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第九章 化学反応
11話
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お父さんとナースセンターの前を通ると、藤原さんがお茶を用意してくれた。
病室に戻っても話題は唯兄のこと。
現時点の身元引受人は蔵元さんらしい。そんな話は以前唯兄から聞いたことがある。
でも、唯兄はもう成人しているし身元引受人は要らないんじゃないのかな、と思っていると、
「成人しても連帯保証人が必要になることは多々あるよ。それに、唯くんには家族がいたほうがいいと思うんだ」
お父さんの物言いは、唯兄が家族を失った経緯を知っているような気がした。
「でもって、うちっていう家族が彼を必要としてる気がするんだ」
うちが、必要としてる……?
「蒼樹にしても翠葉にベッタリだしなぁ。あれもどうにかしないといけないだろ」
お父さんは苦笑い。
「うちに唯くんが入ると、それだけでなんだかバランスが良くなる気がしたんだ。母さんや翠葉の状態もものすごく客観的に見て意見してくれる。それでいて、第三者になり過ぎないっていうのは彼の性格なんだろうなぁ……」
「……私は、賛成こそすれ反対なんてしないよ?」
私たち兄妹に唯兄が加わると、いつもとは違う会話へと発展する。それは、私と蒼兄ふたりでは成し得ないことだ。
唯兄が家族に加わっても、唯兄がうちの空気に呑まれてしまうことはないだろう。でも――
「唯兄、自分の苗字が変わることに抵抗はないのかな……」
「もしも養子縁組が決まったら、仕事では今までどおりの名前を使うかもしれないって言ってたかな。でも、戸籍上は御園生になるから正式な書類は御園生になる。それに依存はないみたいだったよ」
「そう……」
お姉さんと違う苗字になることに抵抗はなかったのかな……。それとも、違う苗字になれることのほうがよかったのかな。
「ただね、名前を少し変えるようだ」
「え……?」
「唯に草冠の芹でイゼリに変えたいって。ほら、蒼樹にしても翠葉にしても植物の漢字が入ってるだろ? だから、って言ってたけど?」
唯芹――
お姉さんの名前を自分の名前に入れたのね。だから、「若槻」には固執しないのね。
「うちは蒼樹も翠葉も変わった名前だから、唯芹が加わったところで全然違和感ないけどな」
お父さんはカラカラと笑った。
「でも、彼には何か大きな意味があるんだろうね」
柔らかく、包み込むようにあたたかな笑顔で言われる。
「お父さんって……」
「ん?」
「……時々仏様みたいな顔をするよね」
お父さんは口にカップをつけたまま盛大に吹き出した。お布団とお父さんのシャツが多少の被害を被る。そんな惨状にふたりして大笑い。
こんなふうに笑える自分に驚きながら、
「お父さん……今はね、痛みが少ないの。治療のおかげだと思う」
「良かった」
心底ほっとした顔に、私もほっとする。
「でもね、もし……またすごく痛くなったら、やっぱり抑制できない感情が出てきちゃうと思うの。そしたら――どうしたらいい?」
「……そしたら、口にしてしまえばいい。それを我慢したら翠葉もつらいし、また遠ざけられてもな、周りもつらいからさ」
「それで、いいのかな……?」
「言われたほうが楽なこともあるんだ」
「……じゃ、そのときは本当に覚悟してね? 私も傷つくから、だから……一緒に傷ついてくれる?」
「……変な娘だなぁ」
お父さんは困った顔で苦笑した。
「そこらの子はさ、反抗心だけで口答えするし、言う前からそんな前置きはしないもんだぞ?」
「だって、事情が違うもの……」
「そうだけどな……。もう少し奔放に育ってくれても良かったんだけどなぁ……」
十分奔放に育ってると思うんだけどな……。
「私ね、お父さんとお母さんの子どもに産まれて幸せだと思う。すごくすごく幸せだと思う。だから……ひどいことを言っても、そのときだけだと思ってほしい……。一時間後くらいには忘れてくれると嬉しい。……勝手なこと言ってるってわかってるんだけど、でも……お願いしたいの」
「……わかった。家に帰ったら母さんたちにも伝えておく」
「うん……」
「翠葉、ハグしてもいいか?」
真面目な顔をして何を言われるのかと思えば……。
「やっぱそろそろだめかなぁ?」
なんでそんなふうに思うのかな。
私はおかしくなってクスクスと笑う。
「どうして? いいよ」
「おおっ! 良かった」
お父さんは私を抱きしめながら、
「いやさ、年ごろの娘っていうのはやっぱり嫌がるものなのかな、とか考えるんだぞ」
「そういうものなのかな? でも、私はまだ大丈夫みたい」
「……まだ、なんて意味深発言だな」
「だって、この先はわからないもの」
「……そうだな。この先に何があるかなんて誰にもわからないよな」
お父さんは身体を離して頭に手を置いた。
「翠葉が翠葉らしく、のびのびと育ってくれたら父さんはそれだけでいいよ」
「私は……お父さんたちに楽しく仕事をしていてもらいたい。そして、出来上がった建物を観に行きたい」
「うん。今の仕事はすごいぞー! 十一月には最終確認段階に入るから、そのころには翠葉を連れていけるよ」
「楽しみにしてる」
「じゃ、父さんはこれで帰るな」
「うん。……早く、退院できるようにがんばるね」
「……翠葉のペースでな」
「うん……」
私ががんばればいい。私さえ元気になればいい。そしたら、誰も傷つけないで済む――
お父さんが帰ったのは八時過ぎ。就寝時間まではまだ時間がある。私は携帯を持ってベッドから抜け出た。
左手に携帯、右手に点滴スタンド。そんな状態で病室から顔だけを出して廊下を右左うかがい見る。
「……誰もいるわけないよね」
そのまま斜め前のナースセンターへ行き、藤原さんに声をかけた。
「少し電話してきます」
「……かまわないけど、誰にかけるのか訊いてもいいかしら?」
どうしてか、藤原さんの視線は私とカウンターの中を行き来する。いったい何を見ているのだろう。
カウンターに近寄り、
「司先輩に電話しにいこうと思っていて……」
言った直後、「ペナルティ」とカウンターの中から声がした。
その声は藤原さんのものではない。
恐る恐るカウンターの中を覗き見る。と、さっきまで屋上で保険屋さんをしてくれていた司先輩がいた。
「ペナルティって何かしら?」
藤原さんがにこりと笑って尋ねると、先輩は短く「企業秘密」と答えた。
素っ気無く答えた司先輩がカウンターから出てくる。
「……普通に話せてたんじゃない?」
「保険屋さんが後ろに待機してくれていたおかげです」
「俺、保険屋を開業した覚えはないけど。……じゃ、帰るから」
先輩はエレベーターホールへ向かって歩きだした。
「あっ、そこまで送るっ」
慌てて走ろうとしたら、
「御園生さん、私からもペナルティつけちゃうわよ?」
背後から抑揚のある声がかけられた。
「……ごめんなさい、あの――走らないので……行ってきてもいいですか?」
「走らなければよろしい」
にこりと笑んだ藤原さんに見送られる。
早足で先輩の隣に並ぶと、
「別れ際に名前呼んでくれたら許すけど?」
そこまで言われてペナルティの意味がわかった。司先輩、と呼んだことが問題だったのだ。
「ツカサ、ツカサ、ツカサ、ツカサ、ツカサツカサツカサツカサツカサツカサ」
「連呼するな……。カサッカサッて聞こえてくる」
眉間にしわを寄せて嫌な顔をされた。
「わがまま……」
「……普通、名前を呼べって言っても連呼することはないだろ?」
「何回も呼んじゃだめなんて言われてないもの……」
「翠って、ああ言えばこう言う性格なんだ?」
どこか面白そうに笑うと、
「じゃ、おやすみ」
とエレベーターに乗り込んだ。
「ツカサっ、今日はありがとうっ」
言い終わると同時に扉が閉じる。
「ツカサ――なんだか言い慣れない」
男子を呼び捨てで呼ぶこと自体が初めてだった。
