シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

1242 星暦558年 黄の月 26日 頼まれごと(5)

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 アンディが来た次の日に王都を出て、蒼流に至急という事で頑張って貰ったら3日でパストン島近辺にまでに辿り着いた。

 で、海の上に存在する船を確認するための手段として色々と蒼流とシャルロが話し合っていたのだが、その成果が目の前の甲板の後部一面に展開されている。

 氷で出来た、空から見た海岸線の模型のようなモノだ。
 海と海岸線と島しかないが、パストン島からジルダス、ケッパッサの地形は記憶にある形があちこちにあり、更にその先にずっと広がっているのが南の方の海岸線なのだろう。
 海岸から離れたところにちょこちょこ島がある。パストン島とアレグ島の他にも意外と島があるようだ。

『紫の水玉があるところに近海用漁船以上の大きさの木材の塊が海の上に浮いている』
 蒼流の言葉通り、言われてみると白い氷の模型の上に紫色の水玉があちこちにある。
 ジルダスは海が紫色に染まる勢いだし、ケッパッサにもそこそこある。南下した先にもいくつか木材(船)が大量に集まっているところがあるが、それらは南方の交易都市なのだろう。

 精霊に地図の上で地形の確認や船の場所を示すことを頼んでもどうしても意思の疎通が難しいので、空滑機《グライダー》から見た地形っぽい形で模型を作れないかとシャルロが頼んだ結果がこれなのだが……これって世界中の海図が一気に描けちゃわないか?
 東大陸への新規航路を探す際に、これをやれば一発だったのに。
 上から見るだけじゃあ海流の場所とかは分からないが、それだって蒼流か清早に頼めば分かる形で付け加えられそうだし。

 この地図の利用価値が大きすぎそうで怖いが……公表しない方が良いんだろうなぁ。
 それこそアファル王国の海岸線をこの精密度で地図に描きだせたら、密輸船とかが使う目立ちにくい上陸場所とかが一気にばれまくって摘発が進みそうだ。

「流石に大量に船が集まっているところまで辿り着いていたら何らかの連絡を寄せられただろうから、まだガヴァール号が沈んでいないとしたらそれ以外の場所だろうな」
 アレクがじっくりと模型を見ながら呟く。
 この模型の存在価値に関しては何も言わないことにしたようだ。
 今回は急ぎだったからズロクナも同行していないので東大陸に着いた際の交渉事とかがあったら面倒そうだな~と思っていたが、良かったかも。

「取り敢えず、海岸沿いに南下しながら海側に居る船を空滑機《グライダー》で確認して回ろうか。
 船の名前を双眼鏡で確認して回れば良いかな?」
 シャルロが言う。

「そうだな。適当にブロックに分けて順番に当番制っぽい感じで確認して回るか。
 小さな港町っぽいところに居る船に関してはどうする?」
 辺鄙な港町で船員と魔術師が何らかの形で捕らわれている可能性もゼロではない。
 一応金も補給用の食料も十分に積んである筈だし、浄水用魔具だって載せてあるという話だが、何らかの理由で固定式通信機もないような小さな漁村に補給に寄る羽目になり、更に何らかの理由で金が無くて補給できず、魔術師が働いて補給に必要な資金を稼いでいる可能性も……無いとは言えない。

 かなりあり得ないとは思うけどさ。
 まあ、船長にでも金と食料を持ち逃げされたとか?
 もっとも、それをするんだったら魔術師や商業ギルドや国の人間を薬を盛って眠らせた上で船から海に突き落とし、船の名前を書き換えて別の国で交易船にでもなる方が現実的な気はするが。

 というか。
「考えてみたら、船を奪われた場合だったら名前を適当に書き換えてある可能性もあるだろう?
 形が情報通りな船で名前の辺のペンキが妙に新しいとか文字が歪んでいるようなのだったら要注意かもだな」
 航海中の船で船名を書き換えるのって多分それなりに大変だろう。

「怪しいのは蒼流にでも中に魔具の部品が載っていないか確認してもらってもいいかもね。
 取り敢えず、じゃあまずこっちの紫の点3つを見てくるね」
 シャルロが上着を手に取りながら空滑機《グライダー》の方へ向かった。

 さて。
 一応、目的地だった南方のゼリッタとかいう港町までの途中とその周辺を調べれて見つからなかったら沈没したんだろうと見做すって契約だが……考えてみたら、どの港がゼリッタなのか、この模型じゃあ分からんな。
 海図の港の場所と比較するとしたのこっちかこれだと思うんだが、近づいたら一度入港して調べる必要がありそうだ。




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