政略結婚はせつない恋の予感⁉︎

佐倉 蘭

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Chapter 17

雨降って、地固まってます ①

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 わたしと将吾は、週明けの月曜日の朝まで、外苑前のタワーマンションで二人きりでまったりと過ごし、南青山の会社へ出勤した。

 念願のわたしがつくった「濃いめの味の豚の生姜焼き」を食べられた将吾はご満悦だった。
   そして「今度は海老カレーな」とリクエストした。

 海洋との会話を覚えていたか。

 ——やっぱり、めんどくさい人だ。


゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜


 そしてその日の夜、仕事を終えてから、わたしの実家の代々木上原の大山町へ一緒に向かった。

 わたしが元麻布の将吾の実家を出た理由も、海洋といた尾山台のマンションから出奔した理由も、簡単には言い表せないことだし、また両親には口が裂けても言えないことだった。

 なので、土曜日の朝に将吾が両親に表明していた「彩乃のマリッジブルー」が「正式な理由」として改めて「採用」された。

 すると、案の定父親は静観していたが、母親からはくどくどと叱られた。

 ——そもそも、わかばちゃんとのデートやわたしのベッドでの自爆テロを見なければ、こんなことにはならなかったんだけどっ。

 将吾が「いや、お義母かあさん、そもそも僕が彩乃とのコミュニケーションをおろそかにしていたので」とわたしをかばうと……

 母親は「まぁ、将吾さん、この子のせいなのに…」と眉根を寄せるが、次の瞬間「彩乃っ、こんなにいい人と結婚できるのに、なんてワガママなっ!」と輪をかけて叱られることになる。

 ——もおっ、将吾ったら、余計なこと言わないでよっ。

 わたしがきゅっ、と睨むと、将吾は悪かった、と顔を歪めた。


 だけど、最後に……

「……彩乃、将吾君と結婚するんだな?」

 父親から、静かに問われた。

 ——海洋じゃなくて、いいんだな?

と、その目が問うていた。

 父親には、お見通しのようだった。

 わたしは、父親の目をしっかり見て、厳かに肯いた。

 ——迷うことなく、将吾だけを愛してる。


゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜


 実家を出て、駐車スペースの将吾のマセ◯ティに着くまで、わたしたちは手をつないで歩いた。指と指をしっかり絡めた「恋人つなぎ」だ。

 シートに座ると、将吾がわたしの左手薬指に、ちゅっと口づけた。ブシ◯ロンのピヴォワンヌが、堂々と生還を果たしていた。

 そして、わたしの肩を引き寄せ、今度はわたしのくちびるに、ちゅっとキスをした。
 それが合図となって、わたしたちはお互いを際限なく求める深いキスへ移っていく。

「……彩乃を抱きたい」

 一刹那、くちびるを離した将吾がせつなげにつぶやく。

「えっ……今夜もなの?」

「今まで寸止めしていた自分自身を呪い殺したくなるくらい、おまえがほしい」

 わたしたちは土曜日の昼から、外苑前のマンションで、これまであんなに最後まで進まなかったのがウソだったかのように……
   まるでこれまでのことを取り戻すかのように……

 何度も何度もカラダを重ねていた。

 将吾はノーガードでわたしを抱いた。

 わたしに人工授精ではなく「自力」で子どもをもうけさせることを「実践」しているのだろう。困ったもんだ。

 でも、海洋のときにあれほど不安だった「妊娠への恐怖」は今のわたしにはまったくない。

 むしろ、将吾からわたしの子宮に注がれる彼の「いのちの源」をひとしずくも漏らさず受け止めたい、とまで思う。


 ゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜


 将吾さんの元麻布の実家に戻った。

 お義父とうさんと、お義母かあさんのマイヤさんに、
「……ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした」
と、深々と頭を下げた。

「彩乃、うちに戻ってきてくれてありがとう」

 頭を上げると、マイヤさんからふわっとハグされた。

「どうせ将吾の不手際だろう?」

   落ち着いた大人の魅力あふれる社長が、将吾によく似た笑顔でおおらかに言った。

「堅苦しい挨拶はいいから、みんなでfikaフィーカでもしようじゃないか。美味おいしいシナモンロールもあるよ」
 
 fikaとは、スウェーデンの人たちがこよなく愛するおしゃべりしながらのコーヒータイムである。

 将吾はたちまち、うげっ、という顔をして「彩乃、部屋に行こうぜ」と言ってマイヤさんからわたしを引き剥がした。


「……ねぇ、なんで、fikaをしないの?」
 部屋に行く道すがら、将吾に尋ねる。

 片方の手でわたしのマイクロモノグラムのキャリーバッグを持ってくれている。もう片方の手はわたしと恋人つなぎだ。

「いい歳した両親のバカップル丸出しの姿なんか、見たくねえんだよ。気持ち悪い」
 将吾がぶるっ、と震えた。

 彼の両親は本当に仲がいい。

 ——わたしと将吾も、何歳いくつになってもそんなふうになれればいいな。

 とりあえず、キャリーバッグの中のものを片したいので、わたしの部屋に入る。

 そして、目の前の光景に目を見張った。

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