どうしてか、閉まってしまったエレベーターのドアから目が離せない。けど、今日あったことをここで思い返すのが得策ではないことくらいはわかる。
「せめて病室へ戻るべき……」
エレベーターから視線を引き剥がし病室へ戻る。と、ベッドに上がって今日あった出来事をひとつひとつ思い返してみた。
午前中は平穏だったけれど、午後は色々あり過ぎた……。
近いうちにお母さんとも会うと話したけれど、どんなタイミングでどんなふうに切り出せばいいのだろう。
唯兄と蒼兄も同じだ。どちらかと言うと、唯兄に会うのが一番楽な気がする。でも、今までの経験上、先住犬ならぬ先住人を優先しないと蒼兄がぐれそう……。
「一度寝てから考えようかな」
なんだか頭の中が混沌としている。
「御園生さん、寝る前の薬」
藤原さんに声をかけられてはっとした。
薬を受け取り飲もうとした瞬間、ふとした疑問が浮かびあがる。
「あの、藤原さん……。私、今日一日、この階で藤原さんと昇さんとしかお会いしていないんですけど……」
「それがどうかした?」
「藤原さんは今からおうちに帰って、それから朝にはあの時間に出勤されるんですか?」
「違うわよ?」
「……そのあたりのカラクリを少々知りたいのですが」
普通、看護師さんは三勤交代だったりする。でも、藤原さんは長時間ここにいる気がするの。
「私、今は十階の一室に住んでいるのよ」
にこりと笑われたけど、一息に呑みこめる内容ではなかった。
「私の区分はほかの看護師とは異なるの。勤務体系も全く別」
そうは言われても、それで納得できるものでもない。
「私は有権者の専属医師なのよ。一応この病院に籍はあるけど、システムには組み込まれていないの。今は雇い主からの命令で御園生さんの専属看護をやっているだけ」
……有権者って、誰……?
「……思いあたる方は静さんしかいないのですが」
「ナンバーツーじゃないわ。はい、この話は終わり」
静さんじゃないなら誰?
この病院をいいように使える人なんて、私が知っている限りでは静さんしかいないのに……。
静さん以外の誰か、は私には想像することができなかった。
お父さんやお母さんは知っているのかな……。
病室に戻っても話題は唯兄のこと。
現時点の身元引受人は蔵元さんらしい。そんな話は以前唯兄から聞いたことがある。
でも、唯兄はもう成人しているし身元引受人は要らないんじゃないのかな、と思っていると、
「成人しても連帯保証人が必要になることは多々あるよ。それに、唯くんには家族がいたほうがいいと思うんだ」
お父さんの物言いは、唯兄が家族を失った経緯を知っているような気がした。
「でもって、うちっていう家族が彼を必要としてる気がするんだ」
うちが、必要としてる……?
「蒼樹にしても翠葉にベッタリだしなぁ。あれもどうにかしないといけないだろ」
お父さんは苦笑い。
「うちに唯くんが入ると、それだけでなんだかバランスが良くなる気がしたんだ。母さんや翠葉の状態もものすごく客観的に見て意見してくれる。それでいて、第三者になり過ぎないっていうのは彼の性格なんだろうなぁ……」
「……私は、賛成こそすれ反対なんてしないよ?」
私たち兄妹に唯兄が加わると、いつもとは違う会話へと発展する。それは、私と蒼兄ふたりでは成し得ないことだ。
唯兄が家族に加わっても、唯兄がうちの空気に呑まれてしまうことはないだろう。でも――
「唯兄、自分の苗字が変わることに抵抗はないのかな……」
「もしも養子縁組が決まったら、仕事では今までどおりの名前を使うかもしれないって言ってたかな。でも、戸籍上は御園生になるから正式な書類は御園生になる。それに依存はないみたいだったよ」
「そう……」
お姉さんと違う苗字になることに抵抗はなかったのかな……。それとも、違う苗字になれることのほうがよかったのかな。
「ただね、名前を少し変えるようだ」
「え……?」
「唯に草冠の芹でイゼリに変えたいって。ほら、蒼樹にしても翠葉にしても植物の漢字が入ってるだろ? だから、って言ってたけど?」
唯芹――
