シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

352 星暦553年 橙の月 25日 これも後始末?(12)

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街中が、人で溢れていた。
「凄い人混みだな」
一緒に歩いている青(とファルータ裏ギルドの人間)に声を掛ける。

祭りを楽しみに来た人も多いが・・・軍人や裏ギルドの人間も凄く多い。
何が何でも自分の婚約に関連する祭りで騒ぎを起こさせまいと思っているのか、それとも認知はしていないものの自分の息子の新公爵としての初の公務を成功させようと思っているのか。

誰のどういう思惑なのか知れないが、取り敢えずもの凄い人数の軍人が投入されている。

情報関連の第3騎士団だけではないだろう。
全ての軍部付属の魔術師と少なくない人数の騎士が来ているような印象だ。

まあ、その分魔術院の人間は特に見かけないように思うが。
代わりに、王都の守りを任せているのかな?

魔術院に、本部がある王都の守りをよろしくね~と言うのに特に説明は要らないだろうが、王都を放置してファルータ領を守れと命じるとなったらどうしても説明が必要だからね。

その点、軍部だったら『諜報部からの情報』という一言で、上が承認すれば人を動かせる。

「やべ!」
見覚えのある姿を見て、思わず物陰に隠れた。

「どうした?」
青が面白げに柱の後ろに隠れた俺の姿を見て尋ねてきた。

「魔術学院の先輩で軍部に入った人間を見つけたんだよ。
こんなところで、あんた達と何で歩いているんだって聞かれたくない」
ダレン・ガイフォードも俺に関してそれなりに調べている可能性は高い。

なんと言っても、盗賊シーフギルド経由で呪の解除の依頼を請けているのだ。
俺が裏ギルドに縁を持つことぐらいは分かっているだろうし、少なくともあの依頼の後に俺がどの位ギルドに深入りしているのか、調べただろう。

だが。
それでも、出来ることならばここで何故で俺が裏ギルドに協力しているのかは、聞かれたくない。

「これだけ軍部の人間も出張っていれば、街の中心部は大丈夫だろう。
もう少し人が少ない部分を見て回ろうぜ」

心眼サイトの焦点を少しぼやかして、広範囲で魔術師の人間を探知し、それらの人間がいない方向へと足を進める。

そうだ。
これだけ軍部や裏ギルドの魔術師がうろついているんだったら、事が起きても俺が手伝わなくても何とかなるだろう。

探知ならまだしも、有事の際の対応に関しては俺は素人だ。
プロの軍人達がよっぽど効率的に素早く対処できるだろう。

そしてこれだけ人に溢れていると、俺の心眼《サイト》をもってしても道端や屋台の中に隠されている破壊用魔道具を見つけ出すのは難しい。

「まあ、そうだな。
一応俺たちの仕事は昨日までで終わってはいるし」
青が肩を竦めながら同意した。

・・・と言うか、俺と一緒に居て、軍人に質問されたくないんだろ?
まあ、ダレン先輩に見つかったらさっさと他人の振りをして離れていくだろうけど。

「こちらはスラムになるが、良いのか?」
適当に足を進める俺に、裏ギルドの人間が聞いてきた。

良いも悪いも無い。
魔術師が巡回していないのはこっち方面か、もっと街の外周部しか無いんだよ。
「スラムで火を起こせば直接的な被害は少ないかも知れないが、下手をすると手を付けられない規模に炎が広がったりするかも知れないからな。
調べても、良いんじゃないか?」

スラムの住居環境は元から劣悪なので、ある意味ここの人間が焼き出されて街の外でテント暮らしすることになっても誰にとっても大した影響は無いかもしれない。
だが、風向きによってはスラムから発生した火事が勢いを得て、手に負えない大火事になって街の中心部を襲うなんて事になる可能性もある。

そうじゃなくっても、流石にスラムから火事の煙が上がっていたらパレードとか、祭りを暢気に楽しめないだろうし。

そんなことを考えながら、魔術師がいない範囲を効率的に出来るだけ広くカバーしようと適当に歩いていて、ふと魔道具の光が目に入った。

え、まじ?

思わず、立ち止まって凝視してしまった。
「どうした?」

青の声を無視して、ボロい荒ら屋の扉を蹴り破り、中に入る。
スラムで、しかもこんなボロい家に住んでいるんだ。
例え住民が真っ当に魔道具を持っているんだとしても裏ギルドの人間だろうから文句は言われないだろう。

ある意味予想通り、荒ら屋の中に人は居ない。
が、壊れた家具やゴミが積み上げられていて、部屋の中へ入れないようになっている。

黒だな。
どう考えても、こんなところに建物の入り口からのルートを塞いで魔道具を設置する理由なんて無いだろ。

「何か、魔道具がある」

裏ギルドの男が慌てて外に行って、人手を集めているのが聞こえた。
どうやらここは裏ギルド関連の人間の家でもないようだな。

あ~あ。
今日は何も無いことを祈っていたんだけどなぁ。

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