政略結婚はせつない恋の予感⁉︎

佐倉 蘭

文字の大きさ
3 / 128
Prologue

政略結婚のためにお見合いしてます ③

しおりを挟む

「……それじゃ、あとはお若いお二人にお任せしましょうか?」
 清香おばさまは朗らかに、お見合い「あるある」の言葉を宣言して、本日のお役御免とばかりに席から立ち上がった。

 ——おばさまのお席からなら、よくご覧になれますでしょ?あの方、わたくしのこと、まだ飽きもせず、ガン飛ばしまくっていらしてよ?

 あぁ、このときほど自分がテレパスだったらなーと思ったことはない。
 なのに、非情にもお相手のご両親も——両側だからご子息のお顔がご覧になれないのかもしれないけれど——そして、うちの両親までもが席を立つではないか。

 父親が「それでは、また……」とか言って、向こうのご両親に挨拶している。
 ——パパ、お相手のお顔を見たら「また」なんて無いの、わかるでしょ!?

「彩乃、あちらさまに粗相のないようにね」
  ——ママ、わたしの母親を何年やってるの?もうお相手にとっては「粗相」だらけなのよっ。

 とりあえず、わたしも立ち上がって、この場から辞去される方々に丁寧にお辞儀をした。


゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜


「……あんた、食わねえのかよ?」
 目の前の人が言った。

 彼も立っている。どうやら、わたしと同じように、辞去する面々に会釈していたようだ。

 分厚い底の草履を履いているから一七〇センチを超える身長になっているはずなのに、わたしの目線のずっと上に彼の顔がある。一八五センチはあるのだろう。でも、先刻さっきまで座ってたときにはそんな高身長の威圧感はなかった。

 ——あ、そうか。胴が短くて脚が長いんだ。
 わたしは目の前のテーブルに並べられた、ほとんど手つかずの料理を見ながら思った。

「そのツラなら、たかが見合いごときで緊張なんかしないだろ?」
 ガンを飛ばす代わりに、今度はあざけるるような目でわたしを見る。

「『キャバ嬢の初詣』かよ、その格好」

 ——あ、わかった!この人、わたしの外見が気にくわないんだ。


 わたしの外見は派手だ。オリーブブラウンの髪色も、ウェーブも、ヘイゼルの瞳も、カラーリングやパーマやカラコンは一切したことがない、天然である。加えて、ピンクがかった白い肌に目鼻立ちのハッキリした顔は、よくハーフかクォーターに間違えられる。

 中学に入った頃から街を歩けば、芸能事務所のスカウトがひっきりなしに声を掛けてきた。
 女子大時代には、出版社からの読者モデルの誘いを断るのにうんざりした。
 とりわけ一番イヤだったのは……

 この目の前の人のように——中身も派手だと思われることだ。

 今まで、派手で自信家で、わたしとつき合えば自慢になると思ってるような男の人ばかり、わたしに近づいてきた。または、わたしも自分と同じようなタイプで「割り切った付き合い」ができると思い込んだ人とか。

 わたしの性格は至って「普通」だ。むしろ、地味って言ってもいいくらい。休みの日だって、家にこもる方が気が楽なインドア派なのだ。
 だけど、そんなこと、初対面の誤解している人に言っても信じないだろう。

 ——それに、この調子じゃ、どうせこのお見合いは断られるだろうし……


「本日はお忙しい中、わたくしなんかのためにお越しくださり、ありがとうございました」
 わたしは深々とお辞儀をした。

「……それでは、わたくし、失礼いたします。あなたもどうぞお気をつけて、お帰りくださいませ」

 そう言って、わたしは高級料亭をあとにした。

 なにか、口をあんぐり開けたマヌケな顔が、目に入ってきた気がしないでもないが……
 まさかあの斜に構えたイケメンが、そんな変顔をするわけがない。

 ——気にしないでおこう。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

夫婦戦争勃発5秒前! ~借金返済の代わりに女嫌いなオネエと政略結婚させられました!~

麻竹
恋愛
※タイトル変更しました。 夫「おブスは消えなさい。」 妻「ああそうですか、ならば戦争ですわね!!」 借金返済の肩代わりをする代わりに政略結婚の条件を出してきた侯爵家。いざ嫁いでみると夫になる人から「おブスは消えなさい!」と言われたので、夫婦戦争勃発させてみました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...