お姉さんの名前を自分の名前に入れたのね。だから、「若槻」には固執しないのね。
「うちは蒼樹も翠葉も変わった名前だから、唯芹が加わったところで全然違和感ないけどな」
お父さんはカラカラと笑った。
「でも、彼には何か大きな意味があるんだろうね」
柔らかく、包み込むようにあたたかな笑顔で言われる。
「お父さんって……」
「ん?」
「……時々仏様みたいな顔をするよね」
お父さんは口にカップをつけたまま盛大に吹き出した。お布団とお父さんのシャツが多少の被害を被る。そんな惨状にふたりして大笑い。
こんなふうに笑える自分に驚きながら、
「お父さん……今はね、痛みが少ないの。治療のおかげだと思う」
「良かった」
心底ほっとした顔に、私もほっとする。
「でもね、もし……またすごく痛くなったら、やっぱり抑制できない感情が出てきちゃうと思うの。そしたら――どうしたらいい?」
「……そしたら、口にしてしまえばいい。それを我慢したら翠葉もつらいし、また遠ざけられてもな、周りもつらいからさ」
「それで、いいのかな……?」
「言われたほうが楽なこともあるんだ」
「……じゃ、そのときは本当に覚悟してね? 私も傷つくから、だから……一緒に傷ついてくれる?」
「……変な娘だなぁ」
お父さんは困った顔で苦笑した。
「そこらの子はさ、反抗心だけで口答えするし、言う前からそんな前置きはしないもんだぞ?」
「だって、事情が違うもの……」
「そうだけどな……。もう少し奔放に育ってくれても良かったんだけどなぁ……」
十分奔放に育ってると思うんだけどな……。
「私ね、お父さんとお母さんの子どもに産まれて幸せだと思う。すごくすごく幸せだと思う。だから……ひどいことを言っても、そのときだけだと思ってほしい……。一時間後くらいには忘れてくれると嬉しい。……勝手なこと言ってるってわかってるんだけど、でも……お願いしたいの」
「……わかった。家に帰ったら母さんたちにも伝えておく」
「うん……」
「翠葉、ハグしてもいいか?」
真面目な顔をして何を言われるのかと思えば……。
「やっぱそろそろだめかなぁ?」
なんでそんなふうに思うのかな。
私はおかしくなってクスクスと笑う。
「どうして? いいよ」
「おおっ! 良かった」
お父さんは私を抱きしめながら、
「いやさ、年ごろの娘っていうのはやっぱり嫌がるものなのかな、とか考えるんだぞ」
「そういうものなのかな? でも、私はまだ大丈夫みたい」
「……まだ、なんて意味深発言だな」
「だって、この先はわからないもの」
「……そうだな。この先に何があるかなんて誰にもわからないよな」
お父さんは身体を離して頭に手を置いた。
「翠葉が翠葉らしく、のびのびと育ってくれたら父さんはそれだけでいいよ」
「私は……お父さんたちに楽しく仕事をしていてもらいたい。そして、出来上がった建物を観に行きたい」
「うん。今の仕事はすごいぞー! 十一月には最終確認段階に入るから、そのころには翠葉を連れていけるよ」
「楽しみにしてる」
「じゃ、父さんはこれで帰るな」
「うん。……早く、退院できるようにがんばるね」
「……翠葉のペースでな」
「うん……」
私ががんばればいい。私さえ元気になればいい。そしたら、誰も傷つけないで済む――
お父さんが帰ったのは八時過ぎ。就寝時間まではまだ時間がある。私は携帯を持ってベッドから抜け出た。
左手に携帯、右手に点滴スタンド。そんな状態で病室から顔だけを出して廊下を右左うかがい見る。
「……誰もいるわけないよね」
そのまま斜め前のナースセンターへ行き、藤原さんに声をかけた。
「少し電話してきます」
「……かまわないけど、誰にかけるのか訊いてもいいかしら?」
どうしてか、藤原さんの視線は私とカウンターの中を行き来する。いったい何を見ているのだろう。
カウンターに近寄り、
「司先輩に電話しにいこうと思っていて……」
言った直後、「ペナルティ」とカウンターの中から声がした。
その声は藤原さんのものではない。
