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Chapter 7
⑪
しおりを挟む「きみたちの話には身につまされたなぁ。……本当に『父親』ってなんだろうね」
鮫島は杉山がセットしてくれた「R◯card」と書かれたボトルの栓を抜き、バ◯ラのグラスに琥珀色の液体を注ぐ。
「私も二人の息子の父親だからね。もっとも、別れたそれぞれの元奥さんに任せっぱなしで、彼らにはほとんど会うことがないまま、すっかり成人しちゃったからな。先刻の若かりし頃に精子バンクに提供した『父親』となんら変わらないかもしれないなぁ。……もちろん、彼らのことはちゃんと私の息子だと思っているけどね」
鮫島には、学生結婚したが就職後に離婚した最初の妻との間に長男・典士が、その後再婚したが長期間の別居を経て離婚した二度目の妻との間に次男・央士がいた。
両方とも、いわゆるデキ婚だった。
二人とも、それぞれの母親の姓を選択したため、現在では大橋 典士、佐久間 央士と名乗っている。息子が二人もいて鮫島の姓を継ぐ者はいないのは、因果応報であろう。
大学を卒業後、典士は母親の実家である大手ゼネコン・大橋コーポレーションに、央士は老舗デパート・松波屋の系譜である母親の実家には頼らず自力で自動制御機器メーカーの(株)アディドバリューに就職していた。
「典士さんのことは顔くらいしか知らないけど、央士くんは恭介の親戚筋にあたるから彼が中高生の頃から知ってるのよ。それに、うちの実家の会社に入ったしね。ほんと、グレることなく真っ当に育ってると思うわよ」
鮫島が礼子と男女の仲になったのは、彼が二度目の妻とようやく離婚が成立してからである。
——もし、ここにややちゃんがいたら、鮫島社長は間違いなく「鬼畜認定」されるでしょうねぇ……
「まぁ……それでも、もし礼子が、私の子どもを産んでもいい、って言ってくれるなら……女の子がいいな」
鮫島が、俯く礼子を覗き込みながら「お願い」を囁く。
「ねぇ、礼子……私のために、きみによく似た娘を産んでくれるかい?」
パッと顔を上げた礼子が「もおっ!」と鮫島の腕を叩くと、その胸に頬を寄せた。すると、鮫島が腕を回して、ふんわりと礼子を包み込む。
「だから、元気な女の子を産むためにも、無理な食事制限はしないで、ちゃんと摂ってくれよ?」
そして、礼子の旋毛にキスを落とす。
——えーっと、お二人さ~ん、目の前にいるほぼ初対面(鮫島社長に至っては確実に初対面)のわたしが見えていますかぁー?
ちなみに、男性は高齢になると息子より娘をもうける確率が上がるそうだ。(諸説あり)
——でも、まぁ、久城さんが本当に女の子を産んだら、今度こそ鮫島さんはいいパパになれるんじゃないのかしら?
さらに、今までできなかったこともあって、ものすごーく溺愛しそうで、ちょっと怖ろしい気もしなくはないが、と麻琴は思った。
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