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Prologue
政略結婚のためにお見合いしてます ②
しおりを挟む「大地もね、来年の二月に結婚するのよ。だからね、わたくし、彩乃ちゃんにも早く幸せになってもらいたくって、このお話を持ってき……」
「えっ……ええぇーっ!? 」
わたしは清香おばさまの声を遮って、素っ頓狂な声をあげてしまった。
「「彩乃っ!? 」」
すぐさま、両親の鋭い声がユニゾンで響いた。
そして、そのとき、わたしは初めて目の前を見た。
つまり……ご両親に挟まれて正面に座っている「お見合い相手」を。
——目が合った。
その人は、わたしを見つめていた。いや、違うな。片眉を上げて、目力込めて……
——わたしにガンつけていたのだ。
わたしは「す、すいません」と口の中で、もごもご言った。
うっ、今まで猫被って、お上品に話してきたのに……さよなら、わたしの着ぐるみ。
「あ、あのね……大地は会社の常務のお嬢さんと結婚するのよ」
清香おばさまは、気を取り直して教えてくれた。
大地というのは、清香おばさまの妹である上條の紗香おばさまの息子のことだ。
——あいつ、魂売ったな。ばりばりの政略結婚じゃん。うちの親戚の中じゃ、骨のある方だと思ってたのに。
なんか、とんでもない娘を連れてきて、親戚中を……特に、あの松濤のおじいさまを、ぎゃふん、って言わせてくれるかな、って……勝手に思ってたんだけどな。
だけど、わたしだって、これからやろうとしてあるのは、だれがどう見たって「政略結婚」なんだけど……
わたしは改めてその政略結婚の「お相手」を見た。
——やっぱり、まだガン飛ばしてるなぁ。
そのお見合いのお相手とは——昨日になってあわてて見た「釣書」によると……
富多 将吾といって、KO大の経済学部を卒業後、父親が社長のTOMITAホールディングスという自動車会社を主体としていろんな分野の会社を傘下に収める富多グループを統括する持株会社に就職した。その後、会社から命じられイギリスのケンブリッジ大学のビジネススクールで経営学修士を取得。
そして、この十一月で三十歳になったばかりだというのに、副社長に就任したそうだ。
——「富多」って……富が多い、ってことじゃん。いかにも、金持ちな名前だなぁ。「名は体を表す」ってこと?
外見は——実は一目見たときから気づいてはいたのだが——かなりのイケメンである。
少し癖のありそうなダークブラウンの髪。
少年っぽさが残った、丸顔気味の輪郭。
目尻が上がったアーモンドのような二重の目に、すーっと通った鼻筋。
やわらかそうな、ちょっと厚めのくちびる。
色素の薄いカフェ・オ・レ色の大きな瞳で……
彼は先刻からずっと、わたしにガンを飛ばし続けている。
——きっと、わたしの印象、最悪に違いない。
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