恐る恐るカウンターの中を覗き見る。と、さっきまで屋上で保険屋さんをしてくれていた司先輩がいた。
「ペナルティって何かしら?」
藤原さんがにこりと笑って尋ねると、先輩は短く「企業秘密」と答えた。
素っ気無く答えた司先輩がカウンターから出てくる。
「……普通に話せてたんじゃない?」
「保険屋さんが後ろに待機してくれていたおかげです」
「俺、保険屋を開業した覚えはないけど。……じゃ、帰るから」
先輩はエレベーターホールへ向かって歩きだした。
「あっ、そこまで送るっ」
慌てて走ろうとしたら、
「御園生さん、私からもペナルティつけちゃうわよ?」
背後から抑揚のある声がかけられた。
「……ごめんなさい、あの――走らないので……行ってきてもいいですか?」
「走らなければよろしい」
にこりと笑んだ藤原さんに見送られる。
早足で先輩の隣に並ぶと、
「別れ際に名前呼んでくれたら許すけど?」
そこまで言われてペナルティの意味がわかった。司先輩、と呼んだことが問題だったのだ。
「ツカサ、ツカサ、ツカサ、ツカサ、ツカサツカサツカサツカサツカサツカサ」
「連呼するな……。カサッカサッて聞こえてくる」
眉間にしわを寄せて嫌な顔をされた。
「わがまま……」
「……普通、名前を呼べって言っても連呼することはないだろ?」
「何回も呼んじゃだめなんて言われてないもの……」
「翠って、ああ言えばこう言う性格なんだ?」
どこか面白そうに笑うと、
「じゃ、おやすみ」
とエレベーターに乗り込んだ。
「ツカサっ、今日はありがとうっ」
言い終わると同時に扉が閉じる。
「ツカサ――なんだか言い慣れない」
男子を呼び捨てで呼ぶこと自体が初めてだった。
どうしてか、閉まってしまったエレベーターのドアから目が離せない。けど、今日あったことをここで思い返すのが得策ではないことくらいはわかる。
「せめて病室へ戻るべき……」
エレベーターから視線を引き剥がし病室へ戻る。と、ベッドに上がって今日あった出来事をひとつひとつ思い返してみた。
午前中は平穏だったけれど、午後は色々あり過ぎた……。
近いうちにお母さんとも会うと話したけれど、どんなタイミングでどんなふうに切り出せばいいのだろう。
唯兄と蒼兄も同じだ。どちらかと言うと、唯兄に会うのが一番楽な気がする。でも、今までの経験上、先住犬ならぬ先住人を優先しないと蒼兄がぐれそう……。
「一度寝てから考えようかな」
なんだか頭の中が混沌としている。
「御園生さん、寝る前の薬」
藤原さんに声をかけられてはっとした。
薬を受け取り飲もうとした瞬間、ふとした疑問が浮かびあがる。
「あの、藤原さん……。私、今日一日、この階で藤原さんと昇さんとしかお会いしていないんですけど……」
「それがどうかした?」
「藤原さんは今からおうちに帰って、それから朝にはあの時間に出勤されるんですか?」
「違うわよ?」
「……そのあたりのカラクリを少々知りたいのですが」
普通、看護師さんは三勤交代だったりする。でも、藤原さんは長時間ここにいる気がするの。
「私、今は十階の一室に住んでいるのよ」
にこりと笑われたけど、一息に呑みこめる内容ではなかった。
「私の区分はほかの看護師とは異なるの。勤務体系も全く別」
そうは言われても、それで納得できるものでもない。
「私は有権者の専属医師なのよ。一応この病院に籍はあるけど、システムには組み込まれていないの。今は雇い主からの命令で御園生さんの専属看護をやっているだけ」
……有権者って、誰……?
「……思いあたる方は静さんしかいないのですが」
「ナンバーツーじゃないわ。はい、この話は終わり」
静さんじゃないなら誰?
この病院をいいように使える人なんて、私が知っている限りでは静さんしかいないのに……。
静さん以外の誰か、は私には想像することができなかった。
お父さんやお母さんは知っているのかな……。
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