャッチコピーに偽りなしだわ」

 背を向けて歩き出していた彼には、私のつぶやきはきっと聞こえていないだろう。

「楽しいお茶会でしたね」

 お茶会を終え春風の宮に戻ったフィオナの着替えを手伝いながら、私は言った。さらりと言ったように聞こえるだろうけど、内心はバクバクだった。常にクールビューティーなフィオナは感情が読みづらい。私の選んだドレスやメイクを気に入ってくれたのか……ずばり言ってしまえば、彼女のなかで私のクビ問題はどうなったのか。

「そうね。白薔薇は本当に美しかったわ」
「ラフェル殿下はフィオナ様を素敵だと仰っていましたよ!」
「別にあの人の好みはどうだっていいのだけれど…」

 見事なまでのツンデレぶりだ。本人のいないところでくらい素直になればいいのにと思うけれど、彼女にはそれはとんでもなく難しいことなんだろう。

「今日のドレスとヘアメイクは気に入ったわ。エマ、また手伝ってくれる?」
「はい、喜んで!」

 某居酒屋の元気なバイト君みたく、前のめり気味に私は答えた。
 セ、セーフ! 即退場の危機は免れた。とりあえず第一関門突破ってとこかしら。モブキャラとして生きてく道はなんとか開けたみたい。
 

 

 

 




 
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