上 下
28 / 39

生命救出

しおりを挟む
「購入された商品は明日の午前9時に引き渡しになります」

 司会のドワーフがそう言うと、奴隷達が舞台袖にはけたから俺達も〈学級閉鎖クローズ〉を発動したままホールの裏側へとまわった。

 すると二つの大きな鉄格子があった。

 一つの鉄格子には女性の奴隷達が何百人も入っており、もう一つの鉄格子には男の奴隷も何十人か入っていた。

「鉄格子は俺の砂塵時代でどうにでもなるが、数体の見張り役をどうかいくぐるかだな」

「そうだね、それに日中は人通りが多いから奴隷の方々を解放するのは夜中の方が良いと思う」

 ソラが言った。

「これだけの数の奴隷がドワーフから身を隠しながら渓谷を脱出するのは不可能だな」

 ベルが言った。

「そうだな、渓谷の外へと逃げたと見せかけてどこかで〈無人境セーフゾーン〉でやり過ごす必要がある」

 渓谷を出たら人類の地下道に駆け込むしかないが、身体能力が抜群に高いドワーフ相手にそこまで逃げ切れるわけがない。
 いやまてよ、その必要はないかもしれない。俺は策を思いついた。少し危険だがこれしかない。

 その後、俺達は現在地の座標を確認してホールの客席の地下500mの位置が人類の地下道であることを確認した。

「ベルの〈移動玄関〉でいったんホールの客席へと出て俺の〈無人境セーフゾーン〉を発動して奴隷になってる人達を一時的に待機させよう」

「あとはドワーフに奴隷の方々が渓谷の外へと逃げたと、どう勘違いさせるかだね」

 ソラが言った。

「それなら私の雷分身が使えるが、いくらドワーフでも視界が悪くないと間違わないだろうな」

「私の荒天を使えば視界を悪くできるよ」

「よし、そこに関してはソラとベルのスキルに任せた」

 深夜となり俺達は作戦決行へと動きだした。

-------------------------------
〈水魔法・荒天〉 消費MP:50 残MP:175/225
 天候を荒れ模様にする。効果時間や発動範囲は魔法力に比例する。
-------------------------------
 
 ドワーフは平均的な知能が人類より少し劣る。ホール内にはモニターがなく見張りのドワーフさえ突破できれば奴隷は解放できる。

 まずはホールの客席に俺の〈無人境セーフゾーン〉を発動した。

---------------------------
無人境セーフゾーン〉 消費MP:200 残MP:500/790
---------------------------
 
 ベルの〈移動玄関〉の出口を客席に設置。その後に見張り役の交代をやりとりしているトランシーバーを俺達は倉庫から入手した。

暗黙の了解テレパシー

 多くのスキルは継続効果がありMPを追加で消費しない。

 それぞれの見張り役へとつながる番号が倉庫内の貼り紙にドワーフの文字で書かれている。

 俺は鉄格子の見張り役をしているドワーフに電話した。

「見張りの交代の時間だ」

「まだそんな時間じゃねーぞ」

「隊長からの命令だ」

「……そうか、なら任せた」

 すんなりと見張り役のドワーフをどかすことができた。

 俺達はホールの裏側へと侵入すると鉄格子の前へとやってきた。

 俺は二つの鉄格子に触れた。

---------------------------
〈砂塵時代〉 消費MP:140 残MP:360/790
---------------------------

 鉄格子が砂に変化すると奴隷達は驚き歓喜している。

--------------------------
〈移動玄関〉 消費MP:50 残MP:245/295
--------------------------

「皆さん、この中に入ってホールの座席で待機していて下さい」

 ベルが造った〈移動玄関〉の光り輝く入り口はホールの座席へとつながっている。

 俺は〈砂塵時代〉で壁を粉々にした。

---------------------------
〈砂塵時代〉 消費MP:140 残MP:220/790 
---------------------------
 
 奴隷達が壁を突き破って逃げたとドワーフに誤解させるためのミスリードだ。

〈移動玄関〉で全員をホールの座席へと瞬間移動させると俺達も奴隷達に続いた。

 その時、ホールの裏側からドワーフの雄叫びが聞こえた。奴隷達がいなくなったことに気づいたらしい。

--------------------------------
〈雷魔法・雷分身〉 消費MP:10×10 残MP:145/295
 電気で模られた分身が自動オートで動く。
--------------------------------
 
 奴隷に似せて模られたベルの分身10体が〈無人境セーフゾーン〉から飛び出して建物の外へと駆け抜けて行った。

 それに気付いたドワーフ達も建物を勢いよく飛び出して追いかけて行った。

 ベルの〈雷分身〉がドワーフに見抜かれるのは時間の問題だ。

-------------------------------
〈土魔法・砂漠地獄〉 消費MP:50 残MP:170/790
-------------------------------
 
 俺はホールの客席の床に砂漠地獄を発動した。

「この砂漠地獄に飲み込まれれば人類の地下通路へと出れる、みなさん僕達に続いて下さい!」

 俺はそう言うと砂漠地獄に飛び込んだ。ソラとベルも迷わず飛び込んだ。

 全員の奴隷を逃がすにはこの方法しかない。

 だが奴隷達は戸惑い立ち尽くしている。

「ふざけるな、誰が信じられるか。俺達を生き埋めにする気だろ」

 人類の男の奴隷が言った。

「そうよ、こんな死に方するくらいなら奴隷として生きる方を選ぶ」

 人類の女の奴隷が言った。

「俺達を信じて今すぐ飛び込んでくれ、時間がないんだ」

 俺は最後にそう言うと砂漠地獄に飲み込まれた。息が苦しかったが数秒したら地下通路へと降りられた。ソラとベルもすぐに現れた。

 地下通路が流砂で徐々に溢れていく。

 数十秒ほど待ったが誰も降りてこない。諦めかけた時に一体の獣人が地下通路へと降りてきた。

 頭部からウサギの耳を生やした幼女だ。特徴的な耳以外は人類と全く変わらず髪はピンク色で大きな瞳をしている。

「他の者達はどうした?」

 首を横に振った。どうやら話せないらしい。

「レオ、来なかった者達は致し方ない、諦めろ」

 ベルが毅然と言った。

 俺は土魔法を解いてホールの客席にできた穴を塞いだ。
 地下道にドワーフが入ってくれば人類が大惨事になるかもしれないから致し方ない。

「レオ、この子の親が見つかるまでは一緒にいてあげようよ」

「そうだな、ソラ。とりあえず君のステータス画面を確認させてくれないか」

 獣人の幼女が首を縦に振った。

----------------------------
 ラミ・ポヨルン  年齢:6 Lv:1 魔法属性:草
----------------------------
 
「ラミって名前なんだ、よろしくね」

 俺がラミの頭をぽんぽんしたら笑顔になった。
 
 俺達はラミを交代でおんぶしながら地下道を3日かけて歩くと、人類が暮らす巨大シェルターが見えてきた。

 シェルター内へと入る扉を開けるとけたたましい爆撃音が聞こえた。

 地下街が魔獣からの襲撃で大炎上していた……
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,026pt お気に入り:1,310

処理中です...