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Chapter 13
大地&亜湖さんの結婚式に行きます ③
しおりを挟むいや、黒のタキシード姿なんて、成人式のスーツ姿の裕太以外、太陽も慶人もなんだけど……
同じテーブルが気まずくって、なにしゃべったらいいの?なんて、全然思ってないから……
時差ボケで、かったるそうに前髪を掻き上げる仕種なんかに、どきっ、となんかしてないから……
八年ぶりに会って、いきなりあんな濃ゆいキスをしてしまったことなんて、もう忘れたから……
「彩乃……前に行って亜湖を見たいんだけど、一緒に行かない?」
蓉子の「提案」に一も二もなく乗っかる。
綿帽子に白無垢姿から真紅の色打掛にお色直しをした亜湖さんは、本当におひなさまのように可憐で美しかった。最近は自分の髪で結った洋髪が人気だが、亜湖さんは日本髪である。
幼い頃、一度しか見たことがないとはいえ、あのときの「市松人形」が成長して「お嫁さん」になったのが感慨深い。
紋付袴で、お内裏さまというよりは江戸時代のお侍のような佇まいの大地が、ずーっと亜湖さんを見つめている。一刻でも彼女から目が離せないのだろう。
「……亜湖、おめでとうっ!すっごく綺麗っ!」
一足先に「新妻」になった蓉子が涙ぐむ。
今日の彼女はエメラルドグリーンのオフショルダーのセミイブニングドレスを着ていた。
「ありがとう……蓉子」
亜湖さんも目に涙を浮かべて微笑んだ。
「亜湖さん、ご結婚おめでとうございます。本当にお着物が似合ってて素敵だわ。わたしも蓉子もこんなだから和装が似合わないの。だから、とってもうらやましいわ」
彼女の真紅の色打掛は、金糸や銀糸をふんだんに使って鶴などが施された総刺繍のものだった。
「彩乃さん、今日はお越しくださってありがとうございます。次はあなたね。四月を楽しみにしてるね」
亜湖さんはわたしに丁寧にお辞儀したあと、ふっくらと微笑んだ。
「……おい、おれには『おめでとう』はないのか?」
大地がムッとした顔で抗議した。
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜
そろそろ、お開きの時間だ。
蓉子と慶人は会社関係の人たちが中心となる二次会へ行くそうだ。
太陽と海洋は、成人になった裕太を連れて呑みに行くらしい。
わたしも誘われたが「裕太をよろしく」と言って帰ることにした。
エレベーターの前で、箱が来るのを待っていると、ふと後ろに気配を感じた。
振り向くと、海洋が立っていた。
不意打ちだったので、思わず「げっ!?」という色気のかけらもない顔をしてしまった。
「……そんな顔すんなよ。この前のこと、謝りたいだけだから。下まで見送る」
そう言って、海洋はちょうど来た箱にわたしを乗せた。運悪く、だれも乗ってなかった。
「……悪かったな。急にあんなことして」
海洋は、階数表示の数字が小さくなっていくのを見ながら言った。
「ううん。……わたしも、酔ってたから」
わたしも同じところを見て言った。
「突然、おまえが結婚するって聞いたからさ。……柄にもなく、焦った」
海洋が自嘲するように、片側の口の端を上げた。
黒のタキシード姿でそんな顔するなんて、ずるいな、と思った。
エレベーターが降りる階に着いた。
そのまま、ホテルの前のタクシーが停泊している場所まで、なにも話さず歩く。
「……じゃあ、わたし帰るから」
タクシーに乗り込もうとしたわたしに、
「もう一緒に暮らしてるんだってな?」
海洋が問いかけてくる。
「そうよ」
わたしは素っ気なく答えて、乗り込む。
「……そいつとは、できるのか?」
わたしは思わず、鋭く海洋を見た。
—— それが知りたかった、ってことね?
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