1,285 / 1,309
卒業後
1284 星暦558年 橙の月 24日 保存(5)
しおりを挟む
シャルロとアレクを先に歩かせて、俺がさりげなく数歩遅れたところを他人のふりをして歩く。
シャルロはお坊ちゃん丸出しだし、アレクもそれなりに良い商家の人間っぽいから、スリを誘き寄せるには最適なんだよね。見知らぬ街の道案内をさっさとゲットするのに、向いている。
そこに俺が一緒に居ると警戒されるのか、狙われる確率がぐっと下がるんだよね。
どちらにせよ、後ろから歩いている方が狙ってきたガキを捕まえやすいし。
という事で二人があちこちの店を覗き込みながら歩いていたら、2件目の店を出たところでどうやら狙いを付けられたっぽい感触があった。
右側の裏通りの出口からこっそり熱心にかつ別の方向を見ているふりをしながら貧しそうな格好のガキが、二人の様子を伺っている。
うん、まだそこそこ若くてすれてなさそうだから、あれで良いかな。
元々、スリっていうのは夜にふらふら歩いている連中をぶん殴ってひったくりや強盗が出来ない小柄なガキが育つまでの間にやる仕事に近い。
大人になったのにスリになっているようなのは腕がいい上に色々とコネがありすぎて下手に関りを持つと危険な罠に誘い込まれかねないし、こちらを向こうの都合がいい様に誘導しようとする。
ガキの方がある程度は用心深くて情報を集めているにしても、金を貰えたらそれに応じて情報を出す単純な取引で満足するから安全なんだよな。どうせ儲けすぎてもその大半を縄張りで幅を利かせている大人に奪われるし。
大人になると欲をかいて大金を手に入れてもそれを奪われない自信があるから、欲張りになる。
まあ、そのせいであっさりナイフを背中(もしくは正面から)刺されて道に転がることになるスラムの人間は多いんだけどな。
俺がスラムにいた時期だって、金が足りなくて餓死や凍死したガキは多かったし、金を持っているせいで大人に目を付けられ、奪われるのをうっかり抵抗して殺される子供もうんざりする程いたが、ナイフで刺されて殺されるのは大人の方が多かった。
それでもスラムで成人できるガキは少ないけど。
そう考えると、ジルダスやケッパッサのスラムから少年を少しずつパストン島に連れて行っているのって、善行だよなぁ。
まあ、それはさておき。
さりげなくシャルロに近寄ってポケットに手を伸ばしたガキの腕をつかむ。
「こらこら、何をやっている。
人の財布に手を伸ばすのは危険な行為だと教わらなかったのか?」
ぎょっと一瞬身を竦めて逃げようとしたガキの腕をしっかり握ったまま軽く曲げることで振り払えないようにしながら声を掛ける。
「離せ!
ちょっとぶつかりそうになっただけだろう!」
ガキがわめく。
「いや、ぶつかりそうになっても手をポケットに延ばさんだろう。
ぶつかるのはわざとらしくてダメだが、手の伸ばし方がちょっと目立ったぞ。
まあ、それはさておき。
俺たちはこの町に馴染みがないんだ。
俺たちが求めるような品揃えと値段が良心的な良い店を紹介してくれたら、警吏に突き出さない上に昼食を買ってやるし、最後に銅貨3枚出してやるぞ」
ガキに提案する。
銀貨1枚出したって別に大した出費じゃないし、良い店を教えてくれたらボーナスを出してもいいのだが、それほど腕の良くないスラムのガキが銀貨1枚を貰っても碌なことにはならない。
「……本当か?」
ガキが暴れるのを止めて俺を疑わしそうに睨んだ。
「お昼は屋台だけどね~。
美味しい屋台を教えてくれたら、君の分も買ってあげるよ?
色んな商品を良心的な値段で置いている良い店を教えてくれたら、夕方に解散する前に売れ残りがある屋台で追加でちょっとオマケを買い上げて渡してあげてもいいかも?」
シャルロがニコニコしながら付け足す。
こう云う時ってアレクよりもシャルロの方が交渉が上手くいくんだよな。
やっぱおっとり大らかなお坊ちゃんな様子に安心感があるんだろう。
「分かった。
手を放せよ」
じろっと俺を見ながらガキが要求する。
「ちなみに俺たちは魔術師だ。
未遂のスリ程度を根に持つつもりはないが、合意した交渉を破られるのは腹が立つからな。
案内が終わったら、その髪の毛の色を元に戻してやろう」
擬態《イルズ》の術の変型版でガキの髪の毛を物凄く目を引く赤に変えてから、手を放す。
ぼさぼさな前髪が視界に入ったのが、ガキがびっくりしたようにそれを指で引っ張ってみた。
「なんだこれ?!」
「お前が逃げないための保険さ。
俺たちを案内する分には目立つ髪の色でも構わないだろ?」
この色じゃあ記憶に残りすぎて絶対にスリとしては働けないが。
分かれるときにちゃんと術を解除すると言ってあるから、これで途中で逃げようとしなくなるだろう。
逃げても10日程で術が勝手に解けるけど、そんなことは知らない筈。
シャルロはお坊ちゃん丸出しだし、アレクもそれなりに良い商家の人間っぽいから、スリを誘き寄せるには最適なんだよね。見知らぬ街の道案内をさっさとゲットするのに、向いている。
そこに俺が一緒に居ると警戒されるのか、狙われる確率がぐっと下がるんだよね。
どちらにせよ、後ろから歩いている方が狙ってきたガキを捕まえやすいし。
という事で二人があちこちの店を覗き込みながら歩いていたら、2件目の店を出たところでどうやら狙いを付けられたっぽい感触があった。
右側の裏通りの出口からこっそり熱心にかつ別の方向を見ているふりをしながら貧しそうな格好のガキが、二人の様子を伺っている。
うん、まだそこそこ若くてすれてなさそうだから、あれで良いかな。
元々、スリっていうのは夜にふらふら歩いている連中をぶん殴ってひったくりや強盗が出来ない小柄なガキが育つまでの間にやる仕事に近い。
大人になったのにスリになっているようなのは腕がいい上に色々とコネがありすぎて下手に関りを持つと危険な罠に誘い込まれかねないし、こちらを向こうの都合がいい様に誘導しようとする。
ガキの方がある程度は用心深くて情報を集めているにしても、金を貰えたらそれに応じて情報を出す単純な取引で満足するから安全なんだよな。どうせ儲けすぎてもその大半を縄張りで幅を利かせている大人に奪われるし。
大人になると欲をかいて大金を手に入れてもそれを奪われない自信があるから、欲張りになる。
まあ、そのせいであっさりナイフを背中(もしくは正面から)刺されて道に転がることになるスラムの人間は多いんだけどな。
俺がスラムにいた時期だって、金が足りなくて餓死や凍死したガキは多かったし、金を持っているせいで大人に目を付けられ、奪われるのをうっかり抵抗して殺される子供もうんざりする程いたが、ナイフで刺されて殺されるのは大人の方が多かった。
それでもスラムで成人できるガキは少ないけど。
そう考えると、ジルダスやケッパッサのスラムから少年を少しずつパストン島に連れて行っているのって、善行だよなぁ。
まあ、それはさておき。
さりげなくシャルロに近寄ってポケットに手を伸ばしたガキの腕をつかむ。
「こらこら、何をやっている。
人の財布に手を伸ばすのは危険な行為だと教わらなかったのか?」
ぎょっと一瞬身を竦めて逃げようとしたガキの腕をしっかり握ったまま軽く曲げることで振り払えないようにしながら声を掛ける。
「離せ!
ちょっとぶつかりそうになっただけだろう!」
ガキがわめく。
「いや、ぶつかりそうになっても手をポケットに延ばさんだろう。
ぶつかるのはわざとらしくてダメだが、手の伸ばし方がちょっと目立ったぞ。
まあ、それはさておき。
俺たちはこの町に馴染みがないんだ。
俺たちが求めるような品揃えと値段が良心的な良い店を紹介してくれたら、警吏に突き出さない上に昼食を買ってやるし、最後に銅貨3枚出してやるぞ」
ガキに提案する。
銀貨1枚出したって別に大した出費じゃないし、良い店を教えてくれたらボーナスを出してもいいのだが、それほど腕の良くないスラムのガキが銀貨1枚を貰っても碌なことにはならない。
「……本当か?」
ガキが暴れるのを止めて俺を疑わしそうに睨んだ。
「お昼は屋台だけどね~。
美味しい屋台を教えてくれたら、君の分も買ってあげるよ?
色んな商品を良心的な値段で置いている良い店を教えてくれたら、夕方に解散する前に売れ残りがある屋台で追加でちょっとオマケを買い上げて渡してあげてもいいかも?」
シャルロがニコニコしながら付け足す。
こう云う時ってアレクよりもシャルロの方が交渉が上手くいくんだよな。
やっぱおっとり大らかなお坊ちゃんな様子に安心感があるんだろう。
「分かった。
手を放せよ」
じろっと俺を見ながらガキが要求する。
「ちなみに俺たちは魔術師だ。
未遂のスリ程度を根に持つつもりはないが、合意した交渉を破られるのは腹が立つからな。
案内が終わったら、その髪の毛の色を元に戻してやろう」
擬態《イルズ》の術の変型版でガキの髪の毛を物凄く目を引く赤に変えてから、手を放す。
ぼさぼさな前髪が視界に入ったのが、ガキがびっくりしたようにそれを指で引っ張ってみた。
「なんだこれ?!」
「お前が逃げないための保険さ。
俺たちを案内する分には目立つ髪の色でも構わないだろ?」
この色じゃあ記憶に残りすぎて絶対にスリとしては働けないが。
分かれるときにちゃんと術を解除すると言ってあるから、これで途中で逃げようとしなくなるだろう。
逃げても10日程で術が勝手に解けるけど、そんなことは知らない筈。
11
あなたにおすすめの小説